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第八話 封じられた記録
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神崎の言葉が、耳にこびりついて離れなかった。
──造られた存在。
俺が人間ではなく、妖怪の一部が人の姿を取ったもの。 その可能性を、あの男は口にした。
だが、そんな馬鹿な話があるか。 俺は確かに生きてきた。 学校に通い、社会に出て、こうして三十五年を積み重ねてきたはずだ。
……なのに、あのアルバムの空白は何だ? あの曖昧な記憶は?
答えが欲しかった。 俺が本当に何者なのかを知るために。
神崎に頼み込み、古い記録を調べてもらった。 妖怪絡みの事件は、時に公的な資料に「事故」「災害」として処理されるという。 その裏側の記録が、退魔師たちの手元には残されているらしい。
数日後、神崎が厚いファイルを持って現れた。 茶色い封筒に収められたそれを机に置き、無言で俺に差し出す。
「……お前のことを直接示すものじゃない。ただ、妙に気になる記録だ」
震える手で封筒を開ける。 中には、黄ばんだ報告書が綴じられていた。
【平成四年、東京都郊外にて発生した集団失踪事件】
日付を見て、息が止まった。 平成四年──俺が十歳の頃だ。
報告書にはこう記されていた。
児童を含む十数名が、夜間キャンプ中に一斉に行方不明。 翌朝、現場には誰一人残っていなかった。 テントは無傷、荷物もそのまま。 生存者はゼロ。
震える指で次のページをめくる。
ただし、例外が一名。 「佐伯涼介」と名乗る少年が現場で発見された。 記憶は曖昧で、事件の詳細は不明。 以後、親族に引き取られ、通常の生活に戻った。
「……俺……?」
喉が焼けるように乾いた。 十歳の俺が、唯一の生存者? そんな記憶はない。 家族旅行や友達と遊んだ記憶はある。だが、その“キャンプの夜”は、すっぽり抜け落ちている。
神崎が低く言った。
「お前が“造られた”とすれば、この事件が発端だろう。……他の子供たちの魂を喰らい、代わりに生まれた存在。そう考えれば辻褄が合う」
「やめろ……」
声が震えた。 認めたくなかった。
だが、報告書は残酷なまでに事実を突きつける。 発見された“佐伯涼介”の証言。
──「気づいたら、みんな消えていた」
それ以外、何も語らなかったと。
夜。 一人きりの部屋で、報告書を抱えながら膝を抱え込む。
十歳の俺は、誰だった? あの日、本当に生き残ったのは“人間の佐伯涼介”だったのか? それとも──子供たちを喰らって生まれた、別の存在だったのか?
窓に映る自分の顔を見つめる。 そこには確かに俺がいる。 だが、その奥で誰か別のものが微笑んでいるように思えた。
「……俺は……何なんだ」
声が闇に溶ける。 そのとき。
背後から囁きが聞こえた。
「思い出せ……お前は、あの夜に生まれた」
振り返る。 部屋の隅の影が、人の形を成していた。
声は続く。
「だから、お前は喰われない。喰う側だからだ」
言葉が頭を貫いた瞬間、全身から血の気が引いた。
俺は本当に──人間をやめているのか。
──造られた存在。
俺が人間ではなく、妖怪の一部が人の姿を取ったもの。 その可能性を、あの男は口にした。
だが、そんな馬鹿な話があるか。 俺は確かに生きてきた。 学校に通い、社会に出て、こうして三十五年を積み重ねてきたはずだ。
……なのに、あのアルバムの空白は何だ? あの曖昧な記憶は?
答えが欲しかった。 俺が本当に何者なのかを知るために。
神崎に頼み込み、古い記録を調べてもらった。 妖怪絡みの事件は、時に公的な資料に「事故」「災害」として処理されるという。 その裏側の記録が、退魔師たちの手元には残されているらしい。
数日後、神崎が厚いファイルを持って現れた。 茶色い封筒に収められたそれを机に置き、無言で俺に差し出す。
「……お前のことを直接示すものじゃない。ただ、妙に気になる記録だ」
震える手で封筒を開ける。 中には、黄ばんだ報告書が綴じられていた。
【平成四年、東京都郊外にて発生した集団失踪事件】
日付を見て、息が止まった。 平成四年──俺が十歳の頃だ。
報告書にはこう記されていた。
児童を含む十数名が、夜間キャンプ中に一斉に行方不明。 翌朝、現場には誰一人残っていなかった。 テントは無傷、荷物もそのまま。 生存者はゼロ。
震える指で次のページをめくる。
ただし、例外が一名。 「佐伯涼介」と名乗る少年が現場で発見された。 記憶は曖昧で、事件の詳細は不明。 以後、親族に引き取られ、通常の生活に戻った。
「……俺……?」
喉が焼けるように乾いた。 十歳の俺が、唯一の生存者? そんな記憶はない。 家族旅行や友達と遊んだ記憶はある。だが、その“キャンプの夜”は、すっぽり抜け落ちている。
神崎が低く言った。
「お前が“造られた”とすれば、この事件が発端だろう。……他の子供たちの魂を喰らい、代わりに生まれた存在。そう考えれば辻褄が合う」
「やめろ……」
声が震えた。 認めたくなかった。
だが、報告書は残酷なまでに事実を突きつける。 発見された“佐伯涼介”の証言。
──「気づいたら、みんな消えていた」
それ以外、何も語らなかったと。
夜。 一人きりの部屋で、報告書を抱えながら膝を抱え込む。
十歳の俺は、誰だった? あの日、本当に生き残ったのは“人間の佐伯涼介”だったのか? それとも──子供たちを喰らって生まれた、別の存在だったのか?
窓に映る自分の顔を見つめる。 そこには確かに俺がいる。 だが、その奥で誰か別のものが微笑んでいるように思えた。
「……俺は……何なんだ」
声が闇に溶ける。 そのとき。
背後から囁きが聞こえた。
「思い出せ……お前は、あの夜に生まれた」
振り返る。 部屋の隅の影が、人の形を成していた。
声は続く。
「だから、お前は喰われない。喰う側だからだ」
言葉が頭を貫いた瞬間、全身から血の気が引いた。
俺は本当に──人間をやめているのか。
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