青白の覚醒 〜影を超えし者〜

相野リキ

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第九話 呼び声

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失踪事件の記録を読んでから、俺の世界は軋み続けていた。
アルバムにない記憶、空白の十歳。
そして──「造られた存在」という言葉。
信じたくない。
だが、影の囁きが耳を離れない。
──お前は喰う側だ。

神崎に全てを話した。
影に囁かれたことも、報告書の衝撃も。
彼は黙って聞き、やがて腕を組んで低く唸った。
「やはり……背後に“幹部”がいるな」
「幹部……?」
「妖怪の世界にも階層がある。小物は人を食うだけだが、上位の存在は目的を持ち、計画的に動く。……お前を造ったのは、その幹部の一人だろう」
吐き気がした。
俺が何者かもわからないのに、さらに誰かの手で作られた人形だと言うのか。
神崎は続ける。
「普通なら、そのまま器にすぎないはずだった。だが──お前は自我を持ち、人間として生きてきた。……それが奴らにとって想定外なんだろう」
想定外。
つまり、俺は失敗作なのか。
それとも、まだ“完成”していないのか。
考えれば考えるほど、足元が崩れていく感覚に襲われた。

その夜。
帰宅途中の道で、背筋が凍った。
人通りの少ない路地。
アスファルトに濡れたような影が広がっていく。
月明かりがあるのに、そこだけが異様に暗い。
「……やっと見つけた」
低く響く声。
影から現れたのは、長身の男の姿をした“何か”だった。
髪は白く、眼は真紅に光る。
人間の形をしているが、その存在感は明らかに異質だ。
「お前が……涼介か」
「……誰だ、お前は」
声が震える。
男は薄く笑った。
「名乗る必要はない。ただ……私が“お前を造った”存在の一人だとだけ言っておこう」
鼓動が跳ねる。
頭の奥で警鐘が鳴り響く。
「なぜ俺を……?」
「簡単な話だ。お前は器だ。我らの力をこの世に留めるための、完成された依代。だが……お前は人間としての記憶を持ち、自我を得てしまった」
赤い眼が俺を射抜く。
「その誤算が、興味深い」
言葉が突き刺さる。
器。依代。
俺の人生は、誰かの目的のための虚構だったというのか。
「……ふざけるな……俺は……俺は俺だ!」
叫ぶと同時に、男の影が触手のように伸び、俺の体を絡め取ろうと迫る。
息が詰まる。
抗うが、全身が重く、動けない。
そのとき、鋭い光が闇を裂いた。
「退けッ!」
神崎の放った札が閃光を放ち、影を弾き飛ばす。
男は一歩後ずさり、余裕の笑みを浮かべた。
「まだ目覚めていないか……ならば、いずれ必ず。お前は逃れられん」
そう告げ、影の中へと溶けて消えた。

残された俺は、膝をついたまま呼吸を整える。
神崎が駆け寄り、肩を支えた。
「……大丈夫か」
「今の……あいつが……俺を造った……?」
神崎は唇を噛んだまま、答えなかった。
だが、その沈黙が何より雄弁に感じられた。
俺は震える手で顔を覆った。
自分が人間かどうかもわからない。
今の男の言葉が真実なら、俺はいつか“目覚めて”しまう。
そのとき──俺は、俺でいられるのだろうか。
夜風が冷たく頬を刺す。
だが、それ以上に胸の奥に広がる寒気が、俺を蝕んでいった。
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