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第十話 目覚めかける力
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夜の街は静かだった。
ネオンの光がビルの壁に反射し、無数の影を作り出している。
その中で、俺だけが──影を持たなかった。
数日前から、体の奥で違和感が芽生えていた。 胸の奥、腹の奥、どこか分からない場所で、何かがうごめいている。 それは生命でもなければ、単なる感情でもない。 ──もっと古く、もっと強い何か。
帰宅途中、俺の前に小さな子供が立ちはだかった。 夜道を一人で歩く子供にしては不自然に冷たく、目が真っ黒だった。
「……?」
声をかける前に、子供の影が蠢き、空間をねじ曲げる。 地面に落ちた影が触手のように伸び、俺の足元を巻き取ろうとする。
咄嗟に体が反応した。 腕を振り上げると、何もないはずの空間から青白い光が迸った。 触手が弾け、爆ぜるような音が響く。
驚いて後ずさる俺の手は、制御できない力を生み出していた。 ──俺は、知らぬ間に妖怪を撃退していたのだ。
子供の姿は煙のように消え、代わりに背後の路地が崩れた影で埋め尽くされる。 恐怖と戦慄が全身を駆け抜ける。 ──これは、俺の力なのか?
帰宅して神崎に連絡した。 彼はすぐに部屋に現れ、深刻な顔で俺を見下ろした。
「……ついに来たか」
「来たって……?」
「お前の中の力だ。抑えられずに表面化し始めた。……これは危険だ」
「危険……って、俺が?」
神崎は頷き、符を取り出した。 机の上に置かれるそれは、昨日のような攻撃用ではなく、防御の構えに見えた。
「お前の力は、普通の妖怪や人間には想像もつかないものだ。抑えきれなければ──自分を含む全てを喰らう可能性がある」
その言葉を聞き、背筋が凍った。 俺は一人で、この力を制御できるのか?
その夜。 ベッドに横たわり、目を閉じる。 意識を集中すると、胸の奥で何かが蠢くのを感じた。 目を開けると、部屋の影がうねり始める。 壁紙が裂け、天井が溶け、床が波打つ。
「……やめろ……!」
声は届かない。 力は俺の意思を無視して暴れまわる。 思考が追いつかないまま、体が勝手に動く。
窓の外の街灯が一斉に揺れ、風が巻き上がる。 俺の掌から、光の渦が生まれ、部屋を包み込む。 光は黒い影を飲み込み、形を変え、叫び声だけが虚空に響いた。
そして──すべてが静まる。
床には焦げた跡が残り、部屋の空気は重く澱んでいる。 だが、恐ろしいことに、俺は無傷だった。 ──生き残ってしまった。
神崎が駆け込んできた。 息を切らせ、肩で荒い呼吸をする。
「……佐伯、落ち着け」
俺は震える声で答える。
「……制御できなかった……でも、やった……」
「“やった”じゃない」
神崎の声は低く、鋭い。 瞳に恐怖が宿る。
「お前は……お前自身の力に飲まれかけている。それがどういう意味か分かるか?」
「……死ぬ、のか?」
「お前だけじゃない。周囲の全てを巻き込む。──制御できなければ、人も、妖怪も、世界さえ、喰われる」
胸の奥で、力がまだ蠢いている。 まるで生き物のように、俺を支配しようとする。
──俺は、これからどうなるのか。 人間として生きられるのか。 それとも、空っぽのまま、何かに変わってしまうのか。
恐怖と戦慄が混ざった中で、俺の心は一つの結論にたどり着いた。
「……逃げられない……俺は、戦うしかない」
だが、胸の奥の力は笑うように蠢き、次の瞬間にはどこまで暴走するか分からなかった。
世界の均衡を揺るがすかもしれない、俺の目覚めかけた力。 その恐怖が、夜の闇をさらに深く沈ませた。
数日前から、体の奥で違和感が芽生えていた。 胸の奥、腹の奥、どこか分からない場所で、何かがうごめいている。 それは生命でもなければ、単なる感情でもない。 ──もっと古く、もっと強い何か。
帰宅途中、俺の前に小さな子供が立ちはだかった。 夜道を一人で歩く子供にしては不自然に冷たく、目が真っ黒だった。
「……?」
声をかける前に、子供の影が蠢き、空間をねじ曲げる。 地面に落ちた影が触手のように伸び、俺の足元を巻き取ろうとする。
咄嗟に体が反応した。 腕を振り上げると、何もないはずの空間から青白い光が迸った。 触手が弾け、爆ぜるような音が響く。
驚いて後ずさる俺の手は、制御できない力を生み出していた。 ──俺は、知らぬ間に妖怪を撃退していたのだ。
子供の姿は煙のように消え、代わりに背後の路地が崩れた影で埋め尽くされる。 恐怖と戦慄が全身を駆け抜ける。 ──これは、俺の力なのか?
帰宅して神崎に連絡した。 彼はすぐに部屋に現れ、深刻な顔で俺を見下ろした。
「……ついに来たか」
「来たって……?」
「お前の中の力だ。抑えられずに表面化し始めた。……これは危険だ」
「危険……って、俺が?」
神崎は頷き、符を取り出した。 机の上に置かれるそれは、昨日のような攻撃用ではなく、防御の構えに見えた。
「お前の力は、普通の妖怪や人間には想像もつかないものだ。抑えきれなければ──自分を含む全てを喰らう可能性がある」
その言葉を聞き、背筋が凍った。 俺は一人で、この力を制御できるのか?
その夜。 ベッドに横たわり、目を閉じる。 意識を集中すると、胸の奥で何かが蠢くのを感じた。 目を開けると、部屋の影がうねり始める。 壁紙が裂け、天井が溶け、床が波打つ。
「……やめろ……!」
声は届かない。 力は俺の意思を無視して暴れまわる。 思考が追いつかないまま、体が勝手に動く。
窓の外の街灯が一斉に揺れ、風が巻き上がる。 俺の掌から、光の渦が生まれ、部屋を包み込む。 光は黒い影を飲み込み、形を変え、叫び声だけが虚空に響いた。
そして──すべてが静まる。
床には焦げた跡が残り、部屋の空気は重く澱んでいる。 だが、恐ろしいことに、俺は無傷だった。 ──生き残ってしまった。
神崎が駆け込んできた。 息を切らせ、肩で荒い呼吸をする。
「……佐伯、落ち着け」
俺は震える声で答える。
「……制御できなかった……でも、やった……」
「“やった”じゃない」
神崎の声は低く、鋭い。 瞳に恐怖が宿る。
「お前は……お前自身の力に飲まれかけている。それがどういう意味か分かるか?」
「……死ぬ、のか?」
「お前だけじゃない。周囲の全てを巻き込む。──制御できなければ、人も、妖怪も、世界さえ、喰われる」
胸の奥で、力がまだ蠢いている。 まるで生き物のように、俺を支配しようとする。
──俺は、これからどうなるのか。 人間として生きられるのか。 それとも、空っぽのまま、何かに変わってしまうのか。
恐怖と戦慄が混ざった中で、俺の心は一つの結論にたどり着いた。
「……逃げられない……俺は、戦うしかない」
だが、胸の奥の力は笑うように蠢き、次の瞬間にはどこまで暴走するか分からなかった。
世界の均衡を揺るがすかもしれない、俺の目覚めかけた力。 その恐怖が、夜の闇をさらに深く沈ませた。
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