カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

文字の大きさ
94 / 307
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(8)

接近遭遇(1)

しおりを挟む
「おっと、すみません」

「あら♪ いえいえ、コチラこそ~」

ツヅキは商館を出ようとして、中に入ってきた女性と鉢合わせする形になった。
もう少しで相手の、少々主張が強い胸に体当たりするトコロだった。惜しい。
などと考えながらも、その横を通り抜けようとするツヅキに、後ろからメイが言う。

「ちょっと、なに先に出ようとしてんのよ。レディファーストしてあげなさいな」

「あらあら~、別に構いませんよ♪」

「いや、どうぞ」

ツヅキが一歩引くと、ぶつかりかけた女性に続き、女の子とボーイッシュな女性、最後にタンクトップにホットパンツ姿の女性が入ってきた。
最後の女性と目が合う。

「ゴメンね! 出るトコを」

「いえ……」

女性が片手を上げて、謝るジェスチャーをした。
ツヅキたちも外に出る。

「茶舗の敷地外に出るのは久しぶりだな」

「油断しないでよね。ココからはもう戦いなんだから」

「ウィーとカップは?」

「ウチの屋敷の敷地内で合流予定よ。ぞろぞろ歩くよか、良いと思って」

確かに、と思いつつツヅキはふと気づく。
何も考えず言われるまま出てきてしまったが、変装とかしなくてよかったのだろうか。

「変装は必要ないわよ。オートラグは今日は別の用事で忙しいから」

「別の用事?」

「デル・ゾーネ内に、他国の旅団が侵入したらしいわ」

「え。ソレって大丈夫なのか」

「大丈夫なワケないでしょ。そりゃあもし遭遇したら、やり合う必要はあるけどね。向こうもワザワザ敵国内でドンパチ始めたくはないでしょ」

「まあでも、オートラグとしては見つける必要があるってコトか。俺たちは?」

「先に進むわ」


◇◇◇


経済区域を抜け、商店区域を歩くメイとツヅキ。
メイの、ペイルンオーリン家の屋敷へ行くには、実は商店区域を抜けるのは遠回りだ。
しかし、オートラグの手先から身を少しでも隠しながら進むには、商店区域の人の多さはうってつけだった。

デル・ゾーネを支配しているオートラグは、自国内においてはツヅキらを捜している状態にあるコトを秘匿していた。
ソレは自国民に対し自らの威勢を守るためだったが、故にツヅキらが一般民衆に後指をさされるコトもなくなったと言える。

だが、人の口に戸は立てられないモノだ。オートラグとツヅキらが揉めているという程度の情報については、一部の民衆にも浸透し始めていた。
だがコレも、ツヅキらにとっては何の問題もなかった。何せ、一般的には“旅団”の情報自体、自国民に対しては何も知らされはしないのだ。
つまり彼らが旅団で、ツヅキという人物がどんな顔なのかについて、オートラグと龍騎士団茶舗の一部、そして旅団の各々以外は知る由もなかった。

よって、商店区域を抜けようかという時に店仕舞いを進めていた一人の露天商に話しかけられた時のツヅキの驚きは、甚大なモノだった。

「やあ! 遂に見つけたぞ。坊主が“久世ツヅキ”だな、そうだろ?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...