カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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南山城国(9)

忌村(8)

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全員が取りだして装着したのは、大きなゴーグルだった。
しっかりと頭部に固定すると、一時的に視野は真っ暗になった。

「えっと、右側のコレを……と」

龍之介が呟きながら、ゴーグルの右側面のスイッチを入れる。
皆も同じ動作を行っていた。

グリッチ(横線のノイズ)が走ったと思うと、次の瞬間には様々な色でゴーグルを装着する前の視界が再現された。
色の度合いで対象の温度を表現する視界、そう、サーモグラフィーだ。


◇◇◇


「サーモグラフィーのコトかな?」

遠藤が童仙に答える。

「そうです。詳しい名称に関して、私は明るくはありませんが……」

村への出発前、道具を準備していた時のコトだ。
童仙が取り寄せたモノの中に、ソレはあった。

「正確には、コレ自体はサーモゴーグルだけどね。コレを使えば、村の“ヤツら”に対抗できると?」

「そうです。先の報告にある通り、彼のモノらの“顔”を見るコトが、見た者に致命的な影響を与えるとわかっています。この眼鏡を通せば、その顔の造形を『理解するコトなく、把握できる』というワケです」

「あえて視界をわかりにくくして、事を為すっていう形だね。しかし実際そう上手くいくかな?」

「既に試してあります。尤も、試したのは」

「U.J.Iかい?」

「そうです。この道具もご承知の通り、彼らの文化の開発物です」


◇◇◇


その視界を通して見る“ヤツら”は、形自体は相変わらず醜悪だった。
恐らくはボロボロであろう布切れを胴体にまとい、手足は軟体動物の触手となり果てていた。

決まった関節のない股を開いては閉じ開いては閉じしながら、下半身だけを見れば蛇が移動するかの如く蠢き歩いている。
上半身と両手がその動きに“呼応せず”不協和音的に、ぶるぶると震えては崩れるような動きを時折行うのも、この上なく不快感を催させた。

ただ、サーモグラフィーの効果はやはり大きかった。
ヤツらから届く視覚情報を、その形状と動きに限定してくれたお陰で細部が省略され、着用者は自身の正気度を何とか保つコトができた。

ゴーグルを通して見るヤツらの頭部は、うねうねと動くヒル状のソレとしては相変わらず不快だったが、その問題の容貌については辛うじて魚のエイの裏面のような、恐らくは目鼻口であろう点が確認できる程度だった。

「……使えますね」

カオルが呟く。

「ええ。そして皆さん、脇の、草の生い茂った道を見てみてください」

童仙の呼びかけに皆がソチラを向く。
先ほどまではただの雑草の森であった場所に、色が付いた小さな無数の点、いやヒモ状の何かが見て取れた。
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