サイコドール

みかそ

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波の寄る辺

「私と一緒に寝てほしい、セックス無しで。時間のある時でいい」
 そんなチャットを突然もらって、ローゼンはどきりとした。多忙な身であるレイフは、時間が空いたら仮想VR空間で時々大自然の雄景の中を一人で散歩したり、仮眠をとったりする事があった。本人から話は聞いていたが、プライベートな仮想VR空間のルームに誘われるのはこれが初めてだ。
 同僚や上役の長官と一緒に同席して、仮想VR空間で共に会議をする事は何度かあったが、それとこれとは訳が違かった。気が少しそぞろになりながらもとりあえず今日の任務や報告書書きを終わらせ、レイフに返信をし指定の場所で落ち合う事にした。


 指定されていた仮想VR空間のアドレスを打ち込み、没入ジャックインする。そこは風が強い太平洋の砂浜を模した所だった。空は青くない、嵐が過ぎ去ろうとする灰色である。日光は厚い雲で覆われている。波の音がうるさい、遠方で雷が光った。自分が立っている場所は雨で湿っており、砂は黒かった。
 目の前にある、寂れた木造建築の小さな家のドアを開ける。そこの奥のベッドにレイフは横になっていた。訪問したローゼンを薄目で見つめる。
「…来たか。横になってくれ」
 どぎまぎしながらもローゼンは白いシーツがかけられたベッドに腰かけ、レイフの右隣に横になった。今回は2人とも私服の姿で、現実そのものの分身アバターの設定をしている。レイフは普段オールバックである黒髪を下ろし、目をつむっている。そっとローゼンの背中に手を回し、胸板に自分の顔をうずめた。頬が紅潮し、心音が跳ね上がった。
(…司令疲れてるのかなー)
「お前といるとなんとなく安心する。しばらくこのままでいたい」
 眠りが深くなったのか、レイフはすぅと寝息をたてた。
 据え膳食わぬは何とやらと言うが、このような自然の中で性的な行為、セックスをするのは野暮に感じられた。少なくとも今だけは。1人こういう時に手を出しそうな奴の顔が一瞬思い浮かんだが、心の中で毒付き表には出さなかった。
 枕の位置を調整し、シーツをかける。自分も眠くなってきた。この家の中では独特な防音の設定があるのか波と風の音量が緩和され、暴雨風とけたたましい波音はかすかな調べとして耳に届いた。
 窓から見える景色では、太陽が顔を覗かせている所だった。雲間から光が差し、天使の梯子エンジェルラダーとなってまだ荒れ狂う海を照らしていた。海は本来の青さを取り戻そうとしている。
「2人とも起きたら浜を散歩しましょう?」
 そうつぶやいた後少し体勢を変え、ローゼンは眠っているレイフの首元に軽くキスをした。
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