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第1章:Blue Blood Panic
14.真相 後編
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≪前回のあらすじ≫
ストランドにてカイルの語った仮説にリュウガとアドルフは驚く。
留守番をしているサクラとシェリル。
もう一人の吸血鬼が姿を現す。
猛威を振るう吸血鬼。
次々と倒れてゆく部下の姿に我慢が限界を迎えたアドルフは自ら銃を取る。
アドルフの放った特製の弾丸が吸血鬼を穿ち、怒り狂った血濡れの鬼は狩りを止め、周囲の者を食らい始めた。
================================================================
「らしくなったじゃねぇか、吸血鬼。さぁ、決着をつけようぜ」
血塗れの鬼に大剣を突きつけ挑発するリュウガ。
しかし、その気迫とは裏腹に、顔色は良くなく、少し呼吸も乱れている。
すでに止血処置は済ませている様だが、包帯越しでもわかるほどいたるところに血が滲んでいる。
「お、おい、リュウガ。お前既にズタズタじゃないか。そんな状態でヤツに勝てるのか?」
我に返ったアドルフが心配して尋ねる。
「わからん」
リュウガは吸血鬼を睨みつけたまま即答する。
「だったら、今は大人しく休んでいろ。まだ少しなら持ちこたえられる。その間にしばらく回復を・・・。」
「断る。吸血鬼なんぞと戦える機会をみすみす逃すわけにはいかねぇ。ここで退いて生き延びても面白くない」
満身創痍にも係わらず、リュウガの目は生き生きとしている。
さながらまるで新しいおもちゃをも見つけた少年のように楽しげに。
こいつの死生観は理解できない。
恐怖心がないのか?
アドルフは驚く。
生きることの延長線に戦いがある。
吸血鬼に対する恐怖も無い、息をするようにただ戦うことを楽しんでいる。
「はぁ、まったく。私はお前らのようなアホに振り回されてばかりだよ」
アドルフはため息をつく。
「だが、そんな生き方も面白いのかもしれん。ただし、援護ぐらいはさせてもらうぞ。お前が万全なら手はださんが、万が一死なれたら私の寝覚めが悪いからな」
「あぁ、勝手にしろ!」
アドルフが銃を構えるのと同時にリュウガが吸血鬼に向かって駆ける。
「どうした人間。力が出ていないぞ?」
打ち合うたびに、リュウガの傷口が裂け血が噴き出す。
強い。
デイズの似姿を取っていたときとは桁違いだ。
これが本来の吸血鬼の力ってわけか!?
何の技術も伴わない、腕の一振りが致命的な速度と威力を持っている。
それでも打ち合えているのはひとえにリュウガの長年に渡り培ってきた技があるからだ。
「頼むぞ、お前が倒れれば全て終わりだ」
リュウガを背後から襲うとグールの頭部を撃ち抜きながら、アドルフは祈るような気持ちで戦局を見守る。
リュウガが吸血鬼を抑えているおかげで、兵士達の混乱は収まりグールを駆逐しながら統率を取り戻しはじめていた。
だが、戦局の要であるリュウガはジリジリと押され始めている。
当然だ、無尽蔵の体力と再生力を持つ吸血鬼と打ち合うこと自体無謀な行為なのだから。
「(身体を完全に引き裂かないと止まらねぇか。後1手足りねぇ。何でもいい、何か手は・・・)」
「リュウガ!!もう少しだけ持ちこたえてくれ!」
周囲のグールを駆逐し終わったアドルフがマガジンに弾丸を装填しながら叫ぶ。
「言われるまでもねぇ、さっさとしろ!!」
ギリギリの攻防を繰り広げながら、アドルフの言葉の意味を考える。
そういやアイツ、カイル(あの野郎)の副官をしてたとか言ってたか。
アイツの得物は銃。
なんか足止めの算段でもあるってことか?
荒い呼吸で無理やり肺に空気を取り込む。
そろそろ限界が近い。
先刻のダンテとの戦いで血を流しすぎた。
「煩わしい」
中々仕留められないリュウガに苛立ったのか、吸血鬼は大きく跳躍し距離を取った。
無数の真紅の刃が吸血鬼の周囲に形作られリュウガに降り注ぐ。
・・・捌ききれない。
ついにリュウガが大地に膝をつく。
勝ちを確信した吸血鬼が裂けたような笑みを浮かべ嗤う。
身体が動かない。
屠龍を杖に何とか倒れ伏すことは免れているが限界だった。
迫る死。
靄がかかったような意識の中、リュウガの脳裏には、昔同じように追い込まれた時の記憶が巡っていた。
『リューガはさ、勿体ないよね。魔力さえまともに練れるようになれば、俺を倒すことだって不可能じゃないのに』
確かアイツが言ってたな・・・。
スカシたムカつくあの野郎が。
大体なんだ魔力って?
わかるように説明しろってんだ。
カチリ.......
何か鍵が空いたような音。
幻聴か。
否、それは課された制約が解かれたイメージをリュウガが音として知覚したものだった。
得体のしれない力が、呼吸と共に全身を駆け巡る。
同時に全身に浮かび上がる奇妙な紋様。
それは昔は、カイルがリュウガを打ち負かし制約を科す際、ある目的から秘密裏に彼に施した魔術式。
リュウガの練る「気」を強制的に魔力に変換する代物。
死の淵に立たされたことにより、一時的に戒めが解き放たれた。
屠龍の刀身が蒼い光を帯び始める。
主人から魔力を吸い上げ、脈動する。
黒革のベルトが蛇のようにのたうち始め、主の闘争本能に従い身体を操り、剣を握らせる。
「まだ立つか。小癪な」
再び真紅の刃を生み出す吸血鬼。
だが、その刃はリュウガには届かない。
身を覆う黒革のベルトの一部が解け、一本一本が生きているかのように飛来する刃を打ち払った。
そして、剣が軽い。
これも屠龍の本来の力なのか、超重量の金属の刃が羽のように軽い。
・・・・・これなら、殺せる(とれる)。
「リュウガ!行けぇえええ!」
準備が整ったのだろう。
アドルフが叫ぶ。
それを引き金に文字どおり最後の力を振り絞りリュウガは吸血鬼に向かって駆ける。
息を深く吸い込み、指の力を抜く。
1秒、瞬きと息を止め、引き金を引き絞る。
飛び交う刃の隙間を縫って、アドルフの放った銀の弾丸が正確に吸血鬼の胸を穿つ。
致命傷にならないと侮り、その弾丸を無視したのが吸血鬼の命取りとなった。
「イイイイイイイイぃぃッグゥァあアアアアアアアア!!!!」
その瞬間、雷が吸血鬼を身体の内側から蹂躙した。
アドルフの魔術の特徴は弾丸に術式を付与し、遠距離から任意のタイミングで発動することである。
専用の弾丸を準備する必要があること、術式の構築、組み込みに時間がかかる難点はあるが応用性に富む非常に強力な術だ。
特に後衛に徹したときこそ、彼の能力は真価を発揮する。
決着は一瞬だった。
雷撃の激痛から解放された吸血鬼の眼前には裂帛の気合で大剣を振りかぶるリュウガの姿。
咄嗟に血を固め、強化した腕を振るって迎え撃つが、魔力を喰らい本来の力を発揮した屠龍は止められない。
渾身の力で振り下ろされた蒼い刃は、血塊の巨腕を軽々喰らいそのまま肩口から胴にかけ、吸血鬼の肉体を2つに引き裂き、石畳の地面に深々と大きな亀裂を刻んだ。
「ばかなぁぁああ!!!!これだけの血を食らった私が負けるなんて」
激痛に先ほどまで人の形をした獣が天を仰ぎ咆哮する。
残された左腕を使い、這いずりながら必死に戦線を離脱しようともがく吸血鬼。
流石に半身が欠損した状態からはスグに身体を修復出来ない様だ。
トドメを刺すためリュウガが一歩踏み出したその時。
「もういいです。吸血鬼さん」
闇夜から一人、霧状の漆黒の翼と天使の微笑みを携えた少女が舞い降りた。
「まさか、本当に・・・」
その姿を見た、リュウガとアドルフの顔が歪む。
グレーのウェーブのかかった髪に、深い青の瞳。
自分たちのよく見知った少し気の弱いけれど人一倍優しい少女。
「後は私が引き受けます。行ってください」
シェリルの背に庇われて吸血鬼は黒い霧に姿を変え、姿を消した。
「信じられん。何故です?シェリル様・・・」
アドルフが思わず疑問の声をあげる。
「俺の推理が悲しくもあたってしまったってことだねぇ」
「うおっ、カイルっ!!貴様いつの間に!?デ、デイズ様!よくぞご無事で」
カイルの後ろには時折兵士に肩を支えられながらも弱った体に鞭打って毅然と歩みを進めるミシュラン家現当主、デイズ・ミシュランの姿があった。
「ようやく感動のラストって感じだよ。ねぇ、シェリルちゃん」
「・・・カイルさん。やっぱり邪魔をするんですね。母を返してください。誰にも見つからないように閉じ込めておいたのに。どうやって?」
「それは、企業秘密。ただじゃ教えられないね」
どことなく表情の固いシェリルとは違い、カイルは普段と変わらぬ軽口と共に穏やかな笑みを浮かべる。
「まぁいいです。舞台は整いました。私は今夜復讐を成し遂げ、私の世界を変えます」
「考え直して・・・はくれないよね」
カイルは剣を構える。
「おいカイル(クソ野郎)!!俺はもう疲れた。後はお前がなんとかしろ!・・・思い切りやれ。もしもの時は俺が止めてやる」
どっかりと地面に腰を下ろし、地面に突き立てた屠龍にもたれかかったリュウガが兵士に手当を受けながら檄を飛ばす。
「ありがとう、リューガ。相変わらず優しいね?」
「うるせぇっ!!さっさとケリをつけろ」
優しいと言われたのが気に食わなかったのか、リュウガは小石をカイルに投げつけた。
「おい、カイル。お前・・・まさか」
「あぁ、久しぶりに少し力を解放するよ。アドルフ、みんなを避難させてくれ」
ブーンっと大気の軋む低いうねりが広場に響き渡り、辺りの熱が一気に奪われる。
一瞬の静寂の後、カイルの背に………漆黒の翼が一枚現れた。
「何ですか、ソレ。そんな力をもっているなら貴方も・・・。私がどんな想いで生きてきたかわかるでしょう?」
「わかるよ。君がどれだけ世界を恨んでいるのかってことだけは。でも、君のやり方は間違っているなんて俺には言う資格はない。だからさ・・・」
本当に強い想いで紡いだ言葉には力が宿る。
「俺は俺の信じるもののために君を止めるよ。さぁ、力を開放してみな?全部受け止めてみせるから」
二匹の悪魔が激突する。
真紅の刃を操るシェリルに対し、カイルは黒翼から放たれる波動で応戦する。
「あなたに私の悲しみがわかるの!幸せに包まれているあなたに私の気持ちが!!一人の夜がどれほどに辛いものかわかる!?みんなからの愛に満ちたあなたに私の気持ちはわからないっ!!」
「確かに俺は君の気持ちを全て理解することはできない。でも、人を操ったり殺したりして作り変えた君の世界に希望がないことくらいはわかる!!」
凄まじい異能の力と力のぶつかり合い。
夜の空が燃える。
「そんな戯言・・・。私はもう戻れないんです。母を傷つけ、大勢の人殺しました」
「君のお母さんに実は君の魅了の魔術は完全に効いていなかった」
「・・・・え?」
「君のお母さんは、君のコントロール下にある振りをしていたんだ」
「・・・・・なぜ、そんなことを?」
「君を守りたかったから。君の支配に抗って、誰一人として殺さなかったんだ。自分が代わりに犯人になれば、愛する娘に罪はないだろうと信じて。想像を絶する精神力だよ。それだけ君のことが大切なんだろうね」
「シェリルっ!!」
地上からデイズが声を張り上げる。
「シェリルっ!!負けないで!!どんな姿になっても。どうなっていても、いつだってあなたは私の大切な・・・・」
「そんな、嘘よ・・・・。私は、いったいなんのために、こんな、こんな・・・。うああああぁぁぁぁっ!!」
感情のタガが外れると同時に抑えつけられていたシェリルの力が暴走する。
もう夜が明けたのかと思うような真っ赤な空。
「君は償わなければならない!そして、救われなければならない!!」
真紅の激流と漆黒の光が激突する。
そして、長い夜が明けた。
================================================================
~登場人物紹介~
・シェリル・ミシュラン:ミシュラン家の令嬢。もう一人の吸血鬼。自らを虐げてきたすべてに対し復讐を行う。
・デイズ・ミシュラン(本物):屋敷の隠し部屋に軟禁されていた。吸血鬼化はしていない。
・カイル・ブルーフォード:「なんでも屋 BLITZ」を営む。元「フェンリル」第1小隊隊長。
秘められた力と黒翼との関係は不明。
・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):「なんでも屋 BLITZ」のメンバー。高い戦闘技術と強靭なフィジカルの
持ち主。瀕死の境地で「屠龍」の能力の一部が使えるようになった。
・アドルフ・ヴァルト:貴族官僚。元カイルの部下。元「フェンリル」第1小隊副長。
特注の銃器と術式を刻んだ弾丸を用いる。
ストランドにてカイルの語った仮説にリュウガとアドルフは驚く。
留守番をしているサクラとシェリル。
もう一人の吸血鬼が姿を現す。
猛威を振るう吸血鬼。
次々と倒れてゆく部下の姿に我慢が限界を迎えたアドルフは自ら銃を取る。
アドルフの放った特製の弾丸が吸血鬼を穿ち、怒り狂った血濡れの鬼は狩りを止め、周囲の者を食らい始めた。
================================================================
「らしくなったじゃねぇか、吸血鬼。さぁ、決着をつけようぜ」
血塗れの鬼に大剣を突きつけ挑発するリュウガ。
しかし、その気迫とは裏腹に、顔色は良くなく、少し呼吸も乱れている。
すでに止血処置は済ませている様だが、包帯越しでもわかるほどいたるところに血が滲んでいる。
「お、おい、リュウガ。お前既にズタズタじゃないか。そんな状態でヤツに勝てるのか?」
我に返ったアドルフが心配して尋ねる。
「わからん」
リュウガは吸血鬼を睨みつけたまま即答する。
「だったら、今は大人しく休んでいろ。まだ少しなら持ちこたえられる。その間にしばらく回復を・・・。」
「断る。吸血鬼なんぞと戦える機会をみすみす逃すわけにはいかねぇ。ここで退いて生き延びても面白くない」
満身創痍にも係わらず、リュウガの目は生き生きとしている。
さながらまるで新しいおもちゃをも見つけた少年のように楽しげに。
こいつの死生観は理解できない。
恐怖心がないのか?
アドルフは驚く。
生きることの延長線に戦いがある。
吸血鬼に対する恐怖も無い、息をするようにただ戦うことを楽しんでいる。
「はぁ、まったく。私はお前らのようなアホに振り回されてばかりだよ」
アドルフはため息をつく。
「だが、そんな生き方も面白いのかもしれん。ただし、援護ぐらいはさせてもらうぞ。お前が万全なら手はださんが、万が一死なれたら私の寝覚めが悪いからな」
「あぁ、勝手にしろ!」
アドルフが銃を構えるのと同時にリュウガが吸血鬼に向かって駆ける。
「どうした人間。力が出ていないぞ?」
打ち合うたびに、リュウガの傷口が裂け血が噴き出す。
強い。
デイズの似姿を取っていたときとは桁違いだ。
これが本来の吸血鬼の力ってわけか!?
何の技術も伴わない、腕の一振りが致命的な速度と威力を持っている。
それでも打ち合えているのはひとえにリュウガの長年に渡り培ってきた技があるからだ。
「頼むぞ、お前が倒れれば全て終わりだ」
リュウガを背後から襲うとグールの頭部を撃ち抜きながら、アドルフは祈るような気持ちで戦局を見守る。
リュウガが吸血鬼を抑えているおかげで、兵士達の混乱は収まりグールを駆逐しながら統率を取り戻しはじめていた。
だが、戦局の要であるリュウガはジリジリと押され始めている。
当然だ、無尽蔵の体力と再生力を持つ吸血鬼と打ち合うこと自体無謀な行為なのだから。
「(身体を完全に引き裂かないと止まらねぇか。後1手足りねぇ。何でもいい、何か手は・・・)」
「リュウガ!!もう少しだけ持ちこたえてくれ!」
周囲のグールを駆逐し終わったアドルフがマガジンに弾丸を装填しながら叫ぶ。
「言われるまでもねぇ、さっさとしろ!!」
ギリギリの攻防を繰り広げながら、アドルフの言葉の意味を考える。
そういやアイツ、カイル(あの野郎)の副官をしてたとか言ってたか。
アイツの得物は銃。
なんか足止めの算段でもあるってことか?
荒い呼吸で無理やり肺に空気を取り込む。
そろそろ限界が近い。
先刻のダンテとの戦いで血を流しすぎた。
「煩わしい」
中々仕留められないリュウガに苛立ったのか、吸血鬼は大きく跳躍し距離を取った。
無数の真紅の刃が吸血鬼の周囲に形作られリュウガに降り注ぐ。
・・・捌ききれない。
ついにリュウガが大地に膝をつく。
勝ちを確信した吸血鬼が裂けたような笑みを浮かべ嗤う。
身体が動かない。
屠龍を杖に何とか倒れ伏すことは免れているが限界だった。
迫る死。
靄がかかったような意識の中、リュウガの脳裏には、昔同じように追い込まれた時の記憶が巡っていた。
『リューガはさ、勿体ないよね。魔力さえまともに練れるようになれば、俺を倒すことだって不可能じゃないのに』
確かアイツが言ってたな・・・。
スカシたムカつくあの野郎が。
大体なんだ魔力って?
わかるように説明しろってんだ。
カチリ.......
何か鍵が空いたような音。
幻聴か。
否、それは課された制約が解かれたイメージをリュウガが音として知覚したものだった。
得体のしれない力が、呼吸と共に全身を駆け巡る。
同時に全身に浮かび上がる奇妙な紋様。
それは昔は、カイルがリュウガを打ち負かし制約を科す際、ある目的から秘密裏に彼に施した魔術式。
リュウガの練る「気」を強制的に魔力に変換する代物。
死の淵に立たされたことにより、一時的に戒めが解き放たれた。
屠龍の刀身が蒼い光を帯び始める。
主人から魔力を吸い上げ、脈動する。
黒革のベルトが蛇のようにのたうち始め、主の闘争本能に従い身体を操り、剣を握らせる。
「まだ立つか。小癪な」
再び真紅の刃を生み出す吸血鬼。
だが、その刃はリュウガには届かない。
身を覆う黒革のベルトの一部が解け、一本一本が生きているかのように飛来する刃を打ち払った。
そして、剣が軽い。
これも屠龍の本来の力なのか、超重量の金属の刃が羽のように軽い。
・・・・・これなら、殺せる(とれる)。
「リュウガ!行けぇえええ!」
準備が整ったのだろう。
アドルフが叫ぶ。
それを引き金に文字どおり最後の力を振り絞りリュウガは吸血鬼に向かって駆ける。
息を深く吸い込み、指の力を抜く。
1秒、瞬きと息を止め、引き金を引き絞る。
飛び交う刃の隙間を縫って、アドルフの放った銀の弾丸が正確に吸血鬼の胸を穿つ。
致命傷にならないと侮り、その弾丸を無視したのが吸血鬼の命取りとなった。
「イイイイイイイイぃぃッグゥァあアアアアアアアア!!!!」
その瞬間、雷が吸血鬼を身体の内側から蹂躙した。
アドルフの魔術の特徴は弾丸に術式を付与し、遠距離から任意のタイミングで発動することである。
専用の弾丸を準備する必要があること、術式の構築、組み込みに時間がかかる難点はあるが応用性に富む非常に強力な術だ。
特に後衛に徹したときこそ、彼の能力は真価を発揮する。
決着は一瞬だった。
雷撃の激痛から解放された吸血鬼の眼前には裂帛の気合で大剣を振りかぶるリュウガの姿。
咄嗟に血を固め、強化した腕を振るって迎え撃つが、魔力を喰らい本来の力を発揮した屠龍は止められない。
渾身の力で振り下ろされた蒼い刃は、血塊の巨腕を軽々喰らいそのまま肩口から胴にかけ、吸血鬼の肉体を2つに引き裂き、石畳の地面に深々と大きな亀裂を刻んだ。
「ばかなぁぁああ!!!!これだけの血を食らった私が負けるなんて」
激痛に先ほどまで人の形をした獣が天を仰ぎ咆哮する。
残された左腕を使い、這いずりながら必死に戦線を離脱しようともがく吸血鬼。
流石に半身が欠損した状態からはスグに身体を修復出来ない様だ。
トドメを刺すためリュウガが一歩踏み出したその時。
「もういいです。吸血鬼さん」
闇夜から一人、霧状の漆黒の翼と天使の微笑みを携えた少女が舞い降りた。
「まさか、本当に・・・」
その姿を見た、リュウガとアドルフの顔が歪む。
グレーのウェーブのかかった髪に、深い青の瞳。
自分たちのよく見知った少し気の弱いけれど人一倍優しい少女。
「後は私が引き受けます。行ってください」
シェリルの背に庇われて吸血鬼は黒い霧に姿を変え、姿を消した。
「信じられん。何故です?シェリル様・・・」
アドルフが思わず疑問の声をあげる。
「俺の推理が悲しくもあたってしまったってことだねぇ」
「うおっ、カイルっ!!貴様いつの間に!?デ、デイズ様!よくぞご無事で」
カイルの後ろには時折兵士に肩を支えられながらも弱った体に鞭打って毅然と歩みを進めるミシュラン家現当主、デイズ・ミシュランの姿があった。
「ようやく感動のラストって感じだよ。ねぇ、シェリルちゃん」
「・・・カイルさん。やっぱり邪魔をするんですね。母を返してください。誰にも見つからないように閉じ込めておいたのに。どうやって?」
「それは、企業秘密。ただじゃ教えられないね」
どことなく表情の固いシェリルとは違い、カイルは普段と変わらぬ軽口と共に穏やかな笑みを浮かべる。
「まぁいいです。舞台は整いました。私は今夜復讐を成し遂げ、私の世界を変えます」
「考え直して・・・はくれないよね」
カイルは剣を構える。
「おいカイル(クソ野郎)!!俺はもう疲れた。後はお前がなんとかしろ!・・・思い切りやれ。もしもの時は俺が止めてやる」
どっかりと地面に腰を下ろし、地面に突き立てた屠龍にもたれかかったリュウガが兵士に手当を受けながら檄を飛ばす。
「ありがとう、リューガ。相変わらず優しいね?」
「うるせぇっ!!さっさとケリをつけろ」
優しいと言われたのが気に食わなかったのか、リュウガは小石をカイルに投げつけた。
「おい、カイル。お前・・・まさか」
「あぁ、久しぶりに少し力を解放するよ。アドルフ、みんなを避難させてくれ」
ブーンっと大気の軋む低いうねりが広場に響き渡り、辺りの熱が一気に奪われる。
一瞬の静寂の後、カイルの背に………漆黒の翼が一枚現れた。
「何ですか、ソレ。そんな力をもっているなら貴方も・・・。私がどんな想いで生きてきたかわかるでしょう?」
「わかるよ。君がどれだけ世界を恨んでいるのかってことだけは。でも、君のやり方は間違っているなんて俺には言う資格はない。だからさ・・・」
本当に強い想いで紡いだ言葉には力が宿る。
「俺は俺の信じるもののために君を止めるよ。さぁ、力を開放してみな?全部受け止めてみせるから」
二匹の悪魔が激突する。
真紅の刃を操るシェリルに対し、カイルは黒翼から放たれる波動で応戦する。
「あなたに私の悲しみがわかるの!幸せに包まれているあなたに私の気持ちが!!一人の夜がどれほどに辛いものかわかる!?みんなからの愛に満ちたあなたに私の気持ちはわからないっ!!」
「確かに俺は君の気持ちを全て理解することはできない。でも、人を操ったり殺したりして作り変えた君の世界に希望がないことくらいはわかる!!」
凄まじい異能の力と力のぶつかり合い。
夜の空が燃える。
「そんな戯言・・・。私はもう戻れないんです。母を傷つけ、大勢の人殺しました」
「君のお母さんに実は君の魅了の魔術は完全に効いていなかった」
「・・・・え?」
「君のお母さんは、君のコントロール下にある振りをしていたんだ」
「・・・・・なぜ、そんなことを?」
「君を守りたかったから。君の支配に抗って、誰一人として殺さなかったんだ。自分が代わりに犯人になれば、愛する娘に罪はないだろうと信じて。想像を絶する精神力だよ。それだけ君のことが大切なんだろうね」
「シェリルっ!!」
地上からデイズが声を張り上げる。
「シェリルっ!!負けないで!!どんな姿になっても。どうなっていても、いつだってあなたは私の大切な・・・・」
「そんな、嘘よ・・・・。私は、いったいなんのために、こんな、こんな・・・。うああああぁぁぁぁっ!!」
感情のタガが外れると同時に抑えつけられていたシェリルの力が暴走する。
もう夜が明けたのかと思うような真っ赤な空。
「君は償わなければならない!そして、救われなければならない!!」
真紅の激流と漆黒の光が激突する。
そして、長い夜が明けた。
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~登場人物紹介~
・シェリル・ミシュラン:ミシュラン家の令嬢。もう一人の吸血鬼。自らを虐げてきたすべてに対し復讐を行う。
・デイズ・ミシュラン(本物):屋敷の隠し部屋に軟禁されていた。吸血鬼化はしていない。
・カイル・ブルーフォード:「なんでも屋 BLITZ」を営む。元「フェンリル」第1小隊隊長。
秘められた力と黒翼との関係は不明。
・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):「なんでも屋 BLITZ」のメンバー。高い戦闘技術と強靭なフィジカルの
持ち主。瀕死の境地で「屠龍」の能力の一部が使えるようになった。
・アドルフ・ヴァルト:貴族官僚。元カイルの部下。元「フェンリル」第1小隊副長。
特注の銃器と術式を刻んだ弾丸を用いる。
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