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特別捜査室『0課』
この力に苦しめられてきた
しおりを挟む耳鳴りが頭の奥で響いている。
震える少女に覆いかぶさったまま、まだ動いてはいけない。
耳鳴り、早く、早く消えて。
徐々にぼんやりと周りの音が入り始める。
「鈴原!しっかりしろ!」
「ん…」
ゆっくり体を起こしながら、私の下になっていた少女の肩を叩く。
「大丈夫?…怪我は…?」
「刑事さん!頭から、血が…!」
「深山!救急車!」
「は、はい!」
「ここ、ちょっと擦りむいただけみたいね」
「刑事さん…!わたしは大丈夫…」
「絆創膏、持ってるからじっとしてて」
少女に微笑むと、彼女は観念したように少し笑って動きを止めた。
ポケットから絆創膏を一枚出して、左手の手袋に気づく。
「……」
わたしは何も言わず手袋を外した。
「はい、これで大丈夫ーーーーーーー」
手袋を外した左手で彼女の足に触った瞬間、彼女が強盗の一人にナイフを突きつけられたときの感情が、私には見えた。
「刑事さん…?」
「あ…ううん。何でもないわ」
「そうじゃなくて……泣いてる」
言われて初めて、自分が泣いていることに気づいた。
わたしは思わず、彼女を抱きしめた。
「怖かったよね。すぐ助けてあげられなくて…ごめんね…ごめんね…怖い思いさせて…ごめんね…」
「刑事さん…っ…」
小さな肩が私の腕の中で震えるのを感じた。
それから数時間。
犯人グループは無事確保され、少女は保護者とともに念のため救急車で病院に向かった。
「お前も病院に行け」
「あ、いえわたしは…」
「応急手当しかしてないぞ。もしも何かあったら…」
「自分の体のことは分かってますから、これで大丈夫です。…初日から、ご迷惑をおかけしました」
「おいおい、鈴原が謝るなよ。俺の立場がなくなるだろう?」
苦笑いする桐沢さんに、なるたけ優しい微笑みを返す。
「その手……」
突っ込まれると分かってはいたけど、いざ言われると戸惑いを隠せない。
わたしは左手の手袋を外して静かに語り始めた。
「深山さんや美咲さんの能力が生まれつきなのか、なにかの事故や事件がきっかけになったのかは分かりませんが、わたしのコレは生まれつきでした。
私の、自分の左の素手で触れたモノや人は、そのモノが自分の手に渡ってくるまでの経緯だったり、その人がどんな過去を歩んできたかだったり、今なにを思っているかだったり…そんな事が見えてしまうんです」
「見えるって言うのは、視覚的なものじゃないんだろう?」
「ええ…どちらかというと感覚的な…フラッシュバックと似てると思います。
わたしは今でも、自分のこの力が嫌で嫌で仕方ないです。ただでさえ見たくないものや聞きたくないものがそこら中に蔓延っているのに、わたしは触れたものの経緯や感情まで見えてしまう…人の心が見えてしまうということは、本当に恐ろしいことだと思います」
「…人の心を知るのは…そりゃ怖いよな」
「…嘘とか、全部バレバレですからね」
苦笑を浮かべて忌々しい左手を握りしめる。
ため息を一つついて、わたしは手袋をはめ直そうとした。
「……!」
その時、桐沢さんが自ら、握り締められた私の手を両手で優しく包み込んだ。
ゆっくりと、固く握り締められた手をほぐして、桐沢さんの手のひらと、私の手のひらが重なった。
大きくて暖かい手のひら。
伝わってくるのは優しすぎる想いばかり。
「これで、本当に伝わっているのか?」
「………はい」
「俺は、言葉にするのがあまり得意じゃない。別にしゃべるのが苦手ってわけじゃなくて、ただの口下手なんだが…」
手を優しく包み直した。
「もし、俺の心がお前に伝わっているなら、俺は、すごく嬉しいと思うよ」
はっと顔を上げた。
椅子に座るわたしの目線に屈んで私の手を包む桐沢さんは、優しい笑顔で微笑んでいた。
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