上 下
31 / 36
第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ

第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ 03

しおりを挟む
「いらっしゃいませー! ナギサハイウェイ名物ナギサカレーはいかがですか~?」

 その声は、レンタロウやサヤカの背後から唐突に聞こえてきた。

 フードコートの手前にある正方形のスペース。そこで女性と男性が二人で、大鍋を携えてカレーライスを売り始めたのだ。

「フブキさんカレーですって! しかも使い捨ての容器に入ってるから、あれなら外でも食べれますよ!」
「ああ、行くぞサヤカ!」
「はいっ!」

 二人はフードコートの順番待ちを早々に放棄し、踵を返してカレーライスの方へ向かうが、しかしそうするのはなにも二人だけではなく、他に並んでいた人間も次々とカレーライスを目指して歩み始めたのだ。

「くううう……ワタシ達のカレーは渡しませんよ!」
「別に俺達のって訳でもないんだがな」

 とは言いつつも、是が非でもカレーライスを手に入れたかったサヤカとレンタロウは早足で歩きながら、時に他の客を押しのけ突き進み、その結果、前から10番目に並ぶ事が出来たのだった。

 カレー屋の回転率は非常に良く、まず注文を取ると、その注文を取った女性が目の前の炊飯器から容器にご飯をよそい、それを今度は隣にいる、大鍋の前に立っている男性に渡すと、大鍋の男性は大きな玉杓子を使って一度で適量のルーを注ぐと、そのまま客に出していた。

 その効率の良さで次々と客を捌いていくので、レンタロウ達の並ぶ10番目などあっという間にやってきた。

「いらっしゃい、大盛りと普通盛りがあるけどどっちにする?」
 
 炊飯器の前に立っている女性が杓文字を持ちながら、二人に尋ねてきた。

「俺は大盛りで」
「はい、お兄さんは大盛りね。お姉さんは?」
「ワタシも大盛りで!」
「あらっ! だけどお姉さん、うちの大盛りはこんな感じで多いけど、それでもいいのかしら?」

 すると女性は杓文字で炊飯器からご飯を掬い、容器に大盛り用のご飯をよそってからサヤカに見せる。

 その量はまさに大盛りと呼ぶに相応しく、カレールーを入れるスペースを確保するためにご飯は容器の半分の位置で山盛りにされていた。

「思ってたよりすげえ量だな……」

 先に頼んだレンタロウも、その盛り具合を目の当たりにして思わず目を点にしてしまったが――

「大盛りでお願いします! お腹ペコペコなんで!」

 全くその量に動じる事無く、サヤカは大盛りのオーダーを変更する事は無かった。

「はいよ。じゃあ料金は二皿で800リョウね」
「おっ、安いな」

 レンタロウは料金を支払うと、隣の大鍋からカレールーを注いでいる男性からカレーライスを受け取るよう促され、二人は三歩程隣にずれた。

「はい、大盛り二杯。福神漬けとスプーンは横のとこにあるんでそこから取って行ってください」

 男性店員が指す方向を見ると、そこには福神漬けが大量に入ったタッパーとプラスチックの使い捨てスプーンが置かれた机があったので、二人は自分の好きな量の福神漬けをトングで取って入れ、スプーンを取ると施設の出口を目指した。

「おっ、あそこに良さげなとこがあるな」
「さっさと座っちゃいましょ。また座席で苦労するのはこりごりですから」
「それもそうだな」

 施設を出ると街路樹の下にベンチがあったので、二人は颯爽とベンチへ向かい、そこに座った。

「やっぱりバイクに乗ってると疲れてお腹も減っちゃいますねぇ~」
「運転してたのはずっと俺だけどな」
「まあまあそんな固いことは言わずに、それじゃあいただきまーす!」
「ったく……いただきます」

 二人共手を合わせてカレーライスを食べ始める所までは同じなのだが、しかしそのカレーライスの食べ方に大きな違いが現れた。

 サヤカはまず最初に白米を掬い上げ、それをカレールーに漬け込んで食べているのに対し、レンタロウは最初から白米とカレールーを混ぜ切ってから口にしていたのだ。

 これについては過去、二人の間で何度も論争が起きており、サヤカの主張としては「せっかくのカレーのコントラストが滅茶苦茶になって美しくないし、箸休めになる白米が無くなってしまう」というものだったが、対してレンタロウの主張は「そもそもこの料理の名前はカレーライスなんだから混ぜるのは当たり前。白米が食べたければカレーライスを食うな」というものだった。

 しかし結局論争をしたところで互いの食べ方が変わるような事は一切無かったため、これについてはいつしか必要以上の言い合いをする事は無くなっていったのだった。
しおりを挟む

処理中です...