朱い道化と深窓の令嬢

皐月

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アイル=ジグ=クラム。表向きにはヴァニタス王国の剣、また裏向きには影の一族であるクラム公爵家の現当主。
それが私のマスターであり、血縁上の父だ。
何故彼の血を引いていながら私の扱いが公爵令嬢でないのか。それは私が半分しか貴族の血を引いていないからだ。一応公爵家の一人としてはカウントされているものの、表向きは病弱で表には滅多に出てこれない、とされている。実際は使用人のように仕えているわけだが、別に不満はない。

私はこの屋敷に来る前の記憶を失っている。最初の記憶は五歳。それだけははっきりしているが他はとても曖昧で、気付ば此処にいた。母のことも、分かるのは平民である、ということだけで、生きているのか死んでいるのか、どんな性格でどんな容姿か、そもそもどんな名前かも分からない。だから情報を集めようにも集められない。
だが記憶を失う前、怖くて苦しくて、そして、何かが憎くて憎くてたまらなく壊してしまいたいほどだったのは覚えている。いや、忘れられない、といったほうが正しいだろうか。時折その激情は焼き付けるように現れる。忘れるな、忘れてはいけない、これだけは絶対に。そんな声が聴こえるようで。

また理由はもう一つあって、私は半分平民の血を引くからか体表に《紋》が現れなかった。これは貴族の中では致命的な欠陥だ。知られれば《紋なし》と笑われ、社交界では生きていけなくなる程の。貴族のように体表に《紋》が現れる者は平民でも力が強い。また、大きかったり緻密であるほど力は強くなるため、重宝されるのだ。当然ランク付けも起こり、高いランクの者ほど優遇措置があったりする。ランクが低い者がランクの高い者に見下されることも珍しくない。爵位が下であっても、不敬や無礼にならないこともある。理不尽な話だ。

ああそういえば、一人、《紋なし》がばれた上、化け物令嬢と呼ばれている者もいたな。あれは何年前だったか。

ただ不可解なのは、彼女が生粋の貴族であること。
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