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第33話 それぞれの足取り──市と組合、二組の動き
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「さてヤヨイ。まずは市に向かおうと思うが良いか?」
「多分そこからの方が正解でしょ?ただクリスは目立つからねぇ。その容姿。しょうがないよね。何かあったらあたしが守ってあげるから!」
可愛らしい力こぶを両腕に作ってクリスにアピールするヤヨイ。
自分の身は自分で守れる実力を持つクリスなのだが、ここは素直にヤヨイの好意を受け取る。
「それは頼もしいな。何かあったら頼む。でもヤヨイも気を付けろ。ミサオも容姿を褒めていたからな。」
「・・・ミサオか。ねぇクリス?あいついつもおちゃらけ多いじゃんか?あれなんでかわかる?」
突然尋ねるヤヨイ。
「性格・・・では無いのか?」
素直に答えるクリス。
「ん~。それはそうなんだけどさ?あれ多分気ぃ使ってんだよ。アイツなりに。」
「そうなのか?」
「それとさ。面倒くさい仕事してるじゃん?お役目なんて。表と裏なんて使い分けてさ。・・・アイツさ?上手くやれてる様に見せてるんだと思うよ。普通の人には分からないと思う。でもね、一緒に暮らすの長くなってくるとさ。気付くんだよね。寝言とかさ。無意識の独り言とか。隠すのがクセになってんだと思う。前の世界からずっと。辛くても。しんどくても。・・・だからあたしとクミコでね?たまに引きずり出してやんの。本心。でないと壊れちゃいそうでさ。アイツ。」
笑顔のままだが、結構重い発言をするヤヨイ。
「そう・・・だよな。アイツは魔法で何でもこなせると私達に言う。大丈夫だからと。・・・ミサオも人間なのだから心も万能という訳も無い。多分無意識でやっている事だから本人もわかって無いだろう。・・・ヤヨイとクミコだから気付いたのだろうな。言葉だけでは無い所も見ておかないといけないな。アイツは自分の置かれている立場をもう少し自覚して欲しいものだな。」
クリスは改めて皇であるタロウからの勅命を考えて発言する。
「立場?ミサオの?アイツ個人の話なのに?」
ヤヨイは怪訝な表情をする。
「いや。言葉を間違えた。アイツが言う身内。身内の中にいるのなら、私達と居る時くらい、もっと心を開けと、そういう事を言いたかった。すまん。」
慌ててつくろうクリス。
嘘ではないが、クリスはミサオの一挙手一投足を観察して報告する役目がある。
秘密裏に。
ミサオはそれでも受け入れると言ってくれて半ば公認みたいなものだが。
「・・・強制じゃないけど、クリスも気付いたらビシッと言ってあげて!アイツ自分の事過小に見てるとこあるし。」
なんだかんだと言いながらもヤヨイは素直に心配しているのである。
「・・・わかった。私も同僚ではなく、そこは身内として見ておこう。・・・ビシッっとな!」
「そうそう!アイツ、バカだから言われないとわかんないから!・・・あ、市!早速色々見てみようよ!・・・すいませ~ん!このキャベチって・・・高っ!一玉800イェン?お姉さんこれはいくら何でも・・・え?税金?それ領民にひどくない?・・・うん。そうなんだ。お姉さんも大変なんだね・・・。そう。お姉さんその果物ちょうだい!良いよしょうがないよ高くても!それにしてもこの町は何でそんな事に・・・跡を継いだ領主。そんで?」
ヤヨイはしっかり情報を集めている様子。
クリスは静かにヤヨイの一歩後ろに立って、ヤヨイと野菜売りの女性との会話を聞きながら、不穏な動きに警戒する。
一方もう一つのペアであるクミコとミサオ。
「へ・・・へ、へくちょんぺい~っ!」
「なんですかミサオさん。そのくしゃみ。風邪?」
「いや、そんな事無いと思うけど・・・。モテる男にゃ付きものの噂でもされたのかな?」
「はいはい。先どっちに行きます?薬師の組合か図書館か。」
クミコはこの先の流れを確認する。
「どっちが目立たないかな?」
ミサオが尋ねる。
「・・・薬師の方ですかね?いきなり他の領の人間が学者でもないのに図書館とか真っ直ぐ向かったら、警戒している人間がいたとしたら目立ちますよね?」
「やっぱクミコさんペテンが効くねぇ!」
「ペテン?」
こちらの世界には用語に反応するクミコ。
「頭の回転が早いって事!んじゃ、薬師の組合から行きますか。今のところ首のチクチク無いから尾行とかは無いと思うけど慎重に。」
こちらのペアは薬師の組合に向かう事が決まった様だ。
「・・・これでお役目とかじゃなければ逢引きなんだろうけどなぁ。」
心の声が漏れるクミコ。
「クミコさん、何か言った?」
「いえ、な、何でも無いです!」
「そんな慌てないで!リラ~ックス。」
「はい!リラ~ックス!」
ワイワイと会話しながら、この2人は薬師の組合へ向かうのであった。
ーーーーーーーーーーーー
今回は、領都ベニヤに到着したミサオたちが、情報収集のため二手に分かれて行動を始める場面を描きました。
ヤヨイとクリスのペアでは、ミサオへの想いやその内面への理解が深まる対話が描かれ、
クミコとミサオのペアでは、軽妙なやり取りを交えつつ、しっかりと警戒を持った行動が始まります。
それぞれの視点を通して、「この領の異変」の片鱗が少しずつ見えてくる形になります。
地味な回ではありますが、後の展開に繋がる情報や、キャラクターの関係性の深まりを意識した構成です。
次回から、より核心に迫る出来事が起こっていく予定です。
「多分そこからの方が正解でしょ?ただクリスは目立つからねぇ。その容姿。しょうがないよね。何かあったらあたしが守ってあげるから!」
可愛らしい力こぶを両腕に作ってクリスにアピールするヤヨイ。
自分の身は自分で守れる実力を持つクリスなのだが、ここは素直にヤヨイの好意を受け取る。
「それは頼もしいな。何かあったら頼む。でもヤヨイも気を付けろ。ミサオも容姿を褒めていたからな。」
「・・・ミサオか。ねぇクリス?あいついつもおちゃらけ多いじゃんか?あれなんでかわかる?」
突然尋ねるヤヨイ。
「性格・・・では無いのか?」
素直に答えるクリス。
「ん~。それはそうなんだけどさ?あれ多分気ぃ使ってんだよ。アイツなりに。」
「そうなのか?」
「それとさ。面倒くさい仕事してるじゃん?お役目なんて。表と裏なんて使い分けてさ。・・・アイツさ?上手くやれてる様に見せてるんだと思うよ。普通の人には分からないと思う。でもね、一緒に暮らすの長くなってくるとさ。気付くんだよね。寝言とかさ。無意識の独り言とか。隠すのがクセになってんだと思う。前の世界からずっと。辛くても。しんどくても。・・・だからあたしとクミコでね?たまに引きずり出してやんの。本心。でないと壊れちゃいそうでさ。アイツ。」
笑顔のままだが、結構重い発言をするヤヨイ。
「そう・・・だよな。アイツは魔法で何でもこなせると私達に言う。大丈夫だからと。・・・ミサオも人間なのだから心も万能という訳も無い。多分無意識でやっている事だから本人もわかって無いだろう。・・・ヤヨイとクミコだから気付いたのだろうな。言葉だけでは無い所も見ておかないといけないな。アイツは自分の置かれている立場をもう少し自覚して欲しいものだな。」
クリスは改めて皇であるタロウからの勅命を考えて発言する。
「立場?ミサオの?アイツ個人の話なのに?」
ヤヨイは怪訝な表情をする。
「いや。言葉を間違えた。アイツが言う身内。身内の中にいるのなら、私達と居る時くらい、もっと心を開けと、そういう事を言いたかった。すまん。」
慌ててつくろうクリス。
嘘ではないが、クリスはミサオの一挙手一投足を観察して報告する役目がある。
秘密裏に。
ミサオはそれでも受け入れると言ってくれて半ば公認みたいなものだが。
「・・・強制じゃないけど、クリスも気付いたらビシッと言ってあげて!アイツ自分の事過小に見てるとこあるし。」
なんだかんだと言いながらもヤヨイは素直に心配しているのである。
「・・・わかった。私も同僚ではなく、そこは身内として見ておこう。・・・ビシッっとな!」
「そうそう!アイツ、バカだから言われないとわかんないから!・・・あ、市!早速色々見てみようよ!・・・すいませ~ん!このキャベチって・・・高っ!一玉800イェン?お姉さんこれはいくら何でも・・・え?税金?それ領民にひどくない?・・・うん。そうなんだ。お姉さんも大変なんだね・・・。そう。お姉さんその果物ちょうだい!良いよしょうがないよ高くても!それにしてもこの町は何でそんな事に・・・跡を継いだ領主。そんで?」
ヤヨイはしっかり情報を集めている様子。
クリスは静かにヤヨイの一歩後ろに立って、ヤヨイと野菜売りの女性との会話を聞きながら、不穏な動きに警戒する。
一方もう一つのペアであるクミコとミサオ。
「へ・・・へ、へくちょんぺい~っ!」
「なんですかミサオさん。そのくしゃみ。風邪?」
「いや、そんな事無いと思うけど・・・。モテる男にゃ付きものの噂でもされたのかな?」
「はいはい。先どっちに行きます?薬師の組合か図書館か。」
クミコはこの先の流れを確認する。
「どっちが目立たないかな?」
ミサオが尋ねる。
「・・・薬師の方ですかね?いきなり他の領の人間が学者でもないのに図書館とか真っ直ぐ向かったら、警戒している人間がいたとしたら目立ちますよね?」
「やっぱクミコさんペテンが効くねぇ!」
「ペテン?」
こちらの世界には用語に反応するクミコ。
「頭の回転が早いって事!んじゃ、薬師の組合から行きますか。今のところ首のチクチク無いから尾行とかは無いと思うけど慎重に。」
こちらのペアは薬師の組合に向かう事が決まった様だ。
「・・・これでお役目とかじゃなければ逢引きなんだろうけどなぁ。」
心の声が漏れるクミコ。
「クミコさん、何か言った?」
「いえ、な、何でも無いです!」
「そんな慌てないで!リラ~ックス。」
「はい!リラ~ックス!」
ワイワイと会話しながら、この2人は薬師の組合へ向かうのであった。
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今回は、領都ベニヤに到着したミサオたちが、情報収集のため二手に分かれて行動を始める場面を描きました。
ヤヨイとクリスのペアでは、ミサオへの想いやその内面への理解が深まる対話が描かれ、
クミコとミサオのペアでは、軽妙なやり取りを交えつつ、しっかりと警戒を持った行動が始まります。
それぞれの視点を通して、「この領の異変」の片鱗が少しずつ見えてくる形になります。
地味な回ではありますが、後の展開に繋がる情報や、キャラクターの関係性の深まりを意識した構成です。
次回から、より核心に迫る出来事が起こっていく予定です。
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