転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす

のりのりの

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Mission2 げきまじゅおくちゅりを克服せよ!

73.見事な逃げっぷり

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 悪夢のような急展開に、あたしとカルティは半泣きになる。

 激おこライース兄様……怖い!
 本編が始まっていないからって油断した!

「や、やっぱり……ら、ライース兄様に……じょーばは、おしえて……ほしいのですっ」

 恐怖に全身を震わせ、涙を浮かべながらも、辛うじてそれだけを絞りだす。

「ほ、ほかのヒトじゃだめです! ライース兄様じゃないとだめです!」
「うん……?」

 突き刺さるような視線が少し緩くなったのを感じる。

「お、お兄様が! ライース兄様がいいですぅっ!」
「わかった」

 あたしの魂からの叫び声に、緊迫していた空気がふっと緩む。

 顔をあげると、いつものライース兄様があたしに優しい眼差しを向けていた。

(た、たすかった――)

 カクカク震えながらも、カルティはなんとか体勢を整え、ワゴンを押しながら食堂を出ていく。
 じつに見事な逃げっぷりだ。

(か、カルティ! あたしをひとりにしないで――っ)

 あたしよりもお祖母様が大事なカルティには、あたしの心の声は届かない。
 振り向いてもくれない。

「…………」

 食堂の中には、あたしとライース兄様のふたりだけになった。

 室温は常温に戻ったが、大量に噴出した冷や汗で、背中が湿って気持ち悪い。
 まだ身体が恐怖で震えている。

「ら、ライース兄様……」
「なんだい? レーシア? どうしたんだい? そんなに震えて……」

 ライース兄様はあたしの隣の席に移動すると、あたしの頭をナデナデする。

 ガタガタ震えているのは、あなたのせいです!
 あたしはライース兄様に怯えているんですよ!

「な、泣いているのかい?」

(え……?)

 ライース兄様の指摘に、あたしは首を傾ける。
 すると、その拍子に、ぽたぽたと頬から涙の粒が滑り落ちていく。

「う……うわわわああん――っ」

 手で拭い取った涙を見たとたん、今まで抑えていた感情が爆発する。

 恐怖と、恐怖から開放された安堵と、木登りや乗馬訓練を拒否された悔しさ。

 そして……。

 死亡イベてんこ盛りのゲーム世界に転生してしまい、緊張の連続ですり減っていく心に、六歳児の感情が耐えきれず爆発した……。

「レーシア……」

 とまどいを含んだライース兄様の声が聞こえ、ひょいと身体が持ち上がる感覚の後、暖かな温もりに全身が包まれる。

 あたしはライース兄様の膝の上で抱っこされていた。

「う、う、うっ……っ。うわわわああん――っ」

 ライース兄様の胸の中にギュッと抱きしめられ、あたしは大声で泣き始める。

 哀しいのか、嬉しいのか、悔しいのか……なにがなんだかさっぱりわからない。
 ただ、どうしようもなく、涙が溢れ、泣きたくてたまらない。

「ごめん、レーシア……。びっくりさせた……かな?」
「ら、ライース兄様は……ず、ずるい……です……」

 そんな……そんなに、優しい声で囁かないでほしい。
 背中を愛おしそうに撫でないでほしい。

「レーシアは、泣くほど……馬に乗りたいのか?」

 あたしは首を左右に振る。

「あた、あたしは……じぶんで……馬に……の、のれるようになりたい……の……です……元気な……こになりたい……のです」

 途中でひっくひっくとしゃくりあげながらも、なんとかライース兄様にあたしの気持ちを伝える。

「わかった。レーシアの体調が悪くならなければ、乗馬は三日後からはじめよう。木登りは……馬を乗りこなせる体力がついてからはじめようか?」

 柔らかい声が、震えているあたしの心のなかに染み込んでいく。

 あたしはコクリと頷くと、再び泣き始める。
 感情のコントロールが上手くいかず、涙がつぎからつぎへとあふれでてくる。

 これだけ派手に泣いたのは……いつぶりだろうか。

 今世で双子の弟が死んだときも、あたしは泣かなかった。泣けなかったのだ。

 涙ひとつぶこぼそうとしない、可愛げのない子どもだ、メイドたちが陰で囁いていたのを知っている。

 前世だと……特番で放送されていた『涙なくては見られない懐かしの名作アニメベスト50』を見たとき以来だ。

 絵描き志望の少年が、飼い犬と一緒に凍死するシーンを不意に思い出し、さらに悲しくなって涙がでてくる。

 ライース兄様はいつまでも、いつまでも、あたしの背中を撫で続けてくれた。
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