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勇者から逃げる
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「この木の実は食べれるな」
勇者から逃げて一日目。俺は太い樹木の上を渡って逃げている。
以前後宮にいた故 第五側妃が言っていたのだ。
『木々の上は逃走にもってこいですわよ。人間は自身の身長より上を見ませんもの』
…ならばずっと上にいればいい。恵まれている事に、この森は魔素という魔力の元が豊富に存在している。
魔素を魔力に変換し、身体を向上させる強化魔法を持続させ続ければ良いだけだ。
「レビル~!どこにいるの~!」
勇者の声に息を潜める。
勇者の身体能力は魔法なしでも脅威だ。魔法を使って逃げた俺に魔法なしで追い付いて来ている。
「この辺だけどな?」
(そうだよ。今真上にいるからな!)
あの勇者の嗅覚も異常だ。逃げる度に当てている。
「あ、」
(今度はどうした?)
いまだに大量に血がついたままの勇者はまるで殺人鬼。…実際そうなのだが。
「もしかして上?」
「ッ!」
「見つけた!早く次の町へ行こう、レビル」
勇者はまるで何も無かったかの様に、穏やかに笑う。
いつも通りだったなら、俺も同じ風に笑っていただろう。勇者の顔や洋服についた血を、魔物の血と勘違いして。
…忘れられない。俺は覚えている。僧侶の食い千切られている腕を、泣いて死んでいた魔法使いを、…目の前で死んだ王女様を。
「お前は人間を食べたんだぞ?!なぜそんな顔をできる?!」
分からない。どうしてこの勇者は笑う?
「…なんで今更そんな事言うの?」
「は?」
今更…?
「まさか…嘘、だろ…」
呼吸が浅くなり、俺は枝に座り込む。
「…まさか知らなかったの?」
聞きたくない。だって、勇者は【勇者】なんだ。人間を守り救う、"あの"勇者達と同じ。
人間によって故意に選ばれたとしても…勇者、なんだ。
「気がついてなかったのはレビルだけだよ。そうか…やっぱりレビルだけは俺の事信じていたみたいだね」
「どういう、ことだ」
「王女は監視していた。魔法使いは用意していた。僧侶は殺していた。
ーーーこれで分かる?俺は食べていただけだよ」
「なにを、わからない。うそだ。しんじない。おまえのことなんて…」
「嘘つき。まだ俺の事、信じてるでしょ?」
皆、知っていた?勇者が人間を食べる事を?
(これ以上、この場にいては駄目だ…狂ってしまう!!)
分かっているのに、足が動かない。呼吸が浅くなる。視界が、ボヤける。
「大丈夫だよ。レビルは最後まで残すつもりだから。だから、降りてきなよ。早く次の町へ行こう?」
「ーーにーー?」
「ん?聞こえないよレビル」
「な、なんにん、たべた…?」
「分からないし知らないよ。でもそれが分かったら何か変わるの?変わらないよね?レビルの顔を見たら分かるよ。
俺の事を知る人間は皆同じ顔をするのに、レビルだけは違う。
ーーーー俺の事が、怖いんだね。珍しい」
俺は呼吸を整える。この勇者から逃げなければ。
(逃げる…?また誰かが犠牲になるのか?……無理だ。俺にはできない。)
だが魔王を殺せるのは勇者だけ。勇者が死んだら次世代は生まれるのか…?そんな話、見た事がない。
(俺はどうすればいい…?)
人間を見殺しに勇者を生かし続けて、人間族を救う?
それとも、勇者を殺して人間族を見殺す?
「レビル」
「ッ!?どうやって…!?」
いつの間に隣にいた勇者に驚き、俺は剣を落としてしまう。
「俺の事、嫌い?」
「は?」
首を傾げるこの勇者は、何を言っている?
「俺の事、嫌いになった?」
「ひぃっ!!」
勇者が俺に近づいて頬を舐める。
(怖い。勇者が、怖い)
俺は再び浅くなる呼吸にこのまま気絶してしまおうかと思っていた。
だがーー
「だれかお母さんをたすけてーーーー!!!」
子供の叫び声に、咄嗟に体が動いていた。
勇者から逃げて一日目。俺は太い樹木の上を渡って逃げている。
以前後宮にいた故 第五側妃が言っていたのだ。
『木々の上は逃走にもってこいですわよ。人間は自身の身長より上を見ませんもの』
…ならばずっと上にいればいい。恵まれている事に、この森は魔素という魔力の元が豊富に存在している。
魔素を魔力に変換し、身体を向上させる強化魔法を持続させ続ければ良いだけだ。
「レビル~!どこにいるの~!」
勇者の声に息を潜める。
勇者の身体能力は魔法なしでも脅威だ。魔法を使って逃げた俺に魔法なしで追い付いて来ている。
「この辺だけどな?」
(そうだよ。今真上にいるからな!)
あの勇者の嗅覚も異常だ。逃げる度に当てている。
「あ、」
(今度はどうした?)
いまだに大量に血がついたままの勇者はまるで殺人鬼。…実際そうなのだが。
「もしかして上?」
「ッ!」
「見つけた!早く次の町へ行こう、レビル」
勇者はまるで何も無かったかの様に、穏やかに笑う。
いつも通りだったなら、俺も同じ風に笑っていただろう。勇者の顔や洋服についた血を、魔物の血と勘違いして。
…忘れられない。俺は覚えている。僧侶の食い千切られている腕を、泣いて死んでいた魔法使いを、…目の前で死んだ王女様を。
「お前は人間を食べたんだぞ?!なぜそんな顔をできる?!」
分からない。どうしてこの勇者は笑う?
「…なんで今更そんな事言うの?」
「は?」
今更…?
「まさか…嘘、だろ…」
呼吸が浅くなり、俺は枝に座り込む。
「…まさか知らなかったの?」
聞きたくない。だって、勇者は【勇者】なんだ。人間を守り救う、"あの"勇者達と同じ。
人間によって故意に選ばれたとしても…勇者、なんだ。
「気がついてなかったのはレビルだけだよ。そうか…やっぱりレビルだけは俺の事信じていたみたいだね」
「どういう、ことだ」
「王女は監視していた。魔法使いは用意していた。僧侶は殺していた。
ーーーこれで分かる?俺は食べていただけだよ」
「なにを、わからない。うそだ。しんじない。おまえのことなんて…」
「嘘つき。まだ俺の事、信じてるでしょ?」
皆、知っていた?勇者が人間を食べる事を?
(これ以上、この場にいては駄目だ…狂ってしまう!!)
分かっているのに、足が動かない。呼吸が浅くなる。視界が、ボヤける。
「大丈夫だよ。レビルは最後まで残すつもりだから。だから、降りてきなよ。早く次の町へ行こう?」
「ーーにーー?」
「ん?聞こえないよレビル」
「な、なんにん、たべた…?」
「分からないし知らないよ。でもそれが分かったら何か変わるの?変わらないよね?レビルの顔を見たら分かるよ。
俺の事を知る人間は皆同じ顔をするのに、レビルだけは違う。
ーーーー俺の事が、怖いんだね。珍しい」
俺は呼吸を整える。この勇者から逃げなければ。
(逃げる…?また誰かが犠牲になるのか?……無理だ。俺にはできない。)
だが魔王を殺せるのは勇者だけ。勇者が死んだら次世代は生まれるのか…?そんな話、見た事がない。
(俺はどうすればいい…?)
人間を見殺しに勇者を生かし続けて、人間族を救う?
それとも、勇者を殺して人間族を見殺す?
「レビル」
「ッ!?どうやって…!?」
いつの間に隣にいた勇者に驚き、俺は剣を落としてしまう。
「俺の事、嫌い?」
「は?」
首を傾げるこの勇者は、何を言っている?
「俺の事、嫌いになった?」
「ひぃっ!!」
勇者が俺に近づいて頬を舐める。
(怖い。勇者が、怖い)
俺は再び浅くなる呼吸にこのまま気絶してしまおうかと思っていた。
だがーー
「だれかお母さんをたすけてーーーー!!!」
子供の叫び声に、咄嗟に体が動いていた。
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