母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
23 / 46
第三章

6、百家くんと私2

しおりを挟む
 百家くんの話によると、東神家には謂れのある井戸の跡が今でも残っている。

 かなり昔、その井戸は祟りがあるとされて、埋められた後も東神家に障りがあったらしい。


 この村の白狐信仰と、百家家と神社については複雑な話が絡み合っているらしく、この土地独自の神社への成り立ちがある様だった。

 それは置いておいて、白狐を祀る百家家に当時村長だった東神家がお祓いを依頼してきた様だ。

 祟りを抑えるために当時の百家家の当主は白狐の力を借りたのだという。

 その後は年に一度お祓いの為に東神家に百家家から当主がお祓いに行っていたそうだ。長い年月ずっと。

 だから東神家とは気が遠くなるほどの長い付き合いだという。

 けれども十数年前に一方的にそれを東神家が断って来たのだそうだ。それが東神家の二人の子供のうち上の男の子が亡くなった年だったという。



「祖父ちゃんの話だと、それよりも数年前に結界が破られていた跡があったらしい」

「どういう事?」

「今の東神家のご主人の前妻が亡くなった年の話らしいな。祟る何かを結界で閉じ込めてあったのに、結界が壊されて中の悪い物が居なくなっていたんだと。祖父ちゃんにはそこまでしか分からなかったそうだけど」

「ん?前妻ってどういう話?」

 なんか知らない話が出て来た。

 あ、白狐が今頭に乗った。軽くて重みを感じない。ひんやりと冷たい鼻が私の額に当たった。すると暑くてたまらなかった身体が急にスーっと楽になった。ふさふさとした立派な尾の感触が背に当たる。


「今の奥様の姉が最初の奥さんだったらしいな。病死した後直ぐに今度はその妹を嫁にもらったんだそう。子供が懐いていたかららしいけど」

「そうなの!?」

 白狐が何処かに飛んで行った。

「複雑な話でさ、川で亡くなった長男は姉の生んだ子で、生き残ったのは妹の生んだ子。長男が亡くなった後に気落ちした大奥様も後を追うように亡くなったそうだよ。そうそう、もっと前の前妻が亡くなった次の年に大旦那様も急逝されて亡くなってる。不幸続きなわけだ」

 なんか頭こんがらがりそう。まあ、前妻とかは置いておいて、取り敢えずは井戸の話だ。

「えっと、結界が破られてた事をその時に東神家に伝えたんだよね」

「もちろん言ったらしいけど、最初の若奥様が亡くなって、大旦那様が寝込まれている状況で、そんな昔の形ばかりのお祓いはもう結構だと言われたそうだ。それどころの騒ぎじゃなかったんだろうけど。だから『今起きている悪い状態は、井戸の結界が破られているせいだからです』なんて言っても信じなかったらしい。そもそも今の東神家のご主人は、井戸の話を父親から教えられていなかったそうで、『信じないタイプ』の人だそうだから、何を言っても無駄な感じだったらしい」

「それは、どうにも出来ないね。なんか複雑だし、こういうデリケートな問題は理解できない人には眉唾モノだから・・・」

「そうなんだ。人の家の事情に勝手に口を挟めない。時代が経過すると畏怖も薄れていく。ただの迷信だと思う者も出て来るから、そういう事を次世代にどう伝えて行くかで状況が変わる」

「で、その井戸は何なの?」

「うちに残っている記録によると、昔は疱瘡って病気があっただろ、昔は痘瘡(もがさ)とか言ったらしいけど。それにかかった東神家の娘が悲観して井戸に身を投げたってのが事の起こりらしい」

「疱瘡ってあれだよね『天然痘』。確か致死率が高くて、治っても酷い痕が顔や体中に残るっていう」

「そう。撲滅されたのは近年だからな」

「う~ん、その悪い物は結界から出て東神家に祟ってる?」

「そうだな白狐が言うには、悪霊になってるそうだ。もしかすると、内側にはもっと嫌な話があるのかも知れないけど」

「・・・どうしよう。とにかくお兄さんをその禍の中から出したいんだけど」

「もう一度同じ場所に封じて二度と出ない様にしないと駄目らしいぞ」

「えっと、つまりは、封じるには東神家のその場所に行かないと話にならないって事だよね」

「そうだな。封じるのも難しそうだ」

「私はそんな力はないし、百家くんは出来る?」

「それなんだけど、まずはお前さ、俺と出会う前と後で何か違う事がない?」

「違う事って・・・ああ、時々白狐が・・・視えるようになってきた」

「うん、俺も尾根山の件以降、だんだん霊が視えるようになってきた」

「どゆこと?」

「お互いの力の共有と増幅なんだと思う。ごくまれにそういう相手がいるそうだ」

「・・・嬉しくない気がする」

「ここは喜べよ。お前が気にしている悪霊に憑かれた家をなんとかする事が出来るかもしれないぞ」

「本当?」

「ああ、白狐達はお前を仲間と認めるそうだ。だから手を貸してくれる」

「ええ~フクザツ・・・」

 私は遠い目をした。

「あのな、大昔にその井戸を封じたのは白狐達の力だからな」

「そうか!そうだった。すごい頼りになる!」

「まったく、手のひら返しもいいところだな、お前」

「すいません、どうかお力をお貸しください」

 ぺこぺこ頭を下げる。首のタオルでいまいちカッコつかないけど。

「頑張ってみるよ、何かあったら、今度はお前が俺を助けてくれよな」

「もっちろんだよ」

 私が頼れるのは百家くんだけだ。良くないことに巻き込むのは申し訳ないけど、今後、私が彼の助けになる事があればいつでも手伝うつもりだ。だからよろしくお願いします。

 そんな私を見ながら、百家くんは頬杖ついて、「本当かなぁ」とボヤいていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...