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第三章
6、百家くんと私2
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百家くんの話によると、東神家には謂れのある井戸の跡が今でも残っている。
かなり昔、その井戸は祟りがあるとされて、埋められた後も東神家に障りがあったらしい。
この村の白狐信仰と、百家家と神社については複雑な話が絡み合っているらしく、この土地独自の神社への成り立ちがある様だった。
それは置いておいて、白狐を祀る百家家に当時村長だった東神家がお祓いを依頼してきた様だ。
祟りを抑えるために当時の百家家の当主は白狐の力を借りたのだという。
その後は年に一度お祓いの為に東神家に百家家から当主がお祓いに行っていたそうだ。長い年月ずっと。
だから東神家とは気が遠くなるほどの長い付き合いだという。
けれども十数年前に一方的にそれを東神家が断って来たのだそうだ。それが東神家の二人の子供のうち上の男の子が亡くなった年だったという。
「祖父ちゃんの話だと、それよりも数年前に結界が破られていた跡があったらしい」
「どういう事?」
「今の東神家のご主人の前妻が亡くなった年の話らしいな。祟る何かを結界で閉じ込めてあったのに、結界が壊されて中の悪い物が居なくなっていたんだと。祖父ちゃんにはそこまでしか分からなかったそうだけど」
「ん?前妻ってどういう話?」
なんか知らない話が出て来た。
あ、白狐が今頭に乗った。軽くて重みを感じない。ひんやりと冷たい鼻が私の額に当たった。すると暑くてたまらなかった身体が急にスーっと楽になった。ふさふさとした立派な尾の感触が背に当たる。
「今の奥様の姉が最初の奥さんだったらしいな。病死した後直ぐに今度はその妹を嫁にもらったんだそう。子供が懐いていたかららしいけど」
「そうなの!?」
白狐が何処かに飛んで行った。
「複雑な話でさ、川で亡くなった長男は姉の生んだ子で、生き残ったのは妹の生んだ子。長男が亡くなった後に気落ちした大奥様も後を追うように亡くなったそうだよ。そうそう、もっと前の前妻が亡くなった次の年に大旦那様も急逝されて亡くなってる。不幸続きなわけだ」
なんか頭こんがらがりそう。まあ、前妻とかは置いておいて、取り敢えずは井戸の話だ。
「えっと、結界が破られてた事をその時に東神家に伝えたんだよね」
「もちろん言ったらしいけど、最初の若奥様が亡くなって、大旦那様が寝込まれている状況で、そんな昔の形ばかりのお祓いはもう結構だと言われたそうだ。それどころの騒ぎじゃなかったんだろうけど。だから『今起きている悪い状態は、井戸の結界が破られているせいだからです』なんて言っても信じなかったらしい。そもそも今の東神家のご主人は、井戸の話を父親から教えられていなかったそうで、『信じないタイプ』の人だそうだから、何を言っても無駄な感じだったらしい」
「それは、どうにも出来ないね。なんか複雑だし、こういうデリケートな問題は理解できない人には眉唾モノだから・・・」
「そうなんだ。人の家の事情に勝手に口を挟めない。時代が経過すると畏怖も薄れていく。ただの迷信だと思う者も出て来るから、そういう事を次世代にどう伝えて行くかで状況が変わる」
「で、その井戸は何なの?」
「うちに残っている記録によると、昔は疱瘡って病気があっただろ、昔は痘瘡(もがさ)とか言ったらしいけど。それにかかった東神家の娘が悲観して井戸に身を投げたってのが事の起こりらしい」
「疱瘡ってあれだよね『天然痘』。確か致死率が高くて、治っても酷い痕が顔や体中に残るっていう」
「そう。撲滅されたのは近年だからな」
「う~ん、その悪い物は結界から出て東神家に祟ってる?」
「そうだな白狐が言うには、悪霊になってるそうだ。もしかすると、内側にはもっと嫌な話があるのかも知れないけど」
「・・・どうしよう。とにかくお兄さんをその禍の中から出したいんだけど」
「もう一度同じ場所に封じて二度と出ない様にしないと駄目らしいぞ」
「えっと、つまりは、封じるには東神家のその場所に行かないと話にならないって事だよね」
「そうだな。封じるのも難しそうだ」
「私はそんな力はないし、百家くんは出来る?」
「それなんだけど、まずはお前さ、俺と出会う前と後で何か違う事がない?」
「違う事って・・・ああ、時々白狐が・・・視えるようになってきた」
「うん、俺も尾根山の件以降、だんだん霊が視えるようになってきた」
「どゆこと?」
「お互いの力の共有と増幅なんだと思う。ごくまれにそういう相手がいるそうだ」
「・・・嬉しくない気がする」
「ここは喜べよ。お前が気にしている悪霊に憑かれた家をなんとかする事が出来るかもしれないぞ」
「本当?」
「ああ、白狐達はお前を仲間と認めるそうだ。だから手を貸してくれる」
「ええ~フクザツ・・・」
私は遠い目をした。
「あのな、大昔にその井戸を封じたのは白狐達の力だからな」
「そうか!そうだった。すごい頼りになる!」
「まったく、手のひら返しもいいところだな、お前」
「すいません、どうかお力をお貸しください」
ぺこぺこ頭を下げる。首のタオルでいまいちカッコつかないけど。
「頑張ってみるよ、何かあったら、今度はお前が俺を助けてくれよな」
「もっちろんだよ」
私が頼れるのは百家くんだけだ。良くないことに巻き込むのは申し訳ないけど、今後、私が彼の助けになる事があればいつでも手伝うつもりだ。だからよろしくお願いします。
そんな私を見ながら、百家くんは頬杖ついて、「本当かなぁ」とボヤいていた。
かなり昔、その井戸は祟りがあるとされて、埋められた後も東神家に障りがあったらしい。
この村の白狐信仰と、百家家と神社については複雑な話が絡み合っているらしく、この土地独自の神社への成り立ちがある様だった。
それは置いておいて、白狐を祀る百家家に当時村長だった東神家がお祓いを依頼してきた様だ。
祟りを抑えるために当時の百家家の当主は白狐の力を借りたのだという。
その後は年に一度お祓いの為に東神家に百家家から当主がお祓いに行っていたそうだ。長い年月ずっと。
だから東神家とは気が遠くなるほどの長い付き合いだという。
けれども十数年前に一方的にそれを東神家が断って来たのだそうだ。それが東神家の二人の子供のうち上の男の子が亡くなった年だったという。
「祖父ちゃんの話だと、それよりも数年前に結界が破られていた跡があったらしい」
「どういう事?」
「今の東神家のご主人の前妻が亡くなった年の話らしいな。祟る何かを結界で閉じ込めてあったのに、結界が壊されて中の悪い物が居なくなっていたんだと。祖父ちゃんにはそこまでしか分からなかったそうだけど」
「ん?前妻ってどういう話?」
なんか知らない話が出て来た。
あ、白狐が今頭に乗った。軽くて重みを感じない。ひんやりと冷たい鼻が私の額に当たった。すると暑くてたまらなかった身体が急にスーっと楽になった。ふさふさとした立派な尾の感触が背に当たる。
「今の奥様の姉が最初の奥さんだったらしいな。病死した後直ぐに今度はその妹を嫁にもらったんだそう。子供が懐いていたかららしいけど」
「そうなの!?」
白狐が何処かに飛んで行った。
「複雑な話でさ、川で亡くなった長男は姉の生んだ子で、生き残ったのは妹の生んだ子。長男が亡くなった後に気落ちした大奥様も後を追うように亡くなったそうだよ。そうそう、もっと前の前妻が亡くなった次の年に大旦那様も急逝されて亡くなってる。不幸続きなわけだ」
なんか頭こんがらがりそう。まあ、前妻とかは置いておいて、取り敢えずは井戸の話だ。
「えっと、結界が破られてた事をその時に東神家に伝えたんだよね」
「もちろん言ったらしいけど、最初の若奥様が亡くなって、大旦那様が寝込まれている状況で、そんな昔の形ばかりのお祓いはもう結構だと言われたそうだ。それどころの騒ぎじゃなかったんだろうけど。だから『今起きている悪い状態は、井戸の結界が破られているせいだからです』なんて言っても信じなかったらしい。そもそも今の東神家のご主人は、井戸の話を父親から教えられていなかったそうで、『信じないタイプ』の人だそうだから、何を言っても無駄な感じだったらしい」
「それは、どうにも出来ないね。なんか複雑だし、こういうデリケートな問題は理解できない人には眉唾モノだから・・・」
「そうなんだ。人の家の事情に勝手に口を挟めない。時代が経過すると畏怖も薄れていく。ただの迷信だと思う者も出て来るから、そういう事を次世代にどう伝えて行くかで状況が変わる」
「で、その井戸は何なの?」
「うちに残っている記録によると、昔は疱瘡って病気があっただろ、昔は痘瘡(もがさ)とか言ったらしいけど。それにかかった東神家の娘が悲観して井戸に身を投げたってのが事の起こりらしい」
「疱瘡ってあれだよね『天然痘』。確か致死率が高くて、治っても酷い痕が顔や体中に残るっていう」
「そう。撲滅されたのは近年だからな」
「う~ん、その悪い物は結界から出て東神家に祟ってる?」
「そうだな白狐が言うには、悪霊になってるそうだ。もしかすると、内側にはもっと嫌な話があるのかも知れないけど」
「・・・どうしよう。とにかくお兄さんをその禍の中から出したいんだけど」
「もう一度同じ場所に封じて二度と出ない様にしないと駄目らしいぞ」
「えっと、つまりは、封じるには東神家のその場所に行かないと話にならないって事だよね」
「そうだな。封じるのも難しそうだ」
「私はそんな力はないし、百家くんは出来る?」
「それなんだけど、まずはお前さ、俺と出会う前と後で何か違う事がない?」
「違う事って・・・ああ、時々白狐が・・・視えるようになってきた」
「うん、俺も尾根山の件以降、だんだん霊が視えるようになってきた」
「どゆこと?」
「お互いの力の共有と増幅なんだと思う。ごくまれにそういう相手がいるそうだ」
「・・・嬉しくない気がする」
「ここは喜べよ。お前が気にしている悪霊に憑かれた家をなんとかする事が出来るかもしれないぞ」
「本当?」
「ああ、白狐達はお前を仲間と認めるそうだ。だから手を貸してくれる」
「ええ~フクザツ・・・」
私は遠い目をした。
「あのな、大昔にその井戸を封じたのは白狐達の力だからな」
「そうか!そうだった。すごい頼りになる!」
「まったく、手のひら返しもいいところだな、お前」
「すいません、どうかお力をお貸しください」
ぺこぺこ頭を下げる。首のタオルでいまいちカッコつかないけど。
「頑張ってみるよ、何かあったら、今度はお前が俺を助けてくれよな」
「もっちろんだよ」
私が頼れるのは百家くんだけだ。良くないことに巻き込むのは申し訳ないけど、今後、私が彼の助けになる事があればいつでも手伝うつもりだ。だからよろしくお願いします。
そんな私を見ながら、百家くんは頬杖ついて、「本当かなぁ」とボヤいていた。
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