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第四章
4.告白のような
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ふと、途切れていた暑さと、蝉の声、線香の香りが急に感覚として戻って来たのを感じた。
『きゅわわーん』
どこからともなく現れ、ぴょいぴょいと跳ね回る白いモフ。消えた白昼夢にそっと息をつき改めて目の前にある鉄の門扉に手を伸ばした。
キィ~ッと音をさせてそれを開くと、一番新しいお墓の前にしゃがんでいたお兄さんがゆっくりとこちらを振り返った。
鯖色のボサボサの荒れた髪は、照りつける太陽の光で現実味のない不可思議な色に感じられる。
黒縁の眼鏡の奥の細い目は、ただ静かに私を見ていた。
「こんにちは、入っていい?」
先に私から声をかけた。仕切られた東神家の墓所に身内でもない私が勝手に入るのはいけないだろう。
「ああ、いいよ、どうぞ。俺も会いたかった」
それを聞いて私は門の中へ入り、門を閉めた。
「このお寺にお墓参りに来たんだけど、お兄さんが見えたから・・・勝手に来てごめんね」
「いや、会って話がしたかったのは本当だし、会えて良かった」
いつもはマスクしているので口元が見えないけど、今日はしていないので顔が全部見える。お兄さんの口元に笑みがあった。
「あの、そのお墓に、私もお参りさせてもらって良いかな?」
線香立てに立てられたお香の良い香りが流れてくる。それにここには水道がひかれていて、柄杓やバケツなども屋根付きの置き場所が作られている。お墓も綺麗に掃除されていた。
「うん、どうぞ」
お兄さんがしゃがんでいた新しいお墓の前に、私もしゃがんで手をあわせた。
言葉には出来ない色んな思いが私の胸の奥に留まっていて、今はここに埋葬された人達に何かを伝える事はできないから、黙って手を合わせただけだ。そして、朝の夢の中で手を引いてくれた人の事を思った。
それから二人で墓所を出てお寺の木陰に移動し、縁石に座って話をした。
「お盆で親父が家に帰れって連絡をよこしたから家に顔を出したんだ。母親の調子がおかしいって聞いてたのもあって・・・」
「おかしいって、どんなふうに?」
「精神的に不安定って言うか、そんな感じ。家に帰った俺が傍に近づいたら急に狂ったように叫びながら自分の部屋に逃げて、布団被って出てこなくなった。部屋に入ろうとしたら、「来るなっ」て怒鳴る声はとても母親の声じゃなくて、あの時は動物みたいに四つ足で這って行ったんだ。その姿は人とは思えなかった・・・俺は、これは普通じゃない事だと思った。あれは母さんじゃなかった。――――君は迷信だとか、超常現象とか信じる?」
お兄さんは直球で聞いてきた。それなら私もそのように返していいだろうと思った。それにどんなふうに言ったとしても、このお兄さんは私の言った事を悪くはとらえないんじゃないかと思えた。
「えっと、私は人には見えないモノが見えるから信じる。だからお兄さんに百家さんの護符を渡したでしょ」
悪いものに取り憑かれていたお兄さんのお母さんはその護符に反応したのじゃないだろうか。
「・・・そうなんだな。そういう気がした。それに初めて会った時から君の事はなんだかとても気になっていたよ。おかしな話、懐かしい感じがした。とても君の存在に惹かれていた。何故だか分からないけど」
「うん、わかる。私もお兄さんを初めて見た時、とても気になった。私もとてもお兄さんに会ったとき懐かしかった。だから意味があってここに戻って来たんだと思ってる」
私達以外の人には、まるで何かしら告白のようにしか聞こえないやりとりだっただろう。
そんな私の言葉に頷いてお兄さんは言った。
「家に帰って母親に会った時、親父も豹変する母を見ていたんだ。親父は現実主義者で、今まで家で起こった多くの不幸な出来事を家にある謂れのある井戸のせいにはしたく無かったらしいよ。でも数日前に百家神社の宮司さんが家を訪ねて来て、古くから伝わっている家の井戸の詳しい話を親父に話してくれたらしい。それで、やっとその事について真摯に受け止めたみたいだ。思う所もあったんじゃないかな」
「私、その井戸の話知ってる。よくない謂れの井戸なんでしょ」
「うん。とてもよくないものらしい。家に来てくれた宮司さんが、家に護符を貼ったり、敷地を祓って清めた石のような物を何か所かに埋めて帰ったそうなんだ。そしたら、親父の夢の中に俺のお兄ちゃんのお母さんが現れたんだって聞いた。あ、知ってるかも知れないけど、俺の亡くなったお兄ちゃんのお母さんは、俺の母親の姉だった人なんだ。やっぱり亡くなってるけど。――――その人が『この家には悪いモノが憑いていて入れなかったけど、百家さんのおかげでやっと入る事が出来た』って親父に話したらしい」
「―――あのね、私も前にお兄さんのお母さんが道の駅に来た時、悪いモノが憑いているのが視えた。だから護符を渡したんだけど。その時、百家さんの所の同級生も一緒にいたから、頼んだらあの護符を作ってくれたの」
「そうか、そんな事があったんだな。世の中には不思議な事があるな。生きていると知らない事に出会えたり、君に出会えたり、そんな風に、まだ、嬉しい事があるってわかって良かった。・・・死んでるみたいに生きてたけど、それでも生きてて良かった・・・」
ポツリ、ポツリとお兄さんは話してくれた。私はただ頷いて聞いている事しかできなかったけど・・・。
『きゅわわーん』
どこからともなく現れ、ぴょいぴょいと跳ね回る白いモフ。消えた白昼夢にそっと息をつき改めて目の前にある鉄の門扉に手を伸ばした。
キィ~ッと音をさせてそれを開くと、一番新しいお墓の前にしゃがんでいたお兄さんがゆっくりとこちらを振り返った。
鯖色のボサボサの荒れた髪は、照りつける太陽の光で現実味のない不可思議な色に感じられる。
黒縁の眼鏡の奥の細い目は、ただ静かに私を見ていた。
「こんにちは、入っていい?」
先に私から声をかけた。仕切られた東神家の墓所に身内でもない私が勝手に入るのはいけないだろう。
「ああ、いいよ、どうぞ。俺も会いたかった」
それを聞いて私は門の中へ入り、門を閉めた。
「このお寺にお墓参りに来たんだけど、お兄さんが見えたから・・・勝手に来てごめんね」
「いや、会って話がしたかったのは本当だし、会えて良かった」
いつもはマスクしているので口元が見えないけど、今日はしていないので顔が全部見える。お兄さんの口元に笑みがあった。
「あの、そのお墓に、私もお参りさせてもらって良いかな?」
線香立てに立てられたお香の良い香りが流れてくる。それにここには水道がひかれていて、柄杓やバケツなども屋根付きの置き場所が作られている。お墓も綺麗に掃除されていた。
「うん、どうぞ」
お兄さんがしゃがんでいた新しいお墓の前に、私もしゃがんで手をあわせた。
言葉には出来ない色んな思いが私の胸の奥に留まっていて、今はここに埋葬された人達に何かを伝える事はできないから、黙って手を合わせただけだ。そして、朝の夢の中で手を引いてくれた人の事を思った。
それから二人で墓所を出てお寺の木陰に移動し、縁石に座って話をした。
「お盆で親父が家に帰れって連絡をよこしたから家に顔を出したんだ。母親の調子がおかしいって聞いてたのもあって・・・」
「おかしいって、どんなふうに?」
「精神的に不安定って言うか、そんな感じ。家に帰った俺が傍に近づいたら急に狂ったように叫びながら自分の部屋に逃げて、布団被って出てこなくなった。部屋に入ろうとしたら、「来るなっ」て怒鳴る声はとても母親の声じゃなくて、あの時は動物みたいに四つ足で這って行ったんだ。その姿は人とは思えなかった・・・俺は、これは普通じゃない事だと思った。あれは母さんじゃなかった。――――君は迷信だとか、超常現象とか信じる?」
お兄さんは直球で聞いてきた。それなら私もそのように返していいだろうと思った。それにどんなふうに言ったとしても、このお兄さんは私の言った事を悪くはとらえないんじゃないかと思えた。
「えっと、私は人には見えないモノが見えるから信じる。だからお兄さんに百家さんの護符を渡したでしょ」
悪いものに取り憑かれていたお兄さんのお母さんはその護符に反応したのじゃないだろうか。
「・・・そうなんだな。そういう気がした。それに初めて会った時から君の事はなんだかとても気になっていたよ。おかしな話、懐かしい感じがした。とても君の存在に惹かれていた。何故だか分からないけど」
「うん、わかる。私もお兄さんを初めて見た時、とても気になった。私もとてもお兄さんに会ったとき懐かしかった。だから意味があってここに戻って来たんだと思ってる」
私達以外の人には、まるで何かしら告白のようにしか聞こえないやりとりだっただろう。
そんな私の言葉に頷いてお兄さんは言った。
「家に帰って母親に会った時、親父も豹変する母を見ていたんだ。親父は現実主義者で、今まで家で起こった多くの不幸な出来事を家にある謂れのある井戸のせいにはしたく無かったらしいよ。でも数日前に百家神社の宮司さんが家を訪ねて来て、古くから伝わっている家の井戸の詳しい話を親父に話してくれたらしい。それで、やっとその事について真摯に受け止めたみたいだ。思う所もあったんじゃないかな」
「私、その井戸の話知ってる。よくない謂れの井戸なんでしょ」
「うん。とてもよくないものらしい。家に来てくれた宮司さんが、家に護符を貼ったり、敷地を祓って清めた石のような物を何か所かに埋めて帰ったそうなんだ。そしたら、親父の夢の中に俺のお兄ちゃんのお母さんが現れたんだって聞いた。あ、知ってるかも知れないけど、俺の亡くなったお兄ちゃんのお母さんは、俺の母親の姉だった人なんだ。やっぱり亡くなってるけど。――――その人が『この家には悪いモノが憑いていて入れなかったけど、百家さんのおかげでやっと入る事が出来た』って親父に話したらしい」
「―――あのね、私も前にお兄さんのお母さんが道の駅に来た時、悪いモノが憑いているのが視えた。だから護符を渡したんだけど。その時、百家さんの所の同級生も一緒にいたから、頼んだらあの護符を作ってくれたの」
「そうか、そんな事があったんだな。世の中には不思議な事があるな。生きていると知らない事に出会えたり、君に出会えたり、そんな風に、まだ、嬉しい事があるってわかって良かった。・・・死んでるみたいに生きてたけど、それでも生きてて良かった・・・」
ポツリ、ポツリとお兄さんは話してくれた。私はただ頷いて聞いている事しかできなかったけど・・・。
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