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第五章
1.ミスもの
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結局、結論からいうと尾根山くんの友人に会う話の方が先に決まった。着付けを習った日のうちに、翌日に尾根山くんの友達とそのお祖父さんの骨董品店に行くことになったのだ。というのも道の駅のバイトは明日からなので、私の都合を考えてそうなったのだ。
昨日も時雨さんが家に送ってくれたのに、今朝も百家くんを連れて迎えに来てくれて、そのままJRのM駅に送ってくれた。
「ごめんね、斜陽の都合に付き合わせまくっちゃって」
「いえ、私こそお世話になっているのでお互い様ですから」
「うちの神社、普通では説明できないような不思議な案件の相談も人伝で受けてるの。だから神社での仕事でもあるから、今日は食事代も交通費も斜陽が出すから遠慮しないでね」
「えっ、いいんですか?」
突然、やる気の出た私を百家くんが呆れた顔で見ている。濁った魚の目に、光が戻ったことに気づいたらしい。
「もちろんよ。せっかくだからデ-トだと思って楽しんできてね~」
「それはちょっと・・・」
変な事をいう時雨さんには微妙な反応しか返せなかったが、丁度駅に着いたのでお礼を言って車を降りると直ぐに先に来ていた尾根山くんが後ろから走って来た。
「おはよう!久しぶり」
「おはよう」
尾根山くんが元気に声をかけて来たので、返事をして振り返ると、彼は私を見て目を見開いて固まってしまった。
ん?何だ、どうした???
「あ、別人級に変わって見えるけど、間違いなく塙宝だから」
私の後ろから百家くんがそう言った。
そういえば今日もお母さんから「コンタクトを付ける練習だと思って付けて行きなさい」と言われたので、そうしたのだった。ワンデータイプのコンタクトなので使い捨てだ。もし疲れて電車で寝る時には外して眼鏡にすればいいので、眼鏡もケースに入れてリュックに入れている。その眼鏡も新しいお洒落な方だ。眼鏡ケースまで素敵なのだ。
「えっ、えっ、ホントに?な、なんか、すごい可愛いね、目がすごく大きくて、アイドルみたいだ」
後の方はゴニョゴニョ言ってたのでよくわからなかったけど、耳まで真っ赤になって尾根山くんが変だ。
「眼鏡を外して、髪を下しただけなんだけど・・・中身は同じだから緊張しないでね」
私は淡々とそう言ったが、尾根山くんは電車に乗っても暫く動きがぎこちなくて挙動不審だった。ボックス席になっている所に座ったんだけど、チラチラこちらを見ているのがわかる。
なんていうか、人の外見で良くも悪くも相手の態度が変わるから、眼鏡とコンタクトは時と場合で使い分けた方が良さそうだなと漠然とそう思った。まあ、もともと女子枠から外れていた感があるので、今、女子として認知されたって所なのかもしれないけど。その辺りの感覚に疎いので少しずつ勉強していこう。
私が今日着ているものは、いつもの様にスキニータイプの伸縮性に優れたヨネクロのジーンズに、上は白無地のTシャツだ。自分だと白とか杢グレーのTシャツばかりになるので、お母さんが女の子らしい色柄物を時々買ってきてくれるけど、どうしても無難な色を好んでしまうのだ。
あと、リュックを背負っているスタイルも普段と変わらない。
「あ、あのさ、学校の近くにコンデトライカフェがあるから、ケーキとかあるし、用事が終わったらお茶して帰ろうか?塙宝さんの好きなケーキ、好きなだけ食べてくれて良いよ」
「ケーキを・・・好きなだけ?いいの?」
すごくいい響きの言葉だ。思わずコテンと首を傾げて尾根山くんに聞き返す。
「くーっ。何でも好きなもの選んでね。今日は付き合ってくれてありがとう!」
なぜか、両手の拳にぐっと力を入れる様な動作をして、めちゃくちゃ嬉しそうに尾根山くんはそう言った。
電車のボックス席には、窓側に百家くん、隣に尾根山くんが座り、対面の窓側に私が座っていた。
「今度から、お前連れて歩くの大変だな」
百家くんがぽそりと言った。
「何が?」
「何でもない」
それから電車のボックス席の中でぼそぼそと三人で今から尋ねる骨董品屋さんの話をした。
ガタンゴトンと車両が鳴る中での話だし、車両は空いているので人の耳を気にする必要はなかった。
「僕の高校の友達は、坂上っていうんだけど、そいつの祖父ちゃんが趣味で骨董品屋をやってるんだ。趣味っていうくらいだから、気が向いた時に開ける程度の小さい店らしいんだけど、そこに万年筆を見てくれって持ってきた客がいたらしいんだ」
「「万年筆?」」
思わず百家くんとハモってしまった。
「うん、なんたら社っていうケーキみたいな名前の・・・。そこの商品に作家シリーズっていう限定品が出てるらしいんだけど、それだったみたいでさ、何本かあったらしいけど」
「作家って本とかの作家?」
「うん、話を書く有名な作家のシリーズを1992年位から出してるんだって。ヘミングウェイとかそんな人の」
「ああ、なるほど」
百家くんの声に私もうんうんと頷いた。万年筆ってまず使わないから全く知識がないんだけどね。
「客は、持ってきた万年筆を見て欲しい、査定して、買い取ってくれないか?って言ったんだそうだ」
「そういうの難しそうだよね。知識が無いと査定できないでしょ?」
気になったので聞いてみる。
「うん、それがさ、坂上の祖父ちゃんが万年筆の蒐集家で、店のガラス戸に【限定品等の万年筆を高価買取します
】って貼りつけてるんだそう」
「じゃあお祖父ちゃん嬉しかったんじゃないの?」
「だろうね。ただあんまり状態の良い物は無かったらしいけど、ただ一本だけものすごいレアなのが入っていたんだって」
「どんなの?」
「万年筆のキャップに作家の名前が刻印されるんだって。アレクサンドル・デュマ・ペールって作家の名前を間違えて、息子の名前のアレクサンドル・デュマ・フィスにして販売しちゃったそうでさ、後で回収しようとしてもほとんど出来なかったらしいんだけど、その間違えて作られた万年筆だよ」
「どうして回収できなかったの?」
「そういうミスものって、必ず価値が高騰するから、買った人は手放さなかったらしいよ」
「なるほど~それで、レアね」
昨日も時雨さんが家に送ってくれたのに、今朝も百家くんを連れて迎えに来てくれて、そのままJRのM駅に送ってくれた。
「ごめんね、斜陽の都合に付き合わせまくっちゃって」
「いえ、私こそお世話になっているのでお互い様ですから」
「うちの神社、普通では説明できないような不思議な案件の相談も人伝で受けてるの。だから神社での仕事でもあるから、今日は食事代も交通費も斜陽が出すから遠慮しないでね」
「えっ、いいんですか?」
突然、やる気の出た私を百家くんが呆れた顔で見ている。濁った魚の目に、光が戻ったことに気づいたらしい。
「もちろんよ。せっかくだからデ-トだと思って楽しんできてね~」
「それはちょっと・・・」
変な事をいう時雨さんには微妙な反応しか返せなかったが、丁度駅に着いたのでお礼を言って車を降りると直ぐに先に来ていた尾根山くんが後ろから走って来た。
「おはよう!久しぶり」
「おはよう」
尾根山くんが元気に声をかけて来たので、返事をして振り返ると、彼は私を見て目を見開いて固まってしまった。
ん?何だ、どうした???
「あ、別人級に変わって見えるけど、間違いなく塙宝だから」
私の後ろから百家くんがそう言った。
そういえば今日もお母さんから「コンタクトを付ける練習だと思って付けて行きなさい」と言われたので、そうしたのだった。ワンデータイプのコンタクトなので使い捨てだ。もし疲れて電車で寝る時には外して眼鏡にすればいいので、眼鏡もケースに入れてリュックに入れている。その眼鏡も新しいお洒落な方だ。眼鏡ケースまで素敵なのだ。
「えっ、えっ、ホントに?な、なんか、すごい可愛いね、目がすごく大きくて、アイドルみたいだ」
後の方はゴニョゴニョ言ってたのでよくわからなかったけど、耳まで真っ赤になって尾根山くんが変だ。
「眼鏡を外して、髪を下しただけなんだけど・・・中身は同じだから緊張しないでね」
私は淡々とそう言ったが、尾根山くんは電車に乗っても暫く動きがぎこちなくて挙動不審だった。ボックス席になっている所に座ったんだけど、チラチラこちらを見ているのがわかる。
なんていうか、人の外見で良くも悪くも相手の態度が変わるから、眼鏡とコンタクトは時と場合で使い分けた方が良さそうだなと漠然とそう思った。まあ、もともと女子枠から外れていた感があるので、今、女子として認知されたって所なのかもしれないけど。その辺りの感覚に疎いので少しずつ勉強していこう。
私が今日着ているものは、いつもの様にスキニータイプの伸縮性に優れたヨネクロのジーンズに、上は白無地のTシャツだ。自分だと白とか杢グレーのTシャツばかりになるので、お母さんが女の子らしい色柄物を時々買ってきてくれるけど、どうしても無難な色を好んでしまうのだ。
あと、リュックを背負っているスタイルも普段と変わらない。
「あ、あのさ、学校の近くにコンデトライカフェがあるから、ケーキとかあるし、用事が終わったらお茶して帰ろうか?塙宝さんの好きなケーキ、好きなだけ食べてくれて良いよ」
「ケーキを・・・好きなだけ?いいの?」
すごくいい響きの言葉だ。思わずコテンと首を傾げて尾根山くんに聞き返す。
「くーっ。何でも好きなもの選んでね。今日は付き合ってくれてありがとう!」
なぜか、両手の拳にぐっと力を入れる様な動作をして、めちゃくちゃ嬉しそうに尾根山くんはそう言った。
電車のボックス席には、窓側に百家くん、隣に尾根山くんが座り、対面の窓側に私が座っていた。
「今度から、お前連れて歩くの大変だな」
百家くんがぽそりと言った。
「何が?」
「何でもない」
それから電車のボックス席の中でぼそぼそと三人で今から尋ねる骨董品屋さんの話をした。
ガタンゴトンと車両が鳴る中での話だし、車両は空いているので人の耳を気にする必要はなかった。
「僕の高校の友達は、坂上っていうんだけど、そいつの祖父ちゃんが趣味で骨董品屋をやってるんだ。趣味っていうくらいだから、気が向いた時に開ける程度の小さい店らしいんだけど、そこに万年筆を見てくれって持ってきた客がいたらしいんだ」
「「万年筆?」」
思わず百家くんとハモってしまった。
「うん、なんたら社っていうケーキみたいな名前の・・・。そこの商品に作家シリーズっていう限定品が出てるらしいんだけど、それだったみたいでさ、何本かあったらしいけど」
「作家って本とかの作家?」
「うん、話を書く有名な作家のシリーズを1992年位から出してるんだって。ヘミングウェイとかそんな人の」
「ああ、なるほど」
百家くんの声に私もうんうんと頷いた。万年筆ってまず使わないから全く知識がないんだけどね。
「客は、持ってきた万年筆を見て欲しい、査定して、買い取ってくれないか?って言ったんだそうだ」
「そういうの難しそうだよね。知識が無いと査定できないでしょ?」
気になったので聞いてみる。
「うん、それがさ、坂上の祖父ちゃんが万年筆の蒐集家で、店のガラス戸に【限定品等の万年筆を高価買取します
】って貼りつけてるんだそう」
「じゃあお祖父ちゃん嬉しかったんじゃないの?」
「だろうね。ただあんまり状態の良い物は無かったらしいけど、ただ一本だけものすごいレアなのが入っていたんだって」
「どんなの?」
「万年筆のキャップに作家の名前が刻印されるんだって。アレクサンドル・デュマ・ペールって作家の名前を間違えて、息子の名前のアレクサンドル・デュマ・フィスにして販売しちゃったそうでさ、後で回収しようとしてもほとんど出来なかったらしいんだけど、その間違えて作られた万年筆だよ」
「どうして回収できなかったの?」
「そういうミスものって、必ず価値が高騰するから、買った人は手放さなかったらしいよ」
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