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第五章
子煩悩な男
しおりを挟むこの所、大して使いもしていなかった大技の魔法と言うのを使い、ちょっと疲れた感もあり、アレン様の勧めにより、休みをとる事にした。
確かに力の使い過ぎなのか、このところ身体がだるい気がする。
病院のバイト(この世界にバイトに近い言葉がない)は、したいなら話を聞いておくと言われたので、最近あんまりアンドレアとふれあいを持っていないと思い、今日はアレン様のお屋敷でゆっくりとする事にした。
その日は何故かアレン様も屋敷に居て、用もないのにエミリアンとアンドレアの近くをウロウロするのである。
「あーたん」
アンドレアがそう呼ぶと、アレン様が「なんだ?」と言って寄ってきた。
エミリアンはムンクの叫びの様なリアクションを取ってしまった。
『あーたん!はないだろ、あーたんわ!』
だが絨毯に直に座っていたアンドレアは、アレン様に向かって平然とさも当たり前の様に両手を伸ばす。
「よしよし、抱っこか」
まんざらでもなさげに、寄ってきてアンドレアを拾い上げ、抱っこをする男に目を丸くして固まるエミリアン。
なんだか慣れてる、もしかして常習犯?アレンになれた様子のアンドレア…
「シャルルに幼児の扱いを教わったのだ。子供と言うのは邪気がなくて可愛いものだな」
そのアレン様の顔をアンドレアは無邪気に小さい手でバチンバチンと叩いて遊んでいる。ひょーっ
「こらこら、それは痛いぞ、母にそのような事をしてはならんぞ」
アレン様、面の皮厚い…アハハじゃないって…
やっぱ、顎に頭付きが一番堪えるんだけど、まだアレン様はやられてないのかしらね…
ちょっと遠い目のエミリアンだった。
そりゃまあ、背の高いアレン様に抱っこしてもらうと世界が違うよね。
シャルルも大きいけど、アレン様はもっと大きいもんね。
笑顔の大盤振る舞いのアンドレアに、アレン様に負けた感が半端ない。
終いにはアレン様は魔力を使いアンドレアを宙でクルリと回したり、フワフワ飛ばしたりとしはじめ、それをアンドレアが喜んでもっと、もっととせがむのを見て、これは間違いなく常習犯だと確定した。
「あーたん、もーっと」
「あーたん、もーっと」
お茶を淹れてくれたザリが、「アンドレアお坊ちゃま、旦那様にお馬さんをして頂いたらよろしいですわよ」
とか言うから、エミリアンは紅茶を噴きかけた。
なんの躊躇いもなくアレン様は絨毯の上に四つん這いになり、ザリがアンドレアを背中に乗せ支えてパカパカやっている。
皆…楽しそうで何よりだ。
ふと、部屋の隅で気配を殺しているシャルルを見ると、見ない振りをしていた。そのスキルを私にもくれ。
いや、これって家族団欒って奴かしらね?
アンドレアが遊び疲れ、マリンが昼食後、お昼寝をさせると言うので任せて、せっかくなので図書室に本を見に行こうと思った。
アレン様の館の図書室はとても広くて高い天井まで本棚がある。アレン様は高い場所でも梯子や階段を使わずに好きな本を魔力を使って取る事が出来るし、どこに何の本があるのか分かるのだそうだ。
図書室の本はほぼ読み終えていると聞いた。私の欲しい本も言えば仕入れてくれると言われていたが、恋愛小説だとかBL本(←ないかもしれない)が欲しいとか言うのははずかしいのでどうしようかなと思っている…。
そんな事を思っていると、アレン様が少し時間を貰えないかと言うので了承すると、私の魔力の事を聞かれた。
「エミリアンは魔法を打つのが何故とても速いのだ?」
「うーん、それは、私にもなぜ出来るのか分からないけど、アレン様や他の人のように魔力で古語を魔法陣に焼き付けて構築している訳ではないからです」
「なぜ構築しなくても魔法が使えるのだ?」
「頭の中で、この様な渦を出したいと思うと、それが具現化されるのです」
「いや、そんな馬鹿な事が…」
だよね、信じろって言われても普通は信じられないよね。
「例えばですね…」
私の手のひらから、先日出して皆を恐怖に陥れたらしい水龍の超小さい奴を出現させ、それを部屋の中で飛ばして見せた。
一匹、二匹、三匹、四匹、・・・・と沢山次々出して、ラインダンスの様に並べて躍らせたり、合わせて大きめの水龍にしたりとさまざまな動きをさせて最後に一瞬で散らせ、気体にして消した。
「…すごい、ありえない、お前は水の精霊なのか?」
「いえ、違います!」
それって、人じゃないから。
その後も色々アレン様に聞かれたが、答えれば答える程迷宮度が増しただけだった。
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