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第五章
ベルダ王国
しおりを挟むベルダ王国は小国だが、金の鉱山があり紅茶の名産地でもある。
今回、そのベルダ王国の王様の弟のプラトリア公爵(元だけど)がクーデターを計画していたって言う話だったけれど、その人ってどんな人だったんだろう?
気になったのでアレン様に聞いてみた。
すると、ベルダ王の腹違いの弟で庶子なのだそうだ。ベルダの王には他に弟が一人いるそうだが、その人も公爵になられているが、庶子のプラトリア公爵は王やもう一人の弟に比べてかなり待遇が悪く不満に思っていた様だとの事。
実際にアレン様が会った事があるのか聞いてみたら、会った事は無いと言われた。庶子は公式の場所には出られないのだそうだ。
「庶子って、どうして本人には責任が無いのにそんなに貶められるんだろう」
アレン様には私の今までの事情はハッサ家に入る時に言ってある。
思わず呟いた私の言葉に、アレン様は困った顔をした。
「その王弟って呪術師だって言っていたけど、ベルダの側が言っているだけの情報でしょ、こちらで裏は取れているの?」
イカン、だんだんタメグチになって来た。
「いや、だがロアンジュ殿下からは話を聞いている」
「そう言えば、ロアンジュ殿下って…私が毒を飲まされた時、見て見ぬフリしてたよね、あれってそう言う筋書きだったの?」
「いや、そんな事はない、毒も想定していたが‥見て、見ぬふり?」
そうなのだ、だってファウンズ伯爵令嬢は証拠になる毒の入った小瓶を持っていたのだ。わざわざ私が毒の紅茶に口を付けるのをまって衛兵を呼んだのは疑問の残る所だった。
これは私の想像だけれども、あの皇太子妃殿下は私の紅茶に毒を淹れられたのを見ていたのではないだろうか?
私が紅茶に口を付けるまで待て、とか何か指示が皇太子や、アレン様から出ていたのだろうか?と疑問だったのだ。
私が毒を飲むまで待たなくても、毒を紅茶に入れたかどうかなんてその場で調べればわかる事だ。見ていたのなら尚更だ。
私は毒を口に入れた瞬間吐き出してナフキンに吐き出したが、その一瞬無意識に周りを見回した。
目が合ったのだ。大きな青い瞳は一切の感情が欠落しているような表情だった。
「あのね、アレン様が信じる信じないは自由だけど、ロアンジュ殿下は…私に死んで欲しかったのではないかしら?」
「何を、馬鹿なことを…」
「だから、信じなくてもそれはアレン様の自由なの、これは私の独り言。ロアンジュ殿下に聞けば、もちろん見ていないとおっしゃるでしょうけど、私、身体強化していたから周りの事を見る余裕があった。身体強化すれば動こうと思えば人より早く動ける」
「…ちょっと、まて、身体強化とはなんだ?」
アレン様は呆れたような顔をして此方を見ている。
「ギフトよ、私は身体強化のギフトを持っているから」
「…そんな事は聞いていないぞ」
「そりゃそうでしょ、誰にも言ったことないし、ただ言えるのは、私に死んで欲しいと言う事は、アレン様に死んで欲しいって思っているって事よ。だからアレン様、誰にも油断しないで。皇太子殿下には今の事は絶対言わないで。」
こんな事を言われれば、全ての地盤が揺らぐのだから、そりゃ、フリーズするわな。
私の言った事は、ベルダ王国そのものが怪しいと言っているようなものだ。
私にはアレン様達の様に今までの先入観がないから、逆からものを考える事が出来る。
他の誰に言っても信じないだろうけれど、でもアレン様なら信じてくれるだろうと思った。
もし、もともと、ベルダ王国がゼノディクス王国を取り込もうと画策して動いていたら?
手っ取り早いのは、ゼノディクス王国の皇太子妃になり、後継ぎを作りベルダの血を入れればいい。
それで邪魔になるのは?もちろんハッサ家だ。
一番邪魔なのはやっぱりアレン様だろう。そうすると、ネックは呪術師のプラトリア公爵と言う人物だ。
本当に実在するのだろうか?呪術師と言うからには、その血はベルダ国の王族の持つ系統となる。
そもそも、それって言われなければ気づかない事だろうか?本当に誰も疑問に思わない?
だって、もしも皇太子妃や他のベルダの王族が呪術を扱う一族ならば、とても危険な事だ。
「プラトリアって人以外、王族に呪術使いは居ないの?」
「…いないと、…ロアンジュ殿下には伺っている」
ほうらね、こんな物だ。私の言っている事がただの杞憂なら良いのだ。もしも違っていなかった時が怖い。
「こう言う事、相談出来る信頼できる人居ないの?」
「…居るが、その前に、お前にしてもらいたい事が有る」
その後、アレン様に連れて行かれたのはアレン様のお兄さんの家、つまりアレン様の実家のハッサ公爵家のタウンハウスだった。
「はじめまして、私、エミリアン・ガブリエル・ハッサと申します」
そこには、お兄さんの奥さんのミルフィー様が居て、10歳くらいの男の子がいた。
「まあ、アレンは何時の間に結婚したの?どうして言ってくれなかったの?」
「義姉上、エミリアンはですね、」
「うふふ、冗談よ、冗談、シャドラから聞いているわ」
シャドラ様と言うのは、この国の宰相、エルメノス・シャドラ・ハッサ様の事だ。
アレン様のただ一人の兄上様だ。
ミルフィー様はゼノディクスのハッサ公爵家が持つカントリーハウスの隣領を持っているジャッカル侯爵家の娘で、幼馴染なのだそうだ。幼い頃からシャドラ様一筋だったそうだ。
「貴方に言われた様に、シャドラには用事があるから早く帰って貰うように連絡しておいたわよ」
「ありがとうございます。義姉上」
「まあまあ、アレンに義姉上なんて素直に呼んで貰えるなんて、義姉冥利につきるわあ、年はとってみるものね」
アレン様はもうしーらんぷりしてお茶を静かに飲んでいる。
「姉上、このお茶は…」
「あら、アレンでも分かるのね、ベルダの『バーバラ』よ、美味しいでしょなかなか手に入らないけれど、ロアンジュ殿下から賜ったそうよ」
「 …やっぱり、そうなのか… エミリアン、さっき頼んだ事をしてもらえないか…」
アレンの言葉に、エミリアンは頷きミルフィーに向き直り、彼女に言った。
「はい、ではミルフィー様、ちょっとお手を拝借してもよろしいでしょうか?」
「なあに、手をどうするの?」
「わたくしの手の上に重ねていただけますか?」
エミリアンの差し出した両手の平にミルフィーが手を重ねると、目に見えない何かがふわりとミルフィーを包み込みそして彼女の中を通り過ぎた気がした。
「どうだった?」
「ほんの少しですが弱い呪縛の影のような物がありました。もう消えましたけど」
「そうか、やはりな、間違いなく『ベルダのバーバラ』を媒体にしている」
それは、とんでもない事だ。とてつもなく恐ろしい事がこのゼノディクス王国の中でひそかに進行していっているのだった。
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