神様になった私、神社をもらいました。 ~田舎の神社で神様スローライフ~

きばあおき

文字の大きさ
6 / 46

この神社、やばくない?

しおりを挟む
 起きたときは既に夜になっていた。

「なんてこと! どれだけ眠ってたのよ私は?」

「ゆかりさん、おはようございます。もう夜ですけど」

猫姿のきりが顔の前に座って私を見下ろしていた。

「おはよーきり。良かった、元気そうだね。やっぱり夢じゃ無かった」

いつもの朝ならば起き上がれないきりの寝床を整えて朝ごはんを食べさせて、それから自分の身支度を始めていたのだ。

「あ、ごはん! きり大丈夫? おなかすいてない?」

「大丈夫です、おなか空かないみたいですよ。ゆかりさんはいかがですか?」

「そういえば身体は絶好調だね。なんか子供時代の寝起きみたいだよ」

拝殿を見回すと、乱雑に置かれていたガラクタが綺麗に片付けてある。

埃が積もっていた祭壇もピカピカだ。

「これ、もしかしてきりが掃除した? 私が寝てる間に」

「ごめんなさい。勝手にやっちゃいました」

「うわー! ありがとうきりー! おまえ掃除もできるようになったんだねー。びっくりしたぁ。いいこだよー」

きりを胸に抱いて身体に顔を埋めた。

「神使として当然です! というか、獅子さんと狛犬さんからみんなで掃除をしようって言われて一緒にお掃除したんですよ。

そうそう、お外も見てくださいよ」

きりを抱いたまま拝殿を出てみると、雑草だらけだった境内はまるで毎日手入れされていた神社のように凜とした静けさを放つ神域らしさを見せていた。

「おっ! 山の神様、起きてきましたね。どうです。見違えたでしょう」

獅子と狛犬が獣の姿で現れ、獅子が自慢げに言う。

「すごいね。みんなありがとう。早起きして私がやろうとは思ってたんだけど、ほんと、私も掃除しなきゃって思ってはいたのよ」

狛犬は尻尾をぶんぶん振っている。

クールに見えて褒められるのが嬉しいようだ。

「前の山の神様はあまり頓着とんちやくしないお方だったので氏子にまかせっきりだったのですよ。

神使がいたら違ったのかもしれませんが」

「え、その氏子は今どうしてるの?」

「高齢化の波にのまれまして」

狛犬がうなだれて言う。

「そう。ご冥福を祈るわ」

「生きてますけどね、息子夫婦のとこに引っ越ししたんでさぁ」

獅子がちょっと悔しそうに言う。

「なぁんだ。って、え? 氏子って一人しか居なかったわけじゃないでしょ?」

「唯一のその者が祭司さいしをやっていたのです。あとは物好きな参拝者が時々来る程度ですね」

「村の人って氏子じゃ無いの?」

普通、地元の神社を氏神としてお祀りするのだが、狛犬の話では違うようだ。

「村人は隣町よりまだ先にある神社に参拝しています。彼らの神棚に我が社のお札はありません」

「それもそうか。社務所が無いからねぇ。きっと以前は宮司さんの家が社務所になってたのね」

現況を理解しヒルメの言葉を思い出した。

――古くからの氏子によって神社の体を成しているに過ぎなかった

その氏子すら一人もいないこの神社は山神の力だけで神社の体を成しているだけだということだ。

「そうか、本殿は御山で、ここは拝殿。山神様を祀る場所ってだけなのか。

古代の祭祀は野外で執り行っていたというし、御山からこの場所までが神社の全体像なのね」

「そうっすね、我らも霊獣になって石に宿る前は御山全体を住み処にしてましたからね」

「確かに。拝殿ができたのは最近の事ですね」

「いやいや、拝殿に置かれてた板書きに平安時代に作られたような事が書いてあったよ」

「よく分かりませんがそんな昔という感じはしないですね」

霊獣の狛犬達にとって時間の経過は気にするほどの物では無いようだった。

私もそんな存在になってしまうのだろうか。

「平安時代からあっても延喜式えんぎしきに載ってない式外社しきげしやなんだろうから、神様が誰なのかも伝えられていないってことなのね。

それで村人から山の神神社とか呼ばれていたというわけか」

拝殿が建てられていたのも不思議なくらいである。

大抵、神名が分からない山の神を祀っているのは、祠だ。

それなのにこの社は拝殿にも山の神を配備し、災いを起こす神を抑える布陣にしてあるのだから、なかなかに重要拠点であったと言えよう。

しかし、今の時代に山を恐れておまつりする人なんて猟師ぐらいなものだろう。

そして猟師だってこんな里山にはいない。

「ほんとここって山神様だけで保ってるってことか」

「そういうこってすよ、山神様と持ちつ持たれつの関係を続けていればずっとこの地で生き続けられますからね。山の神様はごゆっくりなさってください」

私は獅子の楽観的な言葉に全く賛同出来なかった。

この時代、いや、これからもずっとこの国は発展してゆくだろう。

私が生きている人間で、この山を買った地主だったら守ることもできるだろう。

また、昔の伝承を語り継ぐ村人がいて、聖域を大事に想う人々がいる時代ならば神社は守られる。

しかし、現代は違う。

今までたくさんの里山が切り開かれ住宅地となり、なかには神社もろともダムの底に沈んだ村だってあるのだ。

しかもそれは発展の名のもと、急速に進んでいる。

憧れのスローライフを満喫できると思っていたが、この神社を取り壊せないくらい名を上げておかなければ時代に呑み込まれて消えてしまう可能性が高い。高すぎる。

「ちょっとこれ、やばい状況じゃないの!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

処理中です...