神様になった私、神社をもらいました。 ~田舎の神社で神様スローライフ~

きばあおき

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祭神交代の宴会?

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「おや、おまえらどうしたんじゃ? なにかあったのか?」

「はっ、山の神様、この猫が入り込んでいたようで」

二匹は参道の脇に下がり、頭を下げた。

「おぉ、すまんすまん。言い忘れておった。この子は新しい山の神の神使じゃ」

「あーっどうしたのきり? なにこの犬とライオンは!!! シッシッ、うちのきりになにするのっ!」

二匹の獣に睨まれ硬直しているきりを、私は抱きかかえて飛び退いた。

「わーん! ゆかりさぁん、怖かったよう」

「大丈夫だよ、もう大丈夫」

「ぐすっぐすっ」

「おぉ、おぬしら、久方ぶりだの。ちゃんと仕事しとるか?」

私と山の神が社に降り立った時、社殿の前できりが襲われそうになっているのが見えて、私は慌てて助け上げたが、聞いたことの無い女性の声に振り返る。

山の神の隣にはいつの間にか妖艶な美女が立っていた。

その服装は、ボディラインが美しい白ロングのラップワンピース。

胸元はハリウッド女優のようにバックリと切り下げられ、白くなめらかなデコルテの下に放り出されそうになっている巨乳が眩しい。

お尻まで隠した銀髪は緩くウェーブが掛かっていて光り輝いて見える。

こんな山里なのに白いパンプスまで履いて、いや、山だからヒールはやめたのかも。

意外と理性あるな。

どっちにしろ高級キャバ嬢にしか見えない。

「す、すごいゴージャス」

(あーこの人、山神様だよね。やっぱり人型になれるんだ。女子だったのね)

なんとなく大きな生き物って雌であることが多いという勝手な認識を持っていた私は、こうなることを予想していた。

(そりゃ、一升瓶二本ぐらいで宴会だって喜ぶはず無いと思ったけどね)

「当たり前じゃ。この姿は少ない酒でも酔いが回ってお得なんじゃ」

「あ、すみません。山神様のお姿に少々驚いてしまって」

山の神が一歩前に出て獣たちに向かう。

「獅子よ、狛犬よ、儂は引退じゃ。

今後はこちらの佐藤ゆかり殿が山の神として山神様の鎮守を勤めてくれる。

幾久しくお守りせよ」

二匹の獣はモヤに包まれ、次の瞬間、人間の姿に変わっていた。

獅子は大きな身体、筋肉が黒スーツを張り裂けんほどに盛り上げ、まさにライオンが服を着ているような姿。

狛犬は黒いパンツスーツが、完璧ボディのシルエットを引き立たせる長身女性。

整った美貌に目つきが鋭い女性SPのようだ。

二人とも野性的な魅力と理知的な眼力を兼ね備えた凜々しい若者達であった。

「ははっ!」

「ははっ」

私たちに向かって二人は片膝を突きこうべを垂れる。

“佐藤ゆかり、叙位じよい従五位下じゆごいのげを与える”

頭に荘厳な声が響く。

「わっ! なんですかこの声?」

思金おもいかね様の高天原通達じゃ。これでおぬしは儂と同じ神階を賜りこのやしろあるじとなった」

ヒルメの言っていた位階が与えられ、私の中に山神との繋がりができたことを感じる。

「えっ? さっきのが引き継ぎだったんですか?」

「そんなもんじゃ。しかし、そんなものが重い」

「あ、はい。肝に銘じておきます」

引き継ぎの儀とかなにかちゃんとした儀式をして神が入れ替わるものかと思っていたけれど、日本の神様だもんね。そりゃアバウトだ。

「そしてこの二人は……」

「あ、言わなくてもわかります。ボディガードみたいなものですよね。
どうかよろしくお願いいたします」

「獅子と申します。これからも山の神様をお守りします」

「狛犬と申します。獅子共々よろしくお願いいたします」

二人のガードは私に向かって頭を下げた。うん。とっても気持ちがいい。

「この者達は儂と一緒に遙かな昔より、この小さな神域と御山を護ってくれた。
ありがとうよ」

「おかしらぁ! もったいないお言葉を!!

こちらこそ長きにわたりお勤めごくろうさんっしたぁぁ」

でかい図体の獅子が半泣きで額を地面にこすりつけている。

「獅子よ、社長と呼べと言っておるに。社長、いままでお疲れ様でございました。また大変お世話になりました」

(おやしろの長で社長かな? こいつら変にシャバ慣れしてるな。親分って言わなかっただけでもマシだけど。

しかし、こんな辺鄙なところにある神社にこんな強そうな守護者がいるってのは意外だね、おっと聞かれた? かな)

私の思考に山の神は反応しない。

どうやら正式に叙位されたことで私の神威が上がったということなのだろう。

「えっえええっ!」

きりの驚いた声に目を向けると、巫女姿の若い女性が立っていた。

「きり? きりなの?」

「わたし、わたし、なんか人の姿に……」

茶髪のボブカットが似合う、若さとかわいらしさを具現化した巫女姿に、私はもだえた。

「きりぃぃぃぃ! 可愛いよぉぉ。人の姿もこんなに可愛いんだねぇぇ。ほらほら、ママと呼んで」

私はきりを抱きしめ、いつものように頬ずりぐりぐり。

「ゆかりさぁ~ん!」

「正式な社主やしろぬしとなった神の神使じゃ。仕事をするときにはその姿が便利なこともあるじゃろうて。

儂の時は神務員じむいん入れてくれと言っても、とうとう誰も寄越してはくれなかったがの。

まぁ参拝者も少ないから、書き物や掃除は儂がやって足りたが……」

なんとも憐れな山の神であった。

それから三柱みはしらの神達で送別会兼歓迎会が始まった。

酌めども尽きぬたった二本の大吟醸をきりのお酌で好きなだけ呑めるのは幸せだった。
山神は山の神の湯飲み茶碗にお酒をどばどば注いでいる。

あの時買ったクリームパンとさきイカがあったらなぁと思いつつ、宴会は私の短い生い立ちや山神と山の神の悠久なる昔話を肴に明け方まで続いたのであった。

山の神が不意に立ち上がった。

「それではの」

片手を上げて簡単に言うと、その姿はかき消すように消えてしまった。

「酒が奉納されたら呼ぶのじゃぞ」

そう言い残して山神もあっけなく帰って行った。

一升瓶は元のまま『奉納』の熨斗紙のしがみが巻かれ、祭壇の端に置かれた姿に戻っていた。

きっといま呑んだら酒では無くなっているのだろう。

きりは猫の姿に戻り丸くなって眠っている。

そっと抱き寄せて、空いている場所に横になる。

いつも一緒に寝ていたきりの姿のままだ。

「とりあえず一眠りしたら住みやすいように改造したいな……」

私は眠りに落ちた。
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