32 / 46
神様ってなんなんだ?
しおりを挟む
「こ、これは……二十万、父さん、これ本当に振り込まれたんですか? 凄いな、あの稲荷神社がたった三ヶ月で。こんな大金、神社の収入じゃありませんよ!」
稲荷神社の帳簿に通帳の金額を転記していた葉介は通帳を持った手を震わせた。
「ライブ配信を神社でやるなんて、と思っていた時期が父にもあった。しかも神……、まぁ、これぞ神の恩恵。素晴らしい話では無いか」
「父さん、開き直りましたね」
そんな遣り取りが宮司親子の間であったと白蛇山神社に出勤してきた葉介から聞いた。
彼はウカ様より預かった手土産を持ってきた。なんと買おうと思っていた日本酒、まんさくの花の大吟醸、最高ランクだった。
「すっごーい! これが広告収入ってやつですね。やったー」
きりはどこで聞いたのか広告収入などという言葉を知っていた。
「ゆかりさんがわたしを撮影してお金儲けするって言ってた時期があるじゃないですか」
葉介がギョッとして私を見ている。
「まさか、いかがわしい撮影を……」
「んなわけあるかぃ! 人聞きの悪い。かわいいきりたんの姿を全世界に配信してみんな喜ぶ、私も儲かって喜ぶ。そーゆービジネスモデルだから!」
「あぁ、モフモフ動画のことでしたか。びっくりしました」
稲荷神社の参拝者を増やして収入を安定させる事ができたので一段落だ。
これから先はあの二人なら上手くやっていけると思う。今度は自分の課題を考えなきゃ。
「私ができる人と神との関係性作りかぁ。うーん、思いつかないなぁ」
神界部屋のソファーにあぐらをかいてうんうん唸っていると、きりが冷たい麦茶をいれてくれた。
「このあいだウカ様のライブ配信が成功してたじゃ無いですか。うちでもやってみてはいかがですか?」
「私が神で-すって? 無名の神がそんなのやったらそれこそ新興宗教だよ」
「山神様はやってますけどね。うわばみ姉さんの酒呑み配信って」
「えっえー、恐ろしい適応能力。今度見てみよっと。
じゃなくて私が言いたいのは配信でもなんでもいいけど、信者を増やすことが神様の仕事じゃないでしょって」
信仰を集める事が神と人の関係性が高まった理想郷なのだろうか?
私はそれを違うと感じている。
盲目的な新興宗教のイメージがあるためだ。しかし高天原の神は信者を増やすことが目的の可能性はあるかもしれない。
今の時代に神を押し出したって良いことなど無いと思う。
「うん、元OLには難しいわ。葉介君にも聞いてみよう。明日は月初だからちょうどミーティングだしね」
夜になって葉介が拝殿に現れた。扉を開いて中へ入ると直接神界部屋だ。
「きたきた! 買ってきてくれた? ごめんねぇお金はお賽銭から会議費とかなんかの名目で仕訳してね」
「焼き鳥盛り合わせと缶チューハイが会議費ですか。そうですか」
「まぁまぁまぁ、軽く呑んで食べて、ざっくばらんに思ったことを話して欲しいわけよ」
きりはコンビニ袋の中身を手早くテーブルに配置している。コップは四つだ。
「すごく美味しそう、葉介君、これ、わたしの分もあるよね」
「ちゃんときり先輩の分も買ってきましたよ。一人五本ずつですからね」
「良い後輩だよ、えらいぞ葉介君っ!」
きりたん先輩、嬉しそうである。
そこへ悠々と山神が現れる。今夜は赤いジャージ姿だ。以前私が着ていたのを見て真似したら気に入ったらしい。
「おお、美味そうじゃ。鶏じゃな、わしの好物なんじゃ」
「山神様、一人五本ずつだそうですよ」
きりがすかさずけん制する。
「はいはい、きり先輩のはお皿に分けておきますからゆっくり食べてくださいね」
「わーい」
葉介は若いのに気が利く子だ。きり先輩にプライドはあるのだろうか。
「あー、それでは皆さん、適当につまんで呑んでください。今宵、葉介君をこの部屋に招いたのは、神職の考えが聞きたかったからなのです。忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
「はい。して、その内容は?」
「大きく言えば人と神との共存共栄の可否、小さい事だと私はなにをしたらいいの?」
「ざっくりしてますね」
「うむ。葉介君、早速だけど神道とかの事を教えてくれない?」
「ちゃんと説明したら何年もかかりますが、私が思っている神道のわかりやすい部分だけ話しますと、神道は世界三大宗教とまったく違うところがあります。教えや開祖が無いんです」
「あー、たしかに」
「古事記や日本書紀の神話だけが日本の神話を記述したものと言われていますが、あの話、聖書みたいに経典にしたら駄目ですよね」
「神様の失敗談は教えといえば教えかもしれないけどね」
「次に神道でおこなう所作は何をしているかというと、神の怒りに触れないように神に近づく作法です」
「作法ね。茶道みたいなものかな」
「そうですね。古来、日本の神は近づくと危険なものでした。そのため神を祀り、捧げ物をして荒ぶる事の無いよう鎮める人達が伝えてきたものです」
「そうじゃな。人なんぞ、我らの領域に生えた雑草のようなモノじゃ。邪魔と思えば喰ってたわ」
「うーん、ひどい。雑草ならほっといてやればよかったじゃないですか。
神道はそういった祀りごとをしてきたわけだけど、今まで人は神様にお願い事をして叶えて貰って益々お供え物をしていたんでしょ」
「神様へお願い事をする慣習が始まったのは仏教の神様と日本の神様が混ざった頃からでしょうね。仏教の救いを神に求めるように日本神話の神様にもお願いごとをしてしまうのではと」
「なるほど」
「平安初期の話ですから真偽はわかりませんが、神仏習合で、神とご先祖様はいつもどこかで見ている存在だという考え方が日本人の思想になったのだと思っています」
生活の端々に神や先祖の存在を感じ、畏れ、見えないものに恥じない人生を過ごすことが昔の人の暮らし方だったと思う。いまの人々はそれを忘れかけている。
神仏習合で古い神々は名を忘れられ、畏れも薄まり、祀られなくなっていった。
そして力を失い、消えた神も数多くいたのだろう。
それでも地域で守り、語り継がれた神も居る。
神話に記されることも無い無名の神は人々の恐怖と畏れの記憶と共に細々と祀られ続けた。
それは災害の跡であり、滾滾と湧く泉であり、大自然が作り出した造形だ。
パワースポットも静かな大木があるかと思えば、荒々しい火山もそれだ。
「神を自然現象にたとえるならば、神職は原始的な事をやっている事になります。が、現に神が居ることを知った今は、畏れ、讃えて、人々が神の怒りに触れないように神社で祀り、管理するのが神職の仕事なのだと感じます。
管理なんて恐れ多い言葉ですが」
「あのさ神が自然現象に対する畏れだとしたら、神様って善悪の概念が無いんじゃない?」
「そうですね、うーん」
葉介は腕を組んで考え込んだ。
「ゆかりよ、善悪の概念は人が造ったものじゃな。たしかにそんなこと考えたことも無かったわ」
「それなのかな。ヒルメ様が人間を神にして知りたかった事」
私の中にぼんやりと天照大神の思惑が浮かびかかっている。
「ゆかりさん、神社ってたくさんの人がお願いに来ますけど、その人が悪い人だったらゆかりさんはそれを叶えますか」
きりが何の気なしに言ったそれはまさしく私が気になった本質だ。
「ゆかりなら人を殺して欲しいと頼まれてもその願いは叶えないであろうな。じゃがわしらはその地に在るだけじゃ。元より人の願いなんぞ聞かぬ」
「それは山神様だからでしょ~」
人の話なんかどうでも良さそうな山神だ、そりゃ聞かないよと笑って聞いていたが、山神は笑っていなかった。
「なぜ我らが人の願いを叶える必要がある?」
本当に不思議そうな顔をして山神は言ったのだ。
「それか! 神様の力はパワースポットなんだ。人の願いも呪いも善悪なんか関係なく元から聞いてなんかいない。想いのベクトルを強化するだけなんだよ! ね? 山神様、そうなんでしょう?」
「うむ。そう作用するだろうな。善悪の願いなど区別されぬ。想いの強さで願望は叶えられる方向に進むだろう」
私は山神という生き物? が私達と違う価値観に居るものだと改めて気づいてしまった。
地球人と宇宙人ほどの違いだ。
「ゆかりさん、山神様のおっしゃるとおりです。神様はお願い事を頼む相手じゃありません。神への祝詞は願い事なんかじゃないんです。
神社に詣でるのは、神を讃え、人が善く生きていられることのお礼を伝えるためなんです」
「神道は神を利用しようって気はないんだね」
「祝詞に頼み事を乗せることはします。神の力でベクトル強化されて効果が発生するのだと思います。神にちゃんと言葉を伝えられる神官もいるとは聞いてますけど利用ではありません」
葉介君の言うことは正しいと思う。では神様って何者なのだろう。
人と神の共通点は、言語、家族、食文化、知識の価値といったところだろうか。
では人間と違うものはなんだろうかと考えた。
宗教観は無さそうだ。
文化の核となる芸術や表現は理解していると思う。
共同体としての道徳はあるのだろうか。
他の神や弟でも平気で殺してしまう神話を信じるなら、価値観は絶対違う。
パワースポットに住まないと力が弱くなってしまう?
「なんか考えてたら、神様って宇宙人と変わらない気がしてきたよ。山神様が宇宙人だって言われたらすんなり信じられるね。私は……、人間の価値観で神様をやればいいのかな」
「わたしはゆかりさんのままでいいと思います」
きりが私の手を握ってくる。
「おぬしなりの振る舞いを続けておれば良いのじゃ。善悪を判断をするも良し、荒神として人を遠ざけるも良し、高天原と剣を交えるも良し」
「最後のはちょっと」
「地上の神を統一し、高天原と一戦交えて最高神の座を狙ったって良いのじゃぞ。わしは消えたくないからやらんが」
「宇宙人か……。僕の今まで知っていたことがなんというか、はっきり理解できた感じがします。都会には神も、神の末裔も実在してましたよ」
葉介が何を見てきて理解したのか、ちょっとヤバそうなので聞かないが。
人間が神の仕事をしたらどうなるか、ヒルメ様にもわからなかったから私を神にしたのだ。
それは神が理解出来ない道徳や善悪を人の神がどのように扱うのかを知りたかったのかもしれない。
「あーっ、善悪の判断なんて、個人で違うんだから裁判官を神にしたほうがよかったんじゃないのー」
「神にも善悪の区別ぐらいつくわ。わしに逆らう者はすべて悪じゃ」
山神は神のステレオタイプなのだろうな。
すなわち神は自分勝手なのだ。
私と葉介は山神の言葉ですべてを理解して顔を見合わせてため息をついた。
「わたしはゆかりさんが善でゆかりさんを悲しませる人は悪だと思います!」
「きりたん! おまえはずーっと私の味方にいておくれー。好き好きー」
“白蛇山大神、叙位、従四位下を与える”
「なんでよー!」
稲荷神社の帳簿に通帳の金額を転記していた葉介は通帳を持った手を震わせた。
「ライブ配信を神社でやるなんて、と思っていた時期が父にもあった。しかも神……、まぁ、これぞ神の恩恵。素晴らしい話では無いか」
「父さん、開き直りましたね」
そんな遣り取りが宮司親子の間であったと白蛇山神社に出勤してきた葉介から聞いた。
彼はウカ様より預かった手土産を持ってきた。なんと買おうと思っていた日本酒、まんさくの花の大吟醸、最高ランクだった。
「すっごーい! これが広告収入ってやつですね。やったー」
きりはどこで聞いたのか広告収入などという言葉を知っていた。
「ゆかりさんがわたしを撮影してお金儲けするって言ってた時期があるじゃないですか」
葉介がギョッとして私を見ている。
「まさか、いかがわしい撮影を……」
「んなわけあるかぃ! 人聞きの悪い。かわいいきりたんの姿を全世界に配信してみんな喜ぶ、私も儲かって喜ぶ。そーゆービジネスモデルだから!」
「あぁ、モフモフ動画のことでしたか。びっくりしました」
稲荷神社の参拝者を増やして収入を安定させる事ができたので一段落だ。
これから先はあの二人なら上手くやっていけると思う。今度は自分の課題を考えなきゃ。
「私ができる人と神との関係性作りかぁ。うーん、思いつかないなぁ」
神界部屋のソファーにあぐらをかいてうんうん唸っていると、きりが冷たい麦茶をいれてくれた。
「このあいだウカ様のライブ配信が成功してたじゃ無いですか。うちでもやってみてはいかがですか?」
「私が神で-すって? 無名の神がそんなのやったらそれこそ新興宗教だよ」
「山神様はやってますけどね。うわばみ姉さんの酒呑み配信って」
「えっえー、恐ろしい適応能力。今度見てみよっと。
じゃなくて私が言いたいのは配信でもなんでもいいけど、信者を増やすことが神様の仕事じゃないでしょって」
信仰を集める事が神と人の関係性が高まった理想郷なのだろうか?
私はそれを違うと感じている。
盲目的な新興宗教のイメージがあるためだ。しかし高天原の神は信者を増やすことが目的の可能性はあるかもしれない。
今の時代に神を押し出したって良いことなど無いと思う。
「うん、元OLには難しいわ。葉介君にも聞いてみよう。明日は月初だからちょうどミーティングだしね」
夜になって葉介が拝殿に現れた。扉を開いて中へ入ると直接神界部屋だ。
「きたきた! 買ってきてくれた? ごめんねぇお金はお賽銭から会議費とかなんかの名目で仕訳してね」
「焼き鳥盛り合わせと缶チューハイが会議費ですか。そうですか」
「まぁまぁまぁ、軽く呑んで食べて、ざっくばらんに思ったことを話して欲しいわけよ」
きりはコンビニ袋の中身を手早くテーブルに配置している。コップは四つだ。
「すごく美味しそう、葉介君、これ、わたしの分もあるよね」
「ちゃんときり先輩の分も買ってきましたよ。一人五本ずつですからね」
「良い後輩だよ、えらいぞ葉介君っ!」
きりたん先輩、嬉しそうである。
そこへ悠々と山神が現れる。今夜は赤いジャージ姿だ。以前私が着ていたのを見て真似したら気に入ったらしい。
「おお、美味そうじゃ。鶏じゃな、わしの好物なんじゃ」
「山神様、一人五本ずつだそうですよ」
きりがすかさずけん制する。
「はいはい、きり先輩のはお皿に分けておきますからゆっくり食べてくださいね」
「わーい」
葉介は若いのに気が利く子だ。きり先輩にプライドはあるのだろうか。
「あー、それでは皆さん、適当につまんで呑んでください。今宵、葉介君をこの部屋に招いたのは、神職の考えが聞きたかったからなのです。忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
「はい。して、その内容は?」
「大きく言えば人と神との共存共栄の可否、小さい事だと私はなにをしたらいいの?」
「ざっくりしてますね」
「うむ。葉介君、早速だけど神道とかの事を教えてくれない?」
「ちゃんと説明したら何年もかかりますが、私が思っている神道のわかりやすい部分だけ話しますと、神道は世界三大宗教とまったく違うところがあります。教えや開祖が無いんです」
「あー、たしかに」
「古事記や日本書紀の神話だけが日本の神話を記述したものと言われていますが、あの話、聖書みたいに経典にしたら駄目ですよね」
「神様の失敗談は教えといえば教えかもしれないけどね」
「次に神道でおこなう所作は何をしているかというと、神の怒りに触れないように神に近づく作法です」
「作法ね。茶道みたいなものかな」
「そうですね。古来、日本の神は近づくと危険なものでした。そのため神を祀り、捧げ物をして荒ぶる事の無いよう鎮める人達が伝えてきたものです」
「そうじゃな。人なんぞ、我らの領域に生えた雑草のようなモノじゃ。邪魔と思えば喰ってたわ」
「うーん、ひどい。雑草ならほっといてやればよかったじゃないですか。
神道はそういった祀りごとをしてきたわけだけど、今まで人は神様にお願い事をして叶えて貰って益々お供え物をしていたんでしょ」
「神様へお願い事をする慣習が始まったのは仏教の神様と日本の神様が混ざった頃からでしょうね。仏教の救いを神に求めるように日本神話の神様にもお願いごとをしてしまうのではと」
「なるほど」
「平安初期の話ですから真偽はわかりませんが、神仏習合で、神とご先祖様はいつもどこかで見ている存在だという考え方が日本人の思想になったのだと思っています」
生活の端々に神や先祖の存在を感じ、畏れ、見えないものに恥じない人生を過ごすことが昔の人の暮らし方だったと思う。いまの人々はそれを忘れかけている。
神仏習合で古い神々は名を忘れられ、畏れも薄まり、祀られなくなっていった。
そして力を失い、消えた神も数多くいたのだろう。
それでも地域で守り、語り継がれた神も居る。
神話に記されることも無い無名の神は人々の恐怖と畏れの記憶と共に細々と祀られ続けた。
それは災害の跡であり、滾滾と湧く泉であり、大自然が作り出した造形だ。
パワースポットも静かな大木があるかと思えば、荒々しい火山もそれだ。
「神を自然現象にたとえるならば、神職は原始的な事をやっている事になります。が、現に神が居ることを知った今は、畏れ、讃えて、人々が神の怒りに触れないように神社で祀り、管理するのが神職の仕事なのだと感じます。
管理なんて恐れ多い言葉ですが」
「あのさ神が自然現象に対する畏れだとしたら、神様って善悪の概念が無いんじゃない?」
「そうですね、うーん」
葉介は腕を組んで考え込んだ。
「ゆかりよ、善悪の概念は人が造ったものじゃな。たしかにそんなこと考えたことも無かったわ」
「それなのかな。ヒルメ様が人間を神にして知りたかった事」
私の中にぼんやりと天照大神の思惑が浮かびかかっている。
「ゆかりさん、神社ってたくさんの人がお願いに来ますけど、その人が悪い人だったらゆかりさんはそれを叶えますか」
きりが何の気なしに言ったそれはまさしく私が気になった本質だ。
「ゆかりなら人を殺して欲しいと頼まれてもその願いは叶えないであろうな。じゃがわしらはその地に在るだけじゃ。元より人の願いなんぞ聞かぬ」
「それは山神様だからでしょ~」
人の話なんかどうでも良さそうな山神だ、そりゃ聞かないよと笑って聞いていたが、山神は笑っていなかった。
「なぜ我らが人の願いを叶える必要がある?」
本当に不思議そうな顔をして山神は言ったのだ。
「それか! 神様の力はパワースポットなんだ。人の願いも呪いも善悪なんか関係なく元から聞いてなんかいない。想いのベクトルを強化するだけなんだよ! ね? 山神様、そうなんでしょう?」
「うむ。そう作用するだろうな。善悪の願いなど区別されぬ。想いの強さで願望は叶えられる方向に進むだろう」
私は山神という生き物? が私達と違う価値観に居るものだと改めて気づいてしまった。
地球人と宇宙人ほどの違いだ。
「ゆかりさん、山神様のおっしゃるとおりです。神様はお願い事を頼む相手じゃありません。神への祝詞は願い事なんかじゃないんです。
神社に詣でるのは、神を讃え、人が善く生きていられることのお礼を伝えるためなんです」
「神道は神を利用しようって気はないんだね」
「祝詞に頼み事を乗せることはします。神の力でベクトル強化されて効果が発生するのだと思います。神にちゃんと言葉を伝えられる神官もいるとは聞いてますけど利用ではありません」
葉介君の言うことは正しいと思う。では神様って何者なのだろう。
人と神の共通点は、言語、家族、食文化、知識の価値といったところだろうか。
では人間と違うものはなんだろうかと考えた。
宗教観は無さそうだ。
文化の核となる芸術や表現は理解していると思う。
共同体としての道徳はあるのだろうか。
他の神や弟でも平気で殺してしまう神話を信じるなら、価値観は絶対違う。
パワースポットに住まないと力が弱くなってしまう?
「なんか考えてたら、神様って宇宙人と変わらない気がしてきたよ。山神様が宇宙人だって言われたらすんなり信じられるね。私は……、人間の価値観で神様をやればいいのかな」
「わたしはゆかりさんのままでいいと思います」
きりが私の手を握ってくる。
「おぬしなりの振る舞いを続けておれば良いのじゃ。善悪を判断をするも良し、荒神として人を遠ざけるも良し、高天原と剣を交えるも良し」
「最後のはちょっと」
「地上の神を統一し、高天原と一戦交えて最高神の座を狙ったって良いのじゃぞ。わしは消えたくないからやらんが」
「宇宙人か……。僕の今まで知っていたことがなんというか、はっきり理解できた感じがします。都会には神も、神の末裔も実在してましたよ」
葉介が何を見てきて理解したのか、ちょっとヤバそうなので聞かないが。
人間が神の仕事をしたらどうなるか、ヒルメ様にもわからなかったから私を神にしたのだ。
それは神が理解出来ない道徳や善悪を人の神がどのように扱うのかを知りたかったのかもしれない。
「あーっ、善悪の判断なんて、個人で違うんだから裁判官を神にしたほうがよかったんじゃないのー」
「神にも善悪の区別ぐらいつくわ。わしに逆らう者はすべて悪じゃ」
山神は神のステレオタイプなのだろうな。
すなわち神は自分勝手なのだ。
私と葉介は山神の言葉ですべてを理解して顔を見合わせてため息をついた。
「わたしはゆかりさんが善でゆかりさんを悲しませる人は悪だと思います!」
「きりたん! おまえはずーっと私の味方にいておくれー。好き好きー」
“白蛇山大神、叙位、従四位下を与える”
「なんでよー!」
83
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる