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山河 枝

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3章 隣国へ

3-6 父の腹のうち

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 彼らの肩当ての飾り紋で、どこの私兵かすぐにわかった。
 レオナルドも同じらしい。

「何事だ!ヘイルフォード公爵家の兵士が、なぜここにいる?」

 そう言って胸を張っているが、手綱を持つ手は震えている。
 私も冷や汗が止まらない。
 
 この状況は、どう考えてもばれている。
 父は、イザークがペンダントを盗んだことを知っているのだ。

 私は、半ばやけになって叫んだ。

「レオナルド、逃げる!?」

「無理だよ!というか、逃げてどこに行くんだよ!」

「そうだ、潔く諦めろ」

 しわがれた声がして、私たちは同時に口をつぐんだ。
 兵士の輪の外から、父が鋭い目でこっちを見ている。
 
「処刑人、ペンダントを盗んだのはお前だな?」

「はい」

 私の背後で、イザークは即座に頷いた。

「こらっ、イザーク!せめて一回は否定しなさいよ!」

「否定など無駄だ。ペンダントがなくなったこと、処刑人が行方をくらませたこと──どちらも証人がいる」

 父が、「来なさい」と後方に呼びかけた。
 二人の人物が、私たちの前に進み出てくる。

「アナベル様……」

「申し訳ございません……」

 肩を縮こめてうつむくのは、ジョルジュさんと、レオナルドが私に付けてくれた侍女だ。

「どういうこと……?」

「どうもこうも、お前の脇が甘すぎるだけだ」

 父は腕組みをして、ため息をついた。

「今朝、お前は空のケースを手に、立ち尽くしていたんだろう?それを侍女が見つけた。そして、ジョルジュに相談したんだ」

「じゃあ、私がイザークの家に行った時……」

「すでにジョルジュは処刑人を怪しんでいた。すると処刑人は行方知れず。疑念を強めたジョルジュは、一連の出来事を私に報告してきたのだ。お前と陛下が、執務室で悪だくみをしている間にな」

「……うぅ」

 順序立てて説明されると、たしかに私の行動は甘かった。

 私もレオナルドも、ほかのみんなも、とっさの弁解が出てこない。
 その中で、父は悠々とイザークを見上げた。

「そういうわけだ、処刑人。聖女からペンダントを奪った者は死刑だと、お前も知っているだろう?どこから漏れたかわからんが、すでに一部の宮廷貴族の耳にも入っている。大人しくこちらへ来い」

「承知しました」

 イザークはあっさりと頷き、私を抱えて馬から降りた。

「イザーク、なんで!?逃げてよ!」

「私がここで抵抗すれば、アナベル様や陛下まで危険にさらしてしまいます」 

「ちょっとの怪我なら気にしないってば!というか下ろして!」

 ジタバタと暴れてみたものの、イザークは小さな子どもを扱うように、私を兵たちに引き渡した。

「ヘイルフォード公爵、私はどちらへ行けばよろしいでしょうか?」

 業務的に話すイザークに、父はなぜか不愉快そうに顔をしかめた。

「公爵、どうなさったのです?私を捕えるのでしょう?」

「お父様、駄目!話を聞いてください!」

 兵士に腕を掴まれたまま、私は喚いた。
 しかし、父もイザークも私を無視。

「処刑人は、公爵邸の地下牢へ。アナベルは三階の客室へ軟禁しろ」

「軟禁!?私が何をしたっていうんですか!」

「『馬に乗るな』という言いつけを破った。魔王討伐の際はやむを得なかったが、今回は明らかに自分の意志で乗っているからな」

 そんな馬鹿げた理由で閉じ込められてたまるか。
 私は父を睨みつけた。

 父も私を睨み返してくる。
 その目を見て、私はハッとした。

 呆れや怒りではなく、もっと別の何かが秘められている。
 どこかで見たような──ああ、そうだ。

 かつて彼が、「レオナルド殿下の婚約者はお前に決まった」とアナベルに告げた時の目だ。
 大業を成し遂げよ、というような目。
 あれにそっくりだ。

「私に、何かしろってこと……?」

 そう呟いた時には、父とイザークは兵士とともに、大通りの向こうへ立ち去っていた。
 一体、私に何をさせようというのだろう。
 
 父の消えた方向を見つめていると、

「アナベル……」

 リリィが、憔悴した様子で私を呼んだ。
 私は彼女を、それからほかのみんなを見回し、「大丈夫」と言った。

「お父様に考えがあるみたい。ひとまず、ヘイルフォードの屋敷に行ってみる。みんなは体を休めておいて」

 リリィたちが顔を見合わせる。
 私は彼らに手を振り、用意された馬車に乗った。

 とは言ったものの、不安でたまらない。
 かといって、身動きの取れない状況で足掻いても、何も変わらない。

 大人しく兵士について屋敷に入り、目的の部屋まで案内してもらった。

 中は、客間と寝室を兼ねたようなつくりだった。
 さすが公爵家と言うべきか、高級そうな調度品がいくつも置かれている。

 レオナルドには言えないが、王宮の客用寝室よりいい部屋だ。
 見方を変えれば、懲罰のための軟禁ではない、とも考えられる。

 そわそわしながら父を待っているうちに、日が暮れてきた。
 味のわからない夕食を終えたあと、ようやくドアがノックされた。

「はいっ!」

 私はドアノブに飛びつき、思い切りドアを引き開けた。
 父が、珍獣を見たような顔で立っていた。

「……アナベル、落ち着け」

「無理です。詳しく話してください。お父様は何を考えてるんですか?」

 私はまくし立てながら、手でソファを示した。

「イザークを処刑するんですか?違いますよね?」

 違うと言って、と祈っていると、父は動じることなくソファに腰掛け、深々とため息をついた。

「はあ……」

「な、何ですか?」

「まったくもって心外だ。お前だけでなく、陛下にまで冷血漢だと思われていたとは」

「……?」

「私が今回の件を知れば、処刑人を処刑するに違いないと、信じて疑わなかったのだろう?」

「そ、それは……でも、だって現に投獄したじゃないですか。イザークを」

「投獄はする。だが、処刑をするつもりはない」

「え?」

「今夜、警備を手薄にするから発て」

「え?え?」

「誰が処刑を執行するか、議会で決めねばならんが、奴らは決断を先延ばしにするのが好きだからな。我々がグダグダと話し合っている隙に、お前は処刑人を連れて、目的を果たしてこい」

「も、目的って?」

「サムエルから簡単に話を聞いた。また魔物を討伐するのだろう?物資や人手は手配してやるから、日の出前にイザーク王子を連れて、ファルガランへ発て」

「いや、あの……話についていけないんですけど。というかイザークって、今は王子じゃないし。そもそも、なんで急に王子呼び?」

 混乱しながら尋ねると、父は不敵にニヤリと笑った。
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