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1章 断罪回避
32 現実的な単独突入
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私は足を止め、イザークに詰め寄った。
「私、死なないでって言ったはずだけど。忘れたの?」
声を低め、彼を睨み上げる。
軽率なことをするつもりなら、形のいいあごに頭突きを食らわせてやる。
イライラする私と、ハラハラするリリィの視線を受けて、イザークは淡々と言った。
「命を賭けるつもりはありません。現実的な話をしています。以前、大聖堂で魔物を討伐したことがあるのですが」
「えっ!仲間は……」
「いません」
私は、リリィと一緒に目を丸くした。
最凶乙女ゲームのラストダンジョンに、単独突入する人がいるなんて。
「その際、戦闘開始から撤退まで、かかった時間は九十秒ほどでした」
「よ、よく数えてたね」
「無駄な動きがなかったか、反省点を探すのに重要な要素ですから」
そんな、エンドレスバトルモードの挑戦者じゃあるまいし。
すごいけど。
「それを踏まえれば、今回は百秒は戦闘を続けられるかと。アナベル様がペンダントを受け取るまでの時間を、十分稼げるでしょう」
何を言ってるんだ。
馬鹿なことを考えるな。
そう言いたいけど、ほかに打つ手がない。
「じゃあ、イザーク……百秒だけ、戦ってくれる?」
「もちろんです。リリィ様からペンダントを奪うこと以外でしたら、何でもいたします」
「……ありがとう」
私は唇を噛み、強く拳を握りしめた。
すぐにパッと手を開いて、自分の頬を軽く叩き、顔の強張りをほぐす。
それからリリィに向き直った。
「リリィ。今の話、わかった?」
「うん……」
「できるかな?イザークが戦ってくれてる間に、筒状の壁を二つ作って、穴を開けるところまで」
「たぶん……ううん、やってみる」
リリィの顔色は、まだ少し青い。
本調子とは言えないようだ。
だけど声は、馬車を降りた直後より力強い。
ほかにアクシデントがなければ、今日は何とか乗り切れるだろう。
とはいえ、問題がなくもない。
「ただ、問題が一つ」
イザークが、私とリリィを交互に見る。
「リリィ様とアナベル様、どちらも魔物に狙われる危険があります。お二人が同時に攻撃を受けた時は、リリィ様を犠牲にするしか──」
「わかってるから!全部言わなくていいから!」
急いでイザークの言葉を遮る。
リリィを不安にさせないでほしい。
私の想定していた問題は、まさしくそれなんだけど。
「だから、魔物の群れを一点に誘導するんだよ。そうしたら対処しやすいでしょ?」
「ええ……しかし、どうやって魔物を集めるのですか?」
「それは……」
と、私が言いかけた時、後方から「何をもたついてるの!」と甲高い声がした。
私たちが立ち止まっているので、マチルダが痺れを切らしたらしい。
ほかの貴族も伴って、こっちへ近づいてくる。
これ以上話し込んだら、私たちの企みがばれそうだ。
「イザーク。こうやって魔物を集めるの!」
私は自分の手の甲を、ローブの留め金にガリッと擦りつけた。
「アナベル様⁉︎」
「アナベル、何をするの⁉︎」
チリチリとした痛みと一緒に、線状に血がにじむ。
「こうすれば、魔物は匂いに惹かれて私のところに来るよ!」
目を丸くする二人の前で、私は手を掲げた。
その直後、二十メートルほど先にある床のひび割れから、ザザザ……という音が聞こえてきた。
続いて、魔物化したトカゲや蛇が、何十と飛び出してくる。
「アナベル……!」
「リリィ、急いで!私、一回なら攻撃を避けられるから!」
そのぐらいはできるだろう。というか、やる。
ちなみに根拠はない。
「ごめんなさい……私、頑張るから……!」
リリィが目元をぬぐい、ペンダントを握りしめる。
コハクがぽよんと現れて、短い手でバンザイをした。
リリィの周りに、ジワジワと岩の壁が立ち上がっていく。
それを確認してから、私はイザークに手を合わせた。
「ごめんね、頼りにしちゃって。百秒間、お願いします」
「お任せを……ですが、そのようなことは、もうおやめください」
イザークは、睨むように私の手の傷を見下ろした。
かと思うと、早足で前に進み出る。
直後、私の周りにも壁が立ち上がってきた。
「あ。危なくなったら後退してよね!」
戦う後ろ姿に叫んだものの、イザークに無視されてしまった。
表情は変わらないけど、たぶん怒っている。
大股で歩きながら剣を抜き、最初に滑り込んできた蛇の首を、事もなげに落とす。
(自分から『戦う』って言ったのに、なんで怒るんだろう……って、トカゲにぶつかる!……と思ったらもう斬ってた!)
イザークは、舞うように敵を斬り払っていく。
手に汗を握って見ていると、私の胸元まで壁が立ち上がってきた。
(よし、あと少しだ!リリィ、イザーク、頑張って!)
後方でマチルダが「何よ、あの壁!」と喚いている。
あれはレオナルドに任せよう。
王様も頑張れ。
もう少し。
もう少し……
ジリジリと迫り上がる壁を睨んでいると、目のあたりで動きが止まった。
あとは穴が開くのを待つだけだ。
私は、リリィがいる方の壁へ目をやった。
私たちを隔てる壁に、穴を穿つ。
それだけだから、さほど時間はかからないだろう。
そう思ったのに、五秒、十秒と経っても変化がない。
どうしたんだろう。
不安に駆られて、爪先立ちで壁の向こうを覗くと。
(えっ⁉︎)
リリィは、両手を地面についてへたり込んでいた。
「私、死なないでって言ったはずだけど。忘れたの?」
声を低め、彼を睨み上げる。
軽率なことをするつもりなら、形のいいあごに頭突きを食らわせてやる。
イライラする私と、ハラハラするリリィの視線を受けて、イザークは淡々と言った。
「命を賭けるつもりはありません。現実的な話をしています。以前、大聖堂で魔物を討伐したことがあるのですが」
「えっ!仲間は……」
「いません」
私は、リリィと一緒に目を丸くした。
最凶乙女ゲームのラストダンジョンに、単独突入する人がいるなんて。
「その際、戦闘開始から撤退まで、かかった時間は九十秒ほどでした」
「よ、よく数えてたね」
「無駄な動きがなかったか、反省点を探すのに重要な要素ですから」
そんな、エンドレスバトルモードの挑戦者じゃあるまいし。
すごいけど。
「それを踏まえれば、今回は百秒は戦闘を続けられるかと。アナベル様がペンダントを受け取るまでの時間を、十分稼げるでしょう」
何を言ってるんだ。
馬鹿なことを考えるな。
そう言いたいけど、ほかに打つ手がない。
「じゃあ、イザーク……百秒だけ、戦ってくれる?」
「もちろんです。リリィ様からペンダントを奪うこと以外でしたら、何でもいたします」
「……ありがとう」
私は唇を噛み、強く拳を握りしめた。
すぐにパッと手を開いて、自分の頬を軽く叩き、顔の強張りをほぐす。
それからリリィに向き直った。
「リリィ。今の話、わかった?」
「うん……」
「できるかな?イザークが戦ってくれてる間に、筒状の壁を二つ作って、穴を開けるところまで」
「たぶん……ううん、やってみる」
リリィの顔色は、まだ少し青い。
本調子とは言えないようだ。
だけど声は、馬車を降りた直後より力強い。
ほかにアクシデントがなければ、今日は何とか乗り切れるだろう。
とはいえ、問題がなくもない。
「ただ、問題が一つ」
イザークが、私とリリィを交互に見る。
「リリィ様とアナベル様、どちらも魔物に狙われる危険があります。お二人が同時に攻撃を受けた時は、リリィ様を犠牲にするしか──」
「わかってるから!全部言わなくていいから!」
急いでイザークの言葉を遮る。
リリィを不安にさせないでほしい。
私の想定していた問題は、まさしくそれなんだけど。
「だから、魔物の群れを一点に誘導するんだよ。そうしたら対処しやすいでしょ?」
「ええ……しかし、どうやって魔物を集めるのですか?」
「それは……」
と、私が言いかけた時、後方から「何をもたついてるの!」と甲高い声がした。
私たちが立ち止まっているので、マチルダが痺れを切らしたらしい。
ほかの貴族も伴って、こっちへ近づいてくる。
これ以上話し込んだら、私たちの企みがばれそうだ。
「イザーク。こうやって魔物を集めるの!」
私は自分の手の甲を、ローブの留め金にガリッと擦りつけた。
「アナベル様⁉︎」
「アナベル、何をするの⁉︎」
チリチリとした痛みと一緒に、線状に血がにじむ。
「こうすれば、魔物は匂いに惹かれて私のところに来るよ!」
目を丸くする二人の前で、私は手を掲げた。
その直後、二十メートルほど先にある床のひび割れから、ザザザ……という音が聞こえてきた。
続いて、魔物化したトカゲや蛇が、何十と飛び出してくる。
「アナベル……!」
「リリィ、急いで!私、一回なら攻撃を避けられるから!」
そのぐらいはできるだろう。というか、やる。
ちなみに根拠はない。
「ごめんなさい……私、頑張るから……!」
リリィが目元をぬぐい、ペンダントを握りしめる。
コハクがぽよんと現れて、短い手でバンザイをした。
リリィの周りに、ジワジワと岩の壁が立ち上がっていく。
それを確認してから、私はイザークに手を合わせた。
「ごめんね、頼りにしちゃって。百秒間、お願いします」
「お任せを……ですが、そのようなことは、もうおやめください」
イザークは、睨むように私の手の傷を見下ろした。
かと思うと、早足で前に進み出る。
直後、私の周りにも壁が立ち上がってきた。
「あ。危なくなったら後退してよね!」
戦う後ろ姿に叫んだものの、イザークに無視されてしまった。
表情は変わらないけど、たぶん怒っている。
大股で歩きながら剣を抜き、最初に滑り込んできた蛇の首を、事もなげに落とす。
(自分から『戦う』って言ったのに、なんで怒るんだろう……って、トカゲにぶつかる!……と思ったらもう斬ってた!)
イザークは、舞うように敵を斬り払っていく。
手に汗を握って見ていると、私の胸元まで壁が立ち上がってきた。
(よし、あと少しだ!リリィ、イザーク、頑張って!)
後方でマチルダが「何よ、あの壁!」と喚いている。
あれはレオナルドに任せよう。
王様も頑張れ。
もう少し。
もう少し……
ジリジリと迫り上がる壁を睨んでいると、目のあたりで動きが止まった。
あとは穴が開くのを待つだけだ。
私は、リリィがいる方の壁へ目をやった。
私たちを隔てる壁に、穴を穿つ。
それだけだから、さほど時間はかからないだろう。
そう思ったのに、五秒、十秒と経っても変化がない。
どうしたんだろう。
不安に駆られて、爪先立ちで壁の向こうを覗くと。
(えっ⁉︎)
リリィは、両手を地面についてへたり込んでいた。
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