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1章 断罪回避
12 ハードモードにも程がある
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「イザーク、来たか」
レオナルドが呟いた。
どうやら彼が呼び出したらしい。
イザークは扉を閉め、こちらへ近づいてきた。
歩くだけでも様になる。
アイドルグループへ入れても、ひときわ輝くに違いない。
「いや、アイドルっていうより……王子?」
「アナベル、何を言ってるんだ?」
「イザークさんが王子みたいだな、と思って」
次の瞬間、場の空気が凍りついた。
(えっ、何?もしかして……レオナルド、イザークさんの方が王子っぽいことを気にしてた?)
だとしたら、さぞ傷ついただろう。
私は急いでレオナルドに向き直った。
「でも、レオナルドの方が威厳があるよね。戴冠式の時は急に大人になったと思ったよ。そのうち、オーラだけで貴族も黙るんじゃない?」
よし、フォローできた。
……と思ったけど、息子を励ますお母さんみたいだったかもしれない。
レオナルド、ちょっと困惑してるし。
まあいいか。
今の私、レオナルドの姉とか叔母みたいな気分だから。
これで婚約者のままだったら、逆に気まずい。
破棄後に転生してよかった。
「それはそうと、なんで処刑人さんがここに?」
私の問いに、レオナルドはホッとして答えた。
なぜかはわからないけど、話がそれて安心したらしい。
「僕が呼んだ。改めて挨拶させようと思って。……これから、二人が関わる機会が増えるだろうから」
「二人?」
「君とイザークだよ。議会で決まったんだ。アナベルを外へ出す時は、処刑人に監視させることになった」
「そうなの?イザークさんもたいへ──」
大変だねと言いかけて、口をつぐんだ。
彼は、処刑場でマチルダを追求した。
その罰として、私の監視役をさせられるのかもしれない。
投獄までいかないのは、強い人材が貴重だからだろう。
とはいえ、私をかばったせいで仕事が増えたのなら、彼に申し訳ない。
(イザークさん、基本的には暇だろうけど……あまり人前には出たくないよね)
この国の処刑人は、ある程度は自由だ。
魔物を討伐する日があれば、本を読みふけることもある。
それでいて衣食住は保証されている。
悠々自適に思えるが、羨ましくはない。
人々には恐れられ、魔物を倒しても死神扱いなのだから。
同情を込めてイザークを見つめると、彼は姿勢を正し、頭を下げた。
「本日より、アナベル様が外出される時は、私が同行いたします。逃亡、およびリリィ様への暴行の気配があれば断罪せよ、と命じられております。よろしくお願いいたします」
「いや、こちらこそお手数を……ん? 断罪?」
私が首をかしげると、イザークは右手を剣の柄に添えた。
「アナベル様を斬る、という意味です」
「ぶえぇ⁉︎」
驚きすぎて変な声を出してしまった。
「き、斬るって……その剣でバッサリってこと⁉︎」
「はい。逃亡や、リリィ様への暴行の可能性がある時は」
「ひいぃ……」
ためらいのない口調。
柄に添えられたままの右手。
怖すぎる。
しかし、ふとイザークの「命じられております」が引っかかった。
「ねえ、レオナルド。イザークに命令したのって……」
レオナルドを見ると、彼は首をすくめた。
「反対する貴族もいたんだよ。でも、マチルダが……」
やっぱり。
私はため息をついて、頭を抱えた。
「あの人、どれだけ私を殺したいのよ……」
「うん、まあ……相当怒り狂ってたからね。『アナベルは聖女を騙った。万死に値する』って。僕も抵抗しようとしたけど、僕の発言なんてゴミみたいな価値しか、なくて……」
レオナルドは、がっくりと肩を落とした。
でも、今は励ます余裕がない。
どうすればイザークの剣から逃げられるか、考えないと。
「あのー……イザークさん?」
「私はただの処刑人です。イザークとお呼びください」
彼の無表情が、処刑台にいた時は頼もしく思えた。
でも、今はそれがひたすら怖い。
おまけに癖なのか、右手はまだ剣の柄に触れている。
「私が転んで、リリィに手が当たったっていうのは、セーフだよね……?」
「斬ります」
「嘘ぉ⁉︎」
「故意か事故か判断できかねる場合も、首を落とせと命じられています」
「厳しすぎない⁉︎」
「アナベル様は、一度リリィ様からペンダントを奪おうとなさっていますので」
「う……で、でも!イザークは私のこと助けてくれたよね?」
「はい。私個人としては、アナベル様の処刑には反対です。国の損失に繋がりますから」
じゃあ見逃して、と言おうとしたが、その前にイザークは容赦なく告げた。
「ですが、私はアルデリア国に仕える身。命令には従わなくては」
「そんなぁ……じゃあ、私が足を滑らせて川に落ちても、『逃げた』って見なすの?」
「そのように命じられておりますので」
ハードモードにも程がある。
最凶な原作だって、もっとマシだった。
「ええー……どうすればいいのよ。できるだけリリィから離れて、イザークの腕にしがみついてたら大丈夫?」
「そうですね。その状況でしたら、逃亡や暴行の可能性は限りなく低い、と判断できるでしょう」
「ほ、本当⁉︎じゃあずっと一緒にいよう!」
私は、イザークの前へズバアッ!と手を出した。
「ここを出る時はよろしくね!」
ちょっと怖いけど背に腹は変えられない。
生き延びるためだ。
外にいる間は、意地でもイザークに張り付こう。
「……握手ですか?処刑人の私と?」
「そうだよ、早く!」
恥ずかしくなってきたから、さっさと終わらせたい。
イザークは、読み込み中のパソコンみたい固まっている。
しばらくして、彼は剣から右手を離し、私の手を握った。
レオナルドが呟いた。
どうやら彼が呼び出したらしい。
イザークは扉を閉め、こちらへ近づいてきた。
歩くだけでも様になる。
アイドルグループへ入れても、ひときわ輝くに違いない。
「いや、アイドルっていうより……王子?」
「アナベル、何を言ってるんだ?」
「イザークさんが王子みたいだな、と思って」
次の瞬間、場の空気が凍りついた。
(えっ、何?もしかして……レオナルド、イザークさんの方が王子っぽいことを気にしてた?)
だとしたら、さぞ傷ついただろう。
私は急いでレオナルドに向き直った。
「でも、レオナルドの方が威厳があるよね。戴冠式の時は急に大人になったと思ったよ。そのうち、オーラだけで貴族も黙るんじゃない?」
よし、フォローできた。
……と思ったけど、息子を励ますお母さんみたいだったかもしれない。
レオナルド、ちょっと困惑してるし。
まあいいか。
今の私、レオナルドの姉とか叔母みたいな気分だから。
これで婚約者のままだったら、逆に気まずい。
破棄後に転生してよかった。
「それはそうと、なんで処刑人さんがここに?」
私の問いに、レオナルドはホッとして答えた。
なぜかはわからないけど、話がそれて安心したらしい。
「僕が呼んだ。改めて挨拶させようと思って。……これから、二人が関わる機会が増えるだろうから」
「二人?」
「君とイザークだよ。議会で決まったんだ。アナベルを外へ出す時は、処刑人に監視させることになった」
「そうなの?イザークさんもたいへ──」
大変だねと言いかけて、口をつぐんだ。
彼は、処刑場でマチルダを追求した。
その罰として、私の監視役をさせられるのかもしれない。
投獄までいかないのは、強い人材が貴重だからだろう。
とはいえ、私をかばったせいで仕事が増えたのなら、彼に申し訳ない。
(イザークさん、基本的には暇だろうけど……あまり人前には出たくないよね)
この国の処刑人は、ある程度は自由だ。
魔物を討伐する日があれば、本を読みふけることもある。
それでいて衣食住は保証されている。
悠々自適に思えるが、羨ましくはない。
人々には恐れられ、魔物を倒しても死神扱いなのだから。
同情を込めてイザークを見つめると、彼は姿勢を正し、頭を下げた。
「本日より、アナベル様が外出される時は、私が同行いたします。逃亡、およびリリィ様への暴行の気配があれば断罪せよ、と命じられております。よろしくお願いいたします」
「いや、こちらこそお手数を……ん? 断罪?」
私が首をかしげると、イザークは右手を剣の柄に添えた。
「アナベル様を斬る、という意味です」
「ぶえぇ⁉︎」
驚きすぎて変な声を出してしまった。
「き、斬るって……その剣でバッサリってこと⁉︎」
「はい。逃亡や、リリィ様への暴行の可能性がある時は」
「ひいぃ……」
ためらいのない口調。
柄に添えられたままの右手。
怖すぎる。
しかし、ふとイザークの「命じられております」が引っかかった。
「ねえ、レオナルド。イザークに命令したのって……」
レオナルドを見ると、彼は首をすくめた。
「反対する貴族もいたんだよ。でも、マチルダが……」
やっぱり。
私はため息をついて、頭を抱えた。
「あの人、どれだけ私を殺したいのよ……」
「うん、まあ……相当怒り狂ってたからね。『アナベルは聖女を騙った。万死に値する』って。僕も抵抗しようとしたけど、僕の発言なんてゴミみたいな価値しか、なくて……」
レオナルドは、がっくりと肩を落とした。
でも、今は励ます余裕がない。
どうすればイザークの剣から逃げられるか、考えないと。
「あのー……イザークさん?」
「私はただの処刑人です。イザークとお呼びください」
彼の無表情が、処刑台にいた時は頼もしく思えた。
でも、今はそれがひたすら怖い。
おまけに癖なのか、右手はまだ剣の柄に触れている。
「私が転んで、リリィに手が当たったっていうのは、セーフだよね……?」
「斬ります」
「嘘ぉ⁉︎」
「故意か事故か判断できかねる場合も、首を落とせと命じられています」
「厳しすぎない⁉︎」
「アナベル様は、一度リリィ様からペンダントを奪おうとなさっていますので」
「う……で、でも!イザークは私のこと助けてくれたよね?」
「はい。私個人としては、アナベル様の処刑には反対です。国の損失に繋がりますから」
じゃあ見逃して、と言おうとしたが、その前にイザークは容赦なく告げた。
「ですが、私はアルデリア国に仕える身。命令には従わなくては」
「そんなぁ……じゃあ、私が足を滑らせて川に落ちても、『逃げた』って見なすの?」
「そのように命じられておりますので」
ハードモードにも程がある。
最凶な原作だって、もっとマシだった。
「ええー……どうすればいいのよ。できるだけリリィから離れて、イザークの腕にしがみついてたら大丈夫?」
「そうですね。その状況でしたら、逃亡や暴行の可能性は限りなく低い、と判断できるでしょう」
「ほ、本当⁉︎じゃあずっと一緒にいよう!」
私は、イザークの前へズバアッ!と手を出した。
「ここを出る時はよろしくね!」
ちょっと怖いけど背に腹は変えられない。
生き延びるためだ。
外にいる間は、意地でもイザークに張り付こう。
「……握手ですか?処刑人の私と?」
「そうだよ、早く!」
恥ずかしくなってきたから、さっさと終わらせたい。
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しばらくして、彼は剣から右手を離し、私の手を握った。
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