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第一章
始まりの始業式
しおりを挟む金曜日の朝。
地元の高校に通う神原カナタは内心スキップしながら学校への一本道を進む。
道端には満開の桜の木が立ち並び、雲ひとつない清々しい快晴の朝をより一層明るく彩ってくれている。
今日はカナタの通う高校の始業式。
多くの生徒が新たな学校生活をスタートさせ、これからの楽しい生活に思いを馳せた。
カナタも例に漏れず表情には大きく出さないものの頬を少し緩め足取りも軽い。
カナタはその身長の低さからよく中学生に見間違えられるが性格は温厚で落ち着いており怒ったことなんてほとんどない。
成績の方はちょっとアレだが赤点を取る程ではない。
どこにでもいる、その他大勢の一人のような感じだった。
少し童顔だが性格はしっかり16歳だった。だが昨日祖母から「今年から中学3年生ね!頑張りんさい!」と言われた。これはかなりきいた。その場で崩れ落ちた。
ポ〇モンみたいに「こうかは ばつぐんだ!」とかいうテロップが出てただろう。
そんなカナタは今年から高校2年なので生活が劇的に変わることはないもののやはり周囲の雰囲気も相まって自然に心が踊ってしまうのも無理はない。
昇降口ではすでに登校した生徒達が新しいクラスが発表されている張り紙に群がって、
「うおおぉ!〇〇ちゃんと同じクラスだぁぁぁ!!」
「は!?裏切り者めぇぇ!!!」
だとか
「あ!!うちらまた同じクラスじゃん!!」
「ホントだぁ!!うぅ~これで一安心だよぉ~!」
などと難しいお年頃の高校生らしくワーワーキャーキャー騒ぎ立ててもみくちゃになっている。
その様子を見て少し面倒に思うものの行かない訳にもいかないので「ええい、どうとでもなれぇい!!」とヤケクソ気味にカナタもそのカオス空間に飛び込む。
張り紙の中から自分の名前を見つけ出そうと奮闘する。全方位からの攻撃に耐えつつやっとのことで自分の名前を見つけ出した。
そして自分の名前を見つけてついでに他のクラスメイトの名前をひとつひとつ辿っていく。そして、
「誰やねんこいつら……」
知り合い0という最悪のパターンを見事に引き当て「ぼほぁ…」と魂の抜けるような声を出しまたも崩れ落ちる。
そして、ユラァと立ち直ると一気に落ちたテンションとともに新クラスへトボトボ歩き出すのだった。
カナタの奇怪な行動に親切な生徒達は自然に道を開けてくれるのだった。無論カナタを見る目は皆死んでいるが。
そして、知り合い0のクラスに到着。
新クラス初日でさっそくクラスでぼっち枠を勝ち取ったカナタは、新しい教室に着くなりこれから1年お世話になるパートナーたる机に、ひしっ!と抱きつき、
「あああぁ!!またクラスに知り合い0のぼっち生活……!!??ふざけんなよぉぉぉぉ!!クソッタレェェェ!!」
頭を机にぐりぐり押し付けて喚き散らしたのであった。周りの新たなクラスメイトからの冷たい視線がブスブス刺さっている気がするが、「どうせ今年も永久にぼっちなんだから関係ねぇ!!」と無視した。
そう、カナタは高校1年のときもぼっちだったのだ。
しかし、カナタは人間としていたって誠実で他人から疎まれぼっちになるような理由は微塵もなかった。実際カナタは1年の頃、ぼっちだからとイジメられたことは1度もない。
1年の頃もただ運悪く知り合いがいないだけだった。
そして今年も"運悪く"知り合いがいないだけ。それだけのこと。
今までだってそうだった。カナタからしたらこれが日常だった。
よく鳥の糞が飛んでくることも
よく暗がりで用水路に落ちてしまうことも
よくちょっとした事故に巻き込まれることも
幼い頃カナタの目の前で母がたまたまトラックに撥ねられて昏睡状態になったことも
その事で父が一人カナタを残して実家に帰ってしまったことも
ただ―
【絶望的に運が悪いだけ】
そう思ってきた。思い込んできた。
いつからか自然にそう思えてくるようになった。何が起きても、"不運だった"と。
そうでもしないと今頃きっとカナタは壊れていただろう。
それはカナタ自身の心のストッパー。絶望に染まらないための救済処置だった。
(いつになったらこんなハードな世界とおさらばできるんだ……)
そんなふうに考え込んでいるといつの間にか周囲がザワザワしだしているのに気が付いて気になって顔を上げる。
空が暗い ───
今は朝の8時半頃。
空が暗いなんてことはたとえ冬であっても有り得ない。ましてや今日は始業式。誰の目にもこれが異常事態なのは明らかだった。一同に不穏な雰囲気が流れ始めた。
ここで男子の1人が口を開いた。
「みんな! 落ち着くんだ! 直ぐに先生達が来てくれる!」
こう宣言したのは柏崎ユウト。
バシッと決まった茶髪が印象的だがチャラチャラとした感じは一切しない。高身長で成績優秀、眉目秀麗、性格も完璧で常に複数人の女子達に取り囲まれている。
何となく周りがキラキラしている気がする。Theラノベの主人公のような男だった。
ユウトのセリフに少し生徒達の不安が削られた。「先生達がいる。」「守ってくれる人がいる。」その事実はほんの少しだが生徒達を安心させた。
ここで男子の二、三人が「先生を呼んでくる。」と言って歩き出した。当然、反対するものはいない。
動き出した状況に冷えきった教室に少し温度が戻り、窓に張り付いていた何人かが席にもどり始めた。
しかし ───
歩き出した男子達がドアに手をかけた状態で動きをピタリと止める。
「ドアが開かねぇ……。」
一同に静寂が訪れる。
その言葉を理解できるものはいなかったのだろう。ただ全員ドアの方を向いたまま動かない。当然、鍵なんて掛かってない。
それなのに、ドアは空間に固定されたように1ミリも動かない。また音を失った教室で、おもむろに何人かが窓に近づき、窓に手を掛ける。
「窓も...開かない……。」
窓もドアも開かない。
つまり ───
「出られない...のか…?」
誰かが呟いた。
ここで全員が理解する。この教室から出ることは出来ない。また、先生達が助けに来ることもない。
先ほどとは比較にならないほどの静寂が教室に広がる。どれだけ理解することを拒んでもいつまでも続くわけが無い。
それはいづれやってくる。
全員の顔から血の気が引きユラユラと歩きだし、そしてドアに一斉に走り出した。
「ふざけんなぁ!」
「どうなってんだよ!」
「出せよ!コラァ!」
「なんで開かないのよ!」
全員が大声で喚きだし、ドアを殴ったり蹴ったりする。しかしドアはびくりともしない。
その事実がより彼らの不安をかき立てる。中には泣き出す者まで現れる。
そんな中カナタは席に座ったままだ。
脂汗をダラダラ流しながら頭を抱える。そして数秒でひとつの考えが浮かぶ。
(俺のせいか…?)
このような事態についてカナタには心当たりがありすぎた。こんな異常事態の原因なんて自分の不幸体質しか有り得ない。
カナタの鼓動が加速し、まともに呼吸する暇も与えない。
「なんで…いつもこんなことばっか…。」
今回はいつも通りの、運が悪いなんて言えるレベルじゃない。今までとは規模が違う。クラス全員の危機。クラスメイトを自分の不幸に巻き込んでしまった。
その事実がよりカナタの心を削り、今までカナタを支えていた何かが耐えきれず吹き飛んだ。
「なんで……なんでいつもこんなことばっか起こるんだよ! 俺が何した!? なんで俺ばっか不幸なことが起きるんだよ……」
今まで無意識の内に溜まったドロドロと腐った感情が一気に噴き出した。今まで自分を襲ってきた理不尽への激しい怒り。
誰に向けてかも分からない罵声を吐き出し続ける。しかし、
一拍 ────
「……!?」
心臓がドクンと脈を打った。
その瞬間今まで感じなかった不思議なフワフワとした感覚が体を猛スピードで駆け抜ける。
血ではない他の何か。具体的には何かは分からない。しかし血とは違う何かというのは本能的に理解できる。
(なんだこれ!?なんか体が―)
『やっと……見つけた……』
「おかしい」そう言い切る前に聞き覚えのない若い女性の声が頭に直接流れ込んだ。
誰の声か分からない。
しかし、落ち着く暇も与えないと言うように、2人目の聞き覚えのない声が、今度は教室中に響き渡る。
『魔力の発生を確認。古代魔法【勇者召喚】を発動します。』
唐突に響いた機械音のような無機質な声を確かに全員が聞いた。
気づくと教室の床に、水面に波が広がるようにして浮き上がった赤い光。その紅光の円に見たことのない幾何学模様と文字列が次々と並んでいく。
ものの数秒が永遠にも思える。
幻想的で鮮やかな紅光の流れ。その光景は生徒達の心を奪うには充分すぎる美しさだった。
そして紅光の魔法陣は完成とともに目も眩むようなより強烈な光を発した。瞬間、
―世界が回転した―
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