絶望のカナタに

ポロすけ

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第一章

召喚とレスティーレのあれこれ

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   今まで味わったことのない程の浮遊感が生徒達を襲う。

キィィィィィ!!

   教室の床と天井は目まぐるしくその位置を変え続け、なおそのスピードを加速させていく。

   生徒達は圧倒的な浮遊感と回転する世界に悲鳴を上げることしかできない。

   やがて回転する世界はスピードを落とし、その景色を教室から厳かな王宮に変化させていく。

   世界の回転が収まり、慣れ親しんだ重力と足の裏の地面に感覚が戻ると、生徒達はゆっくりと目を開ける。

「なんだ……ここ…」

   誰かが呟いた。

   生徒の誰もが目の前の有り得ない光景に、自分の目を疑わざるを得なかった。もしくは、自分の頭がおかしくなってしまったのだろうか?と。

   全員が辺りを見渡して自分達の状況を掴もうと全神経を総動員させる。

   生徒達の目の前に映るのはまさに宮殿とも言うべき場所だった。

   見渡す限りの金色の壁。

   部屋の端々には美しい彫刻の施された白亜の支柱が、部屋の奥の一段高い玉座まで、導くように並び立っている。

   玉座には、燃えるように赤いマントを纏った20代前後の男性が座っており、いかにもどこかの国の王様といった感じだ。

  その隣には女王や皇太子だろうか。玉座の隣に同じく豪華な椅子に座る若いの女性と幼い青年がいる。

   玉座の背後の巨大な壁画には鮮やかな自然の山や川、天には太陽と、地上から縋るように天上に手を伸ばす人々に、優しく手を差し伸べる光輪を背負う女神が描かれている。

   見るもの誰もが思わず見蕩れるような見事な壁画。素人目でも一級品の中の一級品だというのが容易に分かる。

   大理石の床が、窓の光を受けてグレーに輝き鏡のようにそこに立つ者達を床に鮮明に映し出す。

  カナタ達はその王の間の中心に位置する巨大な円形の祭壇のような場所に立っていた。

   台座の床には先ほど見えた魔法陣が描かれている。

   ここで、静まりかえった王の間に一人の男性の声が響いた。

「おぉ…おお!!あぁ勇者様!!この時をどれだけ待ちわびたことか……!!」

  その妙齢の男はカナタ達の立っている台座から一段降りた場所でカナタ達を見て「素晴らしい!」という表情で跪いていた。

   意味不明なセリフに生徒一同戸惑いを隠せない。

   男の後ろには何人もの西欧風の武具を纏った体格のいい騎士達が剣を立て整列している。

   兜から覗く鋭い眼光はその者達が一線級の猛者というのをありありと伝わってくる。

  現状を理解出来ず呆然と立ち尽くすカナタ達を見た男は、興奮冷めやらぬという感じで玉座の王に向かい直しバッ!と手を広げてカナタ達、もとい、

勇者達の召喚 ───

の成功を報告する。

「ああ!我が王ラキナスよ!!ついに成りましたぞ!!これで我らの国も────」

「落ち着けバーロス。まず彼らへの挨拶だろう。」

   そういうと、王と呼ばれた玉座に座る男―ラキナスは、ゆっくり立ち上がりバサッとマントを靡かせた。

   そして立ち尽くすカナタ達にこう言い放つのであった。

「ようこそ勇者殿。そして……。突然だが君達には我が国の救世主となってもらう…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

   現在カナタ達は王宮の廊下を歩いている。

   生徒達が困惑したように周りをキョロキョロしている中、ユウトが前を歩く騎士に尋ねた。

「あの…」

「…?どうされましたか、勇者様」

「一体自分達はこれからどこへ……?」

「はい。これからこの世界に起こっていることについての説明を聞いて頂きます。」

   騎士が淡々と答える。

   ユウトも同じく廊下を見渡し、動揺を隠せない。

   その後ろには例の如く女子達が侍っている。心無しか、教室の中にいた時より人数が増えてる気が……。

   モテる男は場所など関係ないらしい。

   女子達も不安そうにユウトの後ろをピッタリとくっついて離れようとしない。故に、ユウトの彼女ポジ争奪バトルが始まっている。

   女子の戦いも場所は関係ないらしい。

   カナタはその最後尾をとぼとぼ着いて行く。その表情はほかの生徒と比べるとかなり暗い。

カナタの中で暗い感情が巡る。

   今回の召喚の引き金なったのは間違いなく自分の不幸体質だ。カナタはそう思い込んでいた。

   しかし、どうしても考えてしまうのだ。

"やっとあの世界から救われる"

"もう不幸だった世界とは違う"

と。

   根拠などどこにもないのに。

   それでもどうしようもなく安心し召喚を嬉しく思ってしまう自分がいる。

  そんな安心や喜び、それに対しての自らの薄情さ、巻き込んでしまった罪悪感。

  そんな複雑に絡み合う気持ちで、カナタの心はぐちゃぐちゃだった。

「この世界の話か……」

   カナタが不意に呟き、先程の国王ラキナスのセリフを思い出す。

"我々のために戦ってもらう"
  
  あのラキナスの宣言の後ポカーンとしたカナタ達はラキナスに「まずは詳しい話を。」と別室への移動中だった。

   廊下は宮殿の窓に面しているようで、宮殿の仲と外とを隔てる窓からはラキナスが支配しているであろう国の城下町が一望できる。

   しかし、

「これは……酷いですね」

  後ろの生徒達もウンウンと同意する。

  ユウトの言う通り、眼下の城下町はそれはもう見られたものではなかった。

   多くの建物が半壊し、道のそこら中にガレキの山が形成されている。

   屈強な男達が必死に修復作業に当たっているのが見える。

   普段なら活気に溢れているだろう城下町街は人々の楽しげな声の変わりに、ひたすら修復作業の作業音が響くのみだった。

「ええ、そレに関してのお話もこれから聞いて頂こうと思います。」

   ユウトの呟きに答える騎士の、兜に隠れた表情も少し苦悶の色が見えたような気がした

  カナタ達は大きな食堂に通された。ハ〇ー・ポッターの食堂まんまである。

   食堂の真ん中には部屋の奥まで続く木製の大きなテーブルと大量の丸椅子が並べられている。机にはすでに沢山の食事が用意されていた。

「広いな……」

「すげぇ……」

「おおぉ…」

   生徒達が口々に呟く。
  
   隊列を組んでカナタ達の後ろを歩いてきた騎士達が丁寧にカナタ達の座る椅子を引いて座るように促した。

   カナタ達はここでやっと召喚から自分を支え続けた足を休める。だがテーブルの食事に手を付けようとする者はいない。

  それも当然だ。始業式を待ってたら突然教室が豪壮な宮殿に早替わり。そうかと思えば白髪のおじいちゃんが泣きながら自分達に向かって勇者とか言ってきたのだ。もうとっくに脳内のキャパオーバーで頭の中がお花畑だ。「訳分からん」の一言である。

   それでも2、3人の男子が真顔でヨダレを垂らし始めている光景は…、なんともシュールである。

   カナタの葛藤も少し落ち着きを見せていた。

   そして食堂の正面の席に先ほど国王と名乗ったラキナス、そしてバーロスがゆっくりと席に着く。

   騎士達はラキナスとバーロスの後ろに整列して控えている。

   そしてラキナスが再び立ち上がり、今回の騒動つまりはカナタ達の召喚とその原因となるこの世界の混乱。

  もとい、世界の危機を静かに話し始めたのだった。

曰く ───

   このレスティーレと言われる世界はカナタの期待した通り剣と魔法のファンタジーな世界で人間や獣人、魔人が住む世界だった。

   しかし、各種族の住処はすでに確定し種族間の戦争はしばらく起きていないらしい。

   レスティーレは東西南北とその中央の5つの大陸に別れている。

   魔王が統べる北の   "シュラ大陸"

   亜人、獣人が住む西の   "ヨスニィ大陸"

   精霊が住む東の   "モルト大陸"

そして、

   人種が住む南の   "サーラ大陸"

   今カナタ達がいる、そしてラキナスが統べる公国。  

    "ガルフレ魔術公国"

   この公国もこのサーラ大陸に属す。

   4000年前に起こった聖戦でそれぞれの種族が住む大陸がある程度確定されて以来、種族間での大きな戦争は起きていない。

   そして最後に世界の中央に位置しレスティーレ最大の大陸。

   "神大陸"

   神大陸は太古から神々の国へ至る大陸と言われ、多くの人々の信仰の的となっている。

   しかし、その現状は絶えず生きる物全てを一瞬で灰に還す強烈な熱風。それに加え、血液までも瞬時に凍らす吹雪が常に吹き荒れる

   まさに地獄とも言うべき大陸。

   多くの謎が眠り調査に乗り出す者がどの種族でも跡を絶たない。

   だが、過去にこの大陸に足を踏み入れ帰って来たものは一人もいない。

   また異常な環境下に加えこの大陸は世界最大の宗教団体だという、

   "神国教会"

   その信仰の的であり、神大陸調査に対しての神国教会の猛烈な批判も相まって神大陸の調査は難航している。

   他の種族とは異なる神を信仰している魔人族以外の三種族は、神大陸の探索には力を注いでいる。

   しかし、各大陸にも神国教会が存在し神大陸の調査にはどの種族も頭を悩ませている。

   神大陸を手に入れ開拓すれば己が種族の勢力と領土の拡大や食料問題の解決などの目的でも各種族が日々地道に調査を進めている。

   しかし、近年その神大陸に動きが出てきた。

「先月、神大陸から生還という者が...現れた...。」

   そういうラキナスの表情には影がさしている。その心境が彼の苦悶の表情から強く伝わってくる。

   傍に控える兵士の表情も自然と曇る。

   そこで、一人の少女がガタッと机に手を付き立ち上がった。

「それはどの種族の方だったのですか…?」

   元生徒会長の高梨セナ。

   黒髪ロングの凛とした雰囲気を放つ彼女は見た目通り自分にも他人にも厳しい。中身はガッツリ漢だ。

   学校でも入学当時からそのストイックさと美貌で「無慈悲の女神」だとか「戦慄の女帝」と言われ称えられている。

   しかし、本人の知らぬ間にファン倶楽部まで設立されていたが本人の、
「は?キモイ。」
の一言で開設されて2日足らずで即時解散。

   所属していた大半のメンバーが次の日学校に来ず、学級閉鎖になりかけるクラスが出るという騒動まであった。

   そんな彼女の質問はラキナス達の曇った表情をさらに強ばらせた。

   ラキナスがこの反応を見せた時点で人種でないのは確か。

   それ故に、

"どの種族の者が帰ってきたか"

   この質問の重要性が分からなかった者はこの場にはいなかっただろう。これが意味するところ、

"その種族が世界を支配する。"

   そう言っても過言ではなくなってしまう程に神大陸からの帰還は重大な問題だった。

   そして、

「...帰って来たのは、魔人族だ...。」

   騎士達の苦虫を噛み潰したような表情になる。

   "魔人族"

   4000年前の聖戦で他の三種族相手に一種族で同等に渡りあった、レスティーレ最強の種族。

   その魔人属が神大陸の謎を解き明かし新たな強大な力を持つ。

   考えるだけでも恐ろしい事態である。

「しかし、魔人族を総べる魔人王は自らの種族に神大陸からの生還者が現れたのにも関わらず、全く神大陸の調査を進める気配がないのだ。

それに魔人族は他種族とは他の神を崇めており、今まで神大陸調査に力を入れている、という報告は上がっていない...。

なのにだ。神大陸からの初の帰還者がその魔人族。なにか妙だ...。」

それはつまり……

「魔人族の帰還者の持ち帰った何らかの情報で、神大陸への進行が不可能。もしくはするべきでは無い。と判断したという所でしょうか??」

   魔人族の生還の報告を聞いた時を思い出したのか、ラキナスの表情は依然暗いままだ。

   セナの冷静な分析に一瞬驚きの表情を見せたものの、その聡明な推理に力強い頷きで答えた。

「ああ、そういう事だな。あくまで憶測の範疇を出ないが。

しかし、事が事だけに我々もただじっとしている訳にもいかん。万が一だが、再び魔人族との戦争も想定しておく必要があった。」

   "戦争"
   
   この言葉を聞いてその意味を受け止めたじろぐ生徒が半分。

   戦争という言葉の重みを理解出来ていないのか不敵に笑って見せたり、ヒソヒソと隣の席の者とニヤニヤ喋り出すものが半分。

   カナタは前者。召喚などというミラクルでファンタジーな展開になっても思考を止める程カナタも阿呆ではなかった。

   そして、各々の反応を見て内心歯噛みする。

(そんなことだろうとは思ったが…。)

   勘のいい者ならこの時点でこれからの展開はある程度予想できるだろう。すなわち他国、他種族との戦争。

   何とも台本通りな世界だ、とカナタは冷や汗を流す。

「『あった』というのは、報告当初は想定していなかったということでしょうか?」

「ああ。それで魔人族に我が国の城下町が攻められたのがだいたい二週間前だ。

おかげで君たちが見ての通りのあの有様だ...。私は国王失格だな...。」

   そう言いラキナスは再び椅子に腰掛けた。

   どうやら魔人族の生還より己が国の民を害された事のほうが本人的には堪えたようだ。

   カナタは、なんとも民想いな国王だ。と思い少し評価を改めた。

   (しかし生還者が出てから2週間とはずいぶん急だな。いや、もともと城下町を襲うのは予定されていたのか?まあ、ここで考えても結論は出ないか)

   そんなカナタか思索を巡らせているとラキナスが話を再開した。

「すまない。話を続けよう。

そして、我々政府も此度の魔人族の襲撃で口うるさい貴族含めて全員頭を冷やすことになった。

何時かも分からないが魔人族の襲撃が今回だけと考えるのはあまりに楽観がすぎる。

その故に迅速に戦力を増強する必要があると私は判断した。そして────」

「はぁ……。それが私達をここに呼び出した理由だと?」

「……...ああ。そういうことだ。」

   ラキナスが決然と答える。

   セナがラキナス言葉に対しての呆れ半分でラキナスのセリフに割って入った。

   そう言うラキナスの表情に凄みが戻る。

   その鋭い目はしっかりと生徒達に向き、生徒達がたじろぐ。

  セナは何か言いたげだったが、セナを突き刺すようなラキナスの視線に思わず口を噤む。

「......俺達に、戦争しろってか?」

   ここでラキナスに引けを取らない低く迫力のある声を発したのは、短い黒髪の学校でも珍しいまさしく、ヤンキーという表現が相応しい大柄な男子生徒。

   葛城リョウマだった。

   制服を着崩し、ラキナスに対しての態度も他の生徒よりずいぶん大きいが、物理的な圧力さえ感じさせる眼光の威圧感は本物。

   騎士達をして一瞬硬直させた。

「......ああ。君の言う通りだ。」

   リョウマとラキナスの二人の鋭い眼光の交錯にその場の全員が息を呑む。

   まさに一触即発。

   明らかにリョウマがキレているのが分かる。生徒達の背筋に冷たい感覚が走る。

   リョウマの怒気に加え、自分達が戦争に巻き込まれるという事態に生徒達ももはや冷静ではいられない。

   ここで持ち前の冷静さを取り戻したセナがラキナスに、これまたテンプレな質問を投げかける。

「元の世界に、日本には帰れるのですか……?」

   生徒全員がバッと音が出そうな勢いでセナを見る。セナの言葉で最も重要な事柄を思い出したようだ。

「それは......。残念ながら不可能だ。我々の使った古代魔術【勇者召喚】は勇者様を召喚するだけの魔術。勇者様を元の世界に帰還させることはできないのだ。すまない。」

   その答えに他の生徒は意識を取り戻したように怒号が飛び交い始める。

「ふざけんなぁ!!」

「そっちの世界の都合だろうがぁ!」

「巻き込まないでよぉ!!」

   当然の反応だが、喚いた所で状況は変わらない。いづれ皆、苦虫を噛み潰したような表情で各々席につき直した。

(戦争確定か…。クソッ…俺さえいなければ…。)

   その後カナタ達は今後の打ち合わせのようなものをし、再び騎士達に連れられ今度はそれぞれの個室に案内され休むように言われた。

   しかし、日本とはかけ離れた部屋の内装を見て一同は改めて思い知る。

  自分達がこれから困難や苦難に否応なく巻き込まれいくということを。
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