絶望のカナタに

ポロすけ

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第一章

災い

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「うぐあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!」

(ぐぅぅぅ! 熱い!!  全身が熱い!)

   カナタの全身を駆け巡る壮絶な痛みの奔流。体中が内側から燃えるように熱い。

   自らの血が全身を焼き尽くしているかのような感覚。

   すると、カナタの体内から湧き出るようにカナタの体にどす黒いモヤがかかっていく。そのモヤはいつしかカナタを覆い隠すように漆黒の渦を形成していく。

   渦はやがてゴォォォォと音を立てながら強風を発生させるほど加速し、

「カナタ!おい!カナタ!!」

   渦の外からレオが何度もカナタの名前を必死に読んでいる。

   しかし、カナタはあまりの痛みで答えることが出来ない。

   そして、カナタはみるみる体の自由が奪われていった。

(レオ……。答えないと…………ああぁ、痛てぇ……だんだん気が…遠く……)

   永遠にも思えた耐え難い激痛に、カナタは精神の警告に従い、その意識を闇の中へ落としていく。

(もう…………だめ……だ…。)

  微かな視界の端から名前を叫び続ける友が消えていく。やがてその声すら薄れていき……カナタは完全に意識を落とした。

   そして ──

   カナタが意識を落とすと同時に漆黒の渦は勢いを弱め再びカナタの体内に帰るように吸い込まれる。

   螺旋を描きながらカナタの背中に吸い込まれていく。

   カナタの叫びが止み食堂を再び静寂が襲う。不気味な静寂。目の前のピクリとも動かなくなった少年に一同は凍りつく。

   苦痛に泣き叫びながら動かなくなった少年を見て、一同は"死"を直感した。

「カ…ナタ?おい……カナタ?おいって…」

   カナタの変わり果てた姿にレオはうわ言のようにブツブツと名前を呼ぶことしか出来ない。

   そして ───

   悲痛に顔を歪めるレオを見てほくそ笑む者が一人。その姿を見たものは誰もいないが。

  一方、

  見かねた騎士達がレオをどこか哀れむような目でカナタから引き離す。しかし、その騎士達の手も理解し難い自体に震えている。

   どこにそんな力が秘められていたのか。振り払おうとするレオの人外な力を騎士達が必死で抑える。

「離せぇ!!おい!カナタァァ!おい!!目覚ませぇ!!」

   痛々しいとすら感じるレオの声にも、返ってくるのは無慈悲な静寂のみ。

   生徒の何人かが思わずその悲痛さに視線をそらす。もう助からないのだろう、と。

「もうやめるんだ。彼はもう……。」

   ラキナスがレオを肩を掴みながら宥める。

   しかしラキナス自身もカナタの突然死という謎の現象に全く頭がついて行けず、内心焦燥を浮かべる。

(どういうことだ!?  ステータスチェックで転移者が死亡するなどと言う例は古文書には一切記述がなかった!!  クソッ……!  全く意味が分からない……!?)

「ラキナスさん……、でもカナタが……」

「諦めるんだ…。」

「……ぅあ……カナ……タ……」

   レオの表情が絶望歪みやがて意識を落とした。

   そんなレオをラキナスが苦渋を浮かべた表情で見つめる。

  その時、

  
ピクッ ──────


「…おい……今」

  生徒の一人が絞い出すように声を上げる。

「アイツの指…動かなかったか…?」

   皆信じられないといった目で視線を再びカナタに戻す。ラキナスもすぐに顔を上げる。

   そして、再び、


ピクッ ──────


「ほらっ!!やっぱり動いてるって!」

   今度はレオ以外の全員がカナタの指が動いたのを確かに確認した。

   我を取り戻したラキナスの怒号のような指示が静寂を破った。

「なッ……彼を医務室へ運べ!早くしろっ!!」

「「「……!?は!!」」」

   カナタを見つめていた騎士達が動揺の中カナタに詰め寄る。

しかし、その瞬間、


ドゴォォォォォォォォン!!


   まさにハリケーン。

   突如としてカナタを中心に猛烈な風が吹き荒れる。近づいた騎士達が部屋の後方に吹き飛ばされる。

   窓や天井がガタガタと音を立て震える。

「くっ……今度はなんだ!!」

「分かりません!!突然彼を中心に風が!」

「緊急事態だ!!今すぐ王宮中の近衛騎士をかき集めろ!!」

「「は!!」」

   吹き荒れる豪風にラキナス達は目を開けることすら許されない。

   僅かに開く目から見えたのは、ユラユラと立ち上がるカナタの姿。

   紅黒く光るスパーク。

   暴風の中から覗く瞳は漆黒に染まり瞳孔は紅く輝いている。

   しかし、その目はしっかりとラキナス達を捉えていた。

「ぅあ…あぁ……。」

「なんだ……アレ……。」

   カナタから放たれる大波のようなプレッシャーと殺意。

その姿はまさに   "化け物"

   先日まで平和な日本で暮らしていた若干16歳の少年少女の正気を奪うには、些か充分すぎる重圧。

   まともに立てる生徒は数える程だ。

   そしてカナタ。否、その化け物はゆっくり右腕を胸の前に差し出す。

   掲げた右手に紅黒いプラズマが起こる。

「 ── 。」

「!?全員伏せなさいっ!!」

   直感で危険を感じ取ったセナの指示で全員我に帰りその場に倒れるこむように伏せる。


ドォォォォォォォォォン!!!!


   聞いたこともない言語と共に放たれる凄絶な暴風。

   間一髪、セナ達の頭上を突き抜ける。

「くっ!?なんだ今のは!?」

「死にたくないなら顔を下げなさい!!」

   動揺するユウトの頭をセナが押さえつける。

   さながら砲弾の如き高密度の暴風は、紅黒いスパークを纏いながら背後の物質の尽くを消し飛ばし蹂躙した。

「くっ……いったいなんだアレは……!?」

   毒づくラキナス達の背後に空いた黒焦げの大穴から朝日が射し込む。

「全員その場を動くなっ!!巻き込まれるぞぉぉ!!」

   再び掲げられた右手に再び爆風が収束していく。

「!?……二波来るぞぉぉ!!」

   再び食堂を蹂躙する爆風に全員の体力をジリジリと削っていく。

   その時、

「……カナ……タ?」

「キサラギ殿!?気づいたのか!!」

「レオ!!!」

   体を叩き付ける風にレオが目を覚ました。

   ラキナスとユウトが必死に呼びかけ、レオの意識を繋ぎ止める。

「あれが…カナタなのか……?」

   見開く目に映るのは無表情に破壊行動を続ける変わり果てた友の姿。

   レオが目覚めてなおカナタの風は収まることを知らない。

   その瞳は依然、爛々と輝き続ける。

「止めなきゃ……。俺が……」

   レオがおもむろに立ち上がり、カナタに向けて一歩踏み出す。

「何やってるのアナタ!!早くしゃがみなさい!!」

「行くんじゃない!キサラギ殿!!」

「何してるんだレオ!!戻ってこい!!」

   まるでセナ達の警告が聞こえていないように、強風にさらわれおぼつかない足で、一歩、また一歩進み出す。

   破壊された椅子の破片が頬を鋭くなでる。

   吹き荒ぶ強風に加え高速で飛翔する瓦礫の数々。

   もはやこの場にあるもの全てが凶器。

   レオの身体から次々と血飛沫が上がる。

   されど、その歩みを阻むには至らない。倒れそうになりながらも少しづつカナタとの距離を埋めていく。

カナタを助けたい ────

   ただその一心。

   決して失いたくない新たな友。それを絶望の檻から救い出すためならこの命など惜しくはない。


キュィィィィィ!!

   
  突然レオの瞳が碧色に静かに揺らめきだした。

「おい。」

「……」

   フラフラと歩くレオの前にリョウマが立ちはだかる。しかし、その手には騎士の鎧から抜け落ちたレイピアが握られている。

「持ってけ。躊躇うなよ。」

「…」

   レイピアを受け取るレオをリョウマの鋭い双眸が射抜く。すなわち

殺す気で止めろ ───

   そう言外に伝えるリョウマを力強く見つめ返しレオは応える。

「……言われなくとも。」

   そしてレイピアを受け取ったレオはリョウマの横をユラユラと過ぎ、やがてカナタ目掛けて走り出した。

「カナタァァァァァァァァ!!!」

   レイピアをカナタに向けてまっすぐに突き出す。行く手を阻む強風をレイピアの切っ先で逸らし韋駄天の如く疾走する。


ゴォォォォォォォ!


   何者をも阻む竜巻の壁がレオの耳元を高速で抜けていく。

   スピードを緩めることなく風を切り裂き、レオの目前にカナタへの道筋を僅かに切り開かれ、カナタとの距離を縮まらせていく。

   決死の疾走でカナタとの間合いを瞬く間に消し去っていく。

   しかし、

「 ─── 」


ズゴォォォォォォォォ!!


「なに!?ぐあぁぁぁぁ!!」


   カナタを囲う竜巻から幾筋もの雷撃が打ち出される。

   雷撃が空間を駆け巡り轟音を撒き散らす。

   際限なく飛び交う極光の弾幕は触れた物を生死問わず無慈悲にこの世での存在することを許さない。

   焼け焦げた床の断面を見て、伏せる生徒達から「ひっ」と間抜けな声が上がる。

   死を振りまく極光の間を縫うようにレオが駆け抜ける。

   レオの碧い瞳が一際眩い光を放つ。

   猛烈な集中力で雷撃を直撃スレスレで躱す。体を捻り姿勢を低くして直進する。

   碧く輝くレオの視界からスーパースローで無数の雷撃が通り抜ける。

(集中しろっ!もっとだ!もっと……!!)

「ぐぁっ!」

   降り注ぐ窓ガラスの雨を躱し切れず、傷がみるみるうちに増えていく。

(クソッ!あともう少し!!)

   体の限界はとうに超えている。不退転の意思で折れそうな心を必死に奮い立たたせる。

   やがて分厚い雷雲を抜け、その双眸にカナタを捉える。

(……見えた!!!)

   そして、肉薄するレオを見てカナタは再びラキナス達に右手を掲げプラズマが収束させる。

   その間合いは  "0"

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

「 ───!」

   キュイィィィィィィィィ!!!

   まさに同時。

   両者の動きが止まり食堂を支配していた風が瓦礫とともに大穴から抜けていく。

   凪いだ世界に再び静寂が訪れる。

   その場に立つものは僅かに二人。

   
   やがて ────

「グフッ……」

「カナタ……。」

ドサッ

   膝から崩れ落ちたカナタをレオが支えて抱き寄せる。

   カナタの左胸には白銀に輝くレイピアが生えている。

   いつしか、何もかもを呑み込まんとするプレッシャーは消え、体から溢れ出ていた魔力もやがて流れを完全に止める。

   食堂を支配していた豪風が霧散していく。

   やがて、カナタの目に光が戻りゆっくりと目を閉じた。

   全て終わった ─────

「カナタ…。良かっ…た…。」

ズシャッ
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