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ハマー家の客間では、ハマー伯爵とカリンの声が響きわたる。
「いい加減にしろ、あれは私の土地だ。このまま貴様が持っていていい土地ではない!」
「そうよ、返しなさい!」
「あら、不思議な事をおっしゃいますね。先に手放されたのはハマー伯爵ですけれど、お忘れですか?」
「ふん、ハマー家の嫁として買ったものを渡さないなど貴族の世界でやっていけない!愚かな」
「ご心配なく、オリバーからの婚約破棄ですから全く支障がないですよ。それにまだ嫁にはなっておりません」
怒鳴り散らす伯爵に同調する夫人に対し冷静に対応するカリン。
「カリン、最近金回りがいいと噂になっておる。そのまま土地を手放さないか?」
「ハマー伯爵、では伯爵が国に売った金額がご用意出来るのですね。是非先にこちらの借用分を返却して下さい」
「ぐぬぬ、下手に出れば……」
気持ちが悪い猫なで声を出す伯爵に、にっこり切り返すカリン。
等々の押し問答が続き、諦め悪く進展のない同じ事を繰り返していく。
ハマー伯爵があまりに必死すぎて何だか笑ってしまう状態となっていた。
『でもなんだろう、この違和感』
カリンはハマー伯爵の性格を知っている。
領地経営に全く興味を持たず、金遣いは荒い。趣味も悪く、本物と偽物の区別もつかない。カリンもそれ程詳しくないがハマー伯爵が自慢している幾つかは明らかに贋作だった。
そして、こんなにも根気はなかったはずだった。
今までのハマー伯爵なら、ある程度怒鳴りに怒鳴り発散し、話が平行線になり苛立つあまり席を蹴り倒し、後は執事に任せて退席する。カリンはそれを狙っていたのだが今回しつこく食い下がってくる。
読み間違えた?それとももう少しで折れる?
カリンとしてはある程度は借用関係もこの場で整理してしまいたい。
まさかカリンもハマー伯爵がある理由で粘り強さを培っていたなど思いもしなかった。
『後がないことはハマー伯爵でも理解できているみたいだけど』
今まで簡単に飛び地を手放す考えなしなのに?
商人か他の誰かが入れ知恵した?それとも私が知らない何かがあるの?
ハマー伯爵と夫人の耳障りで悪質な主張を華麗に対応しながらカリンは考える。
もちろん、顔には貴族仕様の笑顔を貼りつけたままである。
飛び地を手放した。この意味をハマー伯爵は当時理解していなかった。
上位貴族は多少の領地の変動では身分は揺るがない。しかし、手放した事でハマー伯爵領はその範囲を超えてしまっていた。
元々ハマー伯爵領は主体となる地でも王都から遠い部分を随分前に手放し、増やそうとしても不可能になっていた。
既にその地にはハルホー子爵とハヤムー男爵が叙せられ治められている。
この子爵と男爵は元々ハマー家から別れた分家筋に当たるが、叙爵当時揉めた様で今も仲が良いとは言えない関係だった。
だからオリバーの祖父は不便な飛び地を拡げ領地を増やす方法を取っていたのだ。
膠着状態が続く中、門の辺りが騒がしくなり、ハマー家の執事が慌てて入室して来た。
先触れもなく、突然の訪問客が訪れたとの事だった。
カリンにとっては救い手となるだろう。この状態が変わるのだから。
ハマー伯爵にとっては救い手か破滅の使者か。
そこでターナー家一同が呆れる真実が明かされることになる。
流石のカリンも全く考えていなかった出来事だった。
「いい加減にしろ、あれは私の土地だ。このまま貴様が持っていていい土地ではない!」
「そうよ、返しなさい!」
「あら、不思議な事をおっしゃいますね。先に手放されたのはハマー伯爵ですけれど、お忘れですか?」
「ふん、ハマー家の嫁として買ったものを渡さないなど貴族の世界でやっていけない!愚かな」
「ご心配なく、オリバーからの婚約破棄ですから全く支障がないですよ。それにまだ嫁にはなっておりません」
怒鳴り散らす伯爵に同調する夫人に対し冷静に対応するカリン。
「カリン、最近金回りがいいと噂になっておる。そのまま土地を手放さないか?」
「ハマー伯爵、では伯爵が国に売った金額がご用意出来るのですね。是非先にこちらの借用分を返却して下さい」
「ぐぬぬ、下手に出れば……」
気持ちが悪い猫なで声を出す伯爵に、にっこり切り返すカリン。
等々の押し問答が続き、諦め悪く進展のない同じ事を繰り返していく。
ハマー伯爵があまりに必死すぎて何だか笑ってしまう状態となっていた。
『でもなんだろう、この違和感』
カリンはハマー伯爵の性格を知っている。
領地経営に全く興味を持たず、金遣いは荒い。趣味も悪く、本物と偽物の区別もつかない。カリンもそれ程詳しくないがハマー伯爵が自慢している幾つかは明らかに贋作だった。
そして、こんなにも根気はなかったはずだった。
今までのハマー伯爵なら、ある程度怒鳴りに怒鳴り発散し、話が平行線になり苛立つあまり席を蹴り倒し、後は執事に任せて退席する。カリンはそれを狙っていたのだが今回しつこく食い下がってくる。
読み間違えた?それとももう少しで折れる?
カリンとしてはある程度は借用関係もこの場で整理してしまいたい。
まさかカリンもハマー伯爵がある理由で粘り強さを培っていたなど思いもしなかった。
『後がないことはハマー伯爵でも理解できているみたいだけど』
今まで簡単に飛び地を手放す考えなしなのに?
商人か他の誰かが入れ知恵した?それとも私が知らない何かがあるの?
ハマー伯爵と夫人の耳障りで悪質な主張を華麗に対応しながらカリンは考える。
もちろん、顔には貴族仕様の笑顔を貼りつけたままである。
飛び地を手放した。この意味をハマー伯爵は当時理解していなかった。
上位貴族は多少の領地の変動では身分は揺るがない。しかし、手放した事でハマー伯爵領はその範囲を超えてしまっていた。
元々ハマー伯爵領は主体となる地でも王都から遠い部分を随分前に手放し、増やそうとしても不可能になっていた。
既にその地にはハルホー子爵とハヤムー男爵が叙せられ治められている。
この子爵と男爵は元々ハマー家から別れた分家筋に当たるが、叙爵当時揉めた様で今も仲が良いとは言えない関係だった。
だからオリバーの祖父は不便な飛び地を拡げ領地を増やす方法を取っていたのだ。
膠着状態が続く中、門の辺りが騒がしくなり、ハマー家の執事が慌てて入室して来た。
先触れもなく、突然の訪問客が訪れたとの事だった。
カリンにとっては救い手となるだろう。この状態が変わるのだから。
ハマー伯爵にとっては救い手か破滅の使者か。
そこでターナー家一同が呆れる真実が明かされることになる。
流石のカリンも全く考えていなかった出来事だった。
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