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教会

10 この物置って……

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 壊れた女神は昨夜収納済みで、今ある毛布も収納した。
 それと引き換えに、元から持っていたカバンを収納から引き出す。
 これは持っていないと、不自然だよね。

 こけしもどきは寝る前に、無意識に収納していたみたい。


 一旦ドアを叩く音が途切れた時、私は思い切ってドアを開けた。

 はい、出たとこ勝負です。

 収納した物を、この物置に素早く収めるのは厳しいからね。
 だったら、説明した方が早いかなと。
 納得するかは、分からないけれど。

 勢いよく出たはいいが、ドアの前には誰もいなかった。
 少し先の通路にリタとウーラが、神官を引っ張っているのが見える。
 よく見かける神官で、子供に優しく私にも優しくしてくれた。

「神官様、早くして下さい。逃げちゃいますよ」
「そうですよ、早く頑張ってください」

「朝早くから、全く何事だ。儂はこれから、神々に祈りを捧げる大事な仕事があるんだがな」

「すぐ済みますから、ちょっとだけです」
「全くリタもウーラも、しょうがない子らだ。今度は、何をやらかしたのやら」

 そんな声が聞こえてきた。
 あぁ、綺麗に聞こえる、理解出来る。
 私は、感動した気持ちに浸っていた。

 二人は私に気づいたのか、声を掛けてきた。

「あら、部屋から出てきてたんだ」
「ふーん、逃げなかったんだ」

 嫌味を感じる言い方は、本来の二人の話し方なのだろう。
 いつもの優しく話す口調は、見る影もなかった。

「彼女は、騎士様の預かり者だろう?」
「それがね、別れたんだって」
「捨てられたんだって」

 神官は「ほおー」と思案顔で唸り、ニヤリとした。
 神官の優しかった顔は、リタとウーラの表情とそっくりになった。

「はい、今すぐ金貨一枚払って」
「え?」

 それは、突然の要求だった。
 この部屋に入る際、そんな話は聞いていない。
 いくら言葉を聞く能力が低いからといって、聞き逃すものではなかった。

「ここにいたんだから、正当な金額よね。神官様もそう思うでしょう?」

 リタとウーラは、金貨一枚は当然だと言ってきた。
 因みに金貨一枚とは、大体庶民一家が三、四か月暮らせる位の金額だ。
 私が、この世界で使った金額より高い。

 彼女達が言うには、この物置には古い要らない物や壊れた物を入れていたが、満杯で入らなくなった。
 片付けが必要だが、昔誰かがこの物置には金貨一枚の価値があると言っていた。
 だから、私が買い取って調べていた。
 昨日は遅かったから、今日急いで神官を連れてきたと……何だそれ?
 いつ、そんな事になったのよ。

「だって、彼女が納得したんだもの」
「そうよね」
「特別だと言ったし、片付けてって言ったものね」

 確かに、部屋を案内された時何度も『特別』と言っていたけど、理由は聞いていない。

「彼女にも金貨一枚の価値があったんです、神官様」
「私達は、正当な事しかしていないわよね」
「ねー」

 悪びれもせずそう言う彼女達の顔は、ニヤついていた。
 タチの悪い嫌がらせなんだろう。

「とにかく、金貨一枚払って」
「儂からも、正当だと認めよう」

 説明は以前の私ならとても聞き取れない早口だったのに、今度は噛み砕いた様にゆっくり圧をかけて話す。

 そういえば、そんな事が何回かあった。
 私はやっと言葉のニュアンスが分かり、人の悪意が読み取れるんだと理解した。

 何度も迫る彼女達と神官に、私は金貨一枚を渡した。

「ちっ、やっぱり騎士様から貰って、貯め込んでいたわね」
「おかしいと思ったのよね」
「これは、神の恵みですね」

 ホクホクとした笑顔だが、私には醜く感じた。
 契約書も何もなく、追い立てるように部屋の前から連れ出された。
 言葉が不自由だから、後から何を言っても通ると思ったのだろう。

「早く片付けに来なさいよね。遅かったら、どうなっても知らないから」

 そんな言葉を聞きながら教会を後にし、この街を出て行った。












 金貨一枚は、彼から貰っていたかって?
 違う違う、あの物置にあったものよ。

 誰かのへそくりだったのか、落として見つからなかったのか理由は分からないけど、確かに金貨一枚の価値はあったわね。

 それに、あの物置の物は私の物になったのでしょう?
 言ってないけど、確かに全部貰ったしね。
 あれだけの量だもの、何か使える物はありそうよね。

 私、何も悪くないわよね。



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