24 / 47
第23話 濡れ場
しおりを挟む
ケーキを出したのに残して帰ったなんておかしいから、俺は二個のショートケーキを平らげた。
甘ったるいけど、昼飯を食ってなかったから、何とか完食出来た。
部屋を出て、玄関に鍵をかけ、リビングに入ってく。
「あら、橋本さんは?」
「帰った」
「あら。来たばかりなのに」
「追い返したんだ。母さん、あいつ俺がΩなんじゃないかって嗅ぎまわってるんだよ。もう来ても、ぜってぇ上げねぇでくれ」
「え? 本当なの? あんなに可愛いお嬢さんなのに」
「可愛いかどうかは、関係ねぇだろ。バレても良いのかよ」
「そ、そうね。お父さんにも言っておくわ。橋本さん、ね」
母さんは慌てて、固定電話の横のメモ帳に、ビッシリと文字を書き込み始めた。この辺の連携は速い。
* * *
次の日は、土曜日だった。小鳥遊学園では、土曜日は午前授業になってる。
綾人の車と鉢合わせない為には、いつもより早めに行くか遅めに行くかだったけど、寝不足で遅く行く選択肢しかなかった。
そうしたら三時限目からの授業で、あんまり行く意味はなかったけど、母さんに熱を計られて平熱だったから、強制的に学校に送り出されてしまった。
ただでさえ遅刻魔なのに、頻繁に休んでは、Ωの疑いがかかるからだ。
「四季、風邪治った?」
教室の入り口で待ち構えていたハシユカを無視して、窓際の席に向かうと、そこにはもうクラスの男子が座ってた。
「目の悪い子が後ろだったからって、また席替えしちゃったんだ。残念だけど、休み時間は話せるよね。こっち!」
手が握られる。前は突っぱねたけど、今はそんな気力もなく、引っ張られていく。
案内されたのは、前と真逆に、廊下側の後ろの席だった。
「お前は?」
「あたしはまた、窓際。一番前。授業中にLINEとか出来なくて、つまんない」
綾人……? 頭を、そんな可能性が掠めた。俺とハシユカを離した可能性。
だけど、冷たい文字列が脳裏に浮かぶ。
『迷惑だ』
偶然だ。綾人の訳ない。
なるべくハシユカと話さないように三時限と四時限を受けて、俺はそそくさと部室に向かった。
* * *
「四季、付き合うのはあたしだけにしてよ。じゃないと、もう一人のひとに、昨日の写真見せるよ」
やっぱり、あの写真を脅しに使ってきた。
でももう、俺は綾人にフラれた。すでに全てに意味はない。
気怠く答える。
「ああ、あいつとはもう別れたんだ」
「えっ、ホント!?」
部室への道すがら、露骨に飛び跳ねてハシユカが喜ぶ。
「ああ。やっぱ、女子に興味がわいたよ。お前の言った通りだった」
「え、え!? 四季、好きになってくれたの!?」
両手で口元を覆って、ハシユカが感動してるけど、部室に着いた俺は、女子更衣室のドアをノックした。
「ミッキー、居るか?」
「四季くん?」
「ああ。一昨日(おととい)の話。今、良いか?」
ややあって、事情を飲み込んだ軽い声が返ってきた。
「良いよ。今、鍵開ける」
カチャリと鍵の外れる音がして、俺はハシユカの肩を押して中に入った。
瞬間、俺は驚いて顔を背けてしまった。
ミッキーが、着替え途中で、下はグレーのスカート、上はブラックのスポーツブラだけだったからだ。
「ふふ。四季、今更照れないでよ。一昨日、全部見せたじゃない」
その艶っぽい台詞に、ミッキーが全力を挙げて俺からハシユカを剥がしにかかってるんだと知って、俺も真っ直ぐそのしなやかな肢体を見詰めて笑う。
「人が悪いな、ミッキー。照れてねぇよ。いきなりだとビックリするだろ?」
そう言って、ミッキーの日に焼けた健康的な項をやんわりと掴んで、額を合わせる。
「え、え!?」
ハシユカが目一杯、動揺してる。
「そういうこと。ハシユカ。私、四季とも付き合う事にしたの。彼女も良いって言ってる」
「じゃ、じゃあ、四季も、あたしとも付き合えば良いじゃない!」
「駄目だ。俺、『攻め』の女しか受け付けねぇんだよ。俺が『受け』って事。少なくとも、ミッキーくらい身長なきゃ、相手になんねぇ」
「四季。可愛いね」
ミッキーは俺の顎を取って、ゆっくりと距離を詰める。唇が重なって、見せ付けるように舌が入ってきた。
二人目のディープキス。やってることは綾人と変わらないのに、ちっとも心臓は騒がない。それに悲しくなって、頬が歪みそうになるのを堪えなきゃいけなかった。
「ん……ミッキー」
「四季。最後までヤっちゃう?」
唇を触れ合わせながら、ミッキーの手が、首筋や胸元、背中を這い回る。
ミッキーには悪いけど、ゾッとした。好きでもない奴に抱かれるのは、相手が女でも駄目だって気が付いた。
「四季! ミッキー! 嘘でしょ、お芝居でしょ!?」
その言葉を受けて、ミッキーの手が俺の前を布越しに握った。ゆるゆると刺激される。
「あ……駄目……っ」
「感度良いね、四季。見られてる方が燃える? じゃ、ハシユカに見てて貰おうか」
「ぁんっ……」
俺の喘ぎ声は、完璧に演技だ。綾人との時間を思い出して、忠実になぞる。
「嘘! 四季の馬鹿っ!!」
ハシユカが、女子更衣室を飛び出していった。チラと目に入ったその横顔は、泣きそうに歪んでた。
一瞬罪悪感がわくが、ハシユカが俺にしたことを思えば、足りないくらいだった。
何秒かくっついてて、ミッキーが半開きのドアを閉める。
「ごめん、四季くん。恋人が居るのに、嫌だったでしょ」
「ああ、いや。これくらいしなきゃ駄目だったから、助かった。ありがとう。じゃ、俺今日は、帰るな」
「了解」
俺は、スポーツブラのまろやかな肢体に悲しいくらい反応しない心臓をちょっと恨みながら、寝不足で重い足取りで廊下を行った。
甘ったるいけど、昼飯を食ってなかったから、何とか完食出来た。
部屋を出て、玄関に鍵をかけ、リビングに入ってく。
「あら、橋本さんは?」
「帰った」
「あら。来たばかりなのに」
「追い返したんだ。母さん、あいつ俺がΩなんじゃないかって嗅ぎまわってるんだよ。もう来ても、ぜってぇ上げねぇでくれ」
「え? 本当なの? あんなに可愛いお嬢さんなのに」
「可愛いかどうかは、関係ねぇだろ。バレても良いのかよ」
「そ、そうね。お父さんにも言っておくわ。橋本さん、ね」
母さんは慌てて、固定電話の横のメモ帳に、ビッシリと文字を書き込み始めた。この辺の連携は速い。
* * *
次の日は、土曜日だった。小鳥遊学園では、土曜日は午前授業になってる。
綾人の車と鉢合わせない為には、いつもより早めに行くか遅めに行くかだったけど、寝不足で遅く行く選択肢しかなかった。
そうしたら三時限目からの授業で、あんまり行く意味はなかったけど、母さんに熱を計られて平熱だったから、強制的に学校に送り出されてしまった。
ただでさえ遅刻魔なのに、頻繁に休んでは、Ωの疑いがかかるからだ。
「四季、風邪治った?」
教室の入り口で待ち構えていたハシユカを無視して、窓際の席に向かうと、そこにはもうクラスの男子が座ってた。
「目の悪い子が後ろだったからって、また席替えしちゃったんだ。残念だけど、休み時間は話せるよね。こっち!」
手が握られる。前は突っぱねたけど、今はそんな気力もなく、引っ張られていく。
案内されたのは、前と真逆に、廊下側の後ろの席だった。
「お前は?」
「あたしはまた、窓際。一番前。授業中にLINEとか出来なくて、つまんない」
綾人……? 頭を、そんな可能性が掠めた。俺とハシユカを離した可能性。
だけど、冷たい文字列が脳裏に浮かぶ。
『迷惑だ』
偶然だ。綾人の訳ない。
なるべくハシユカと話さないように三時限と四時限を受けて、俺はそそくさと部室に向かった。
* * *
「四季、付き合うのはあたしだけにしてよ。じゃないと、もう一人のひとに、昨日の写真見せるよ」
やっぱり、あの写真を脅しに使ってきた。
でももう、俺は綾人にフラれた。すでに全てに意味はない。
気怠く答える。
「ああ、あいつとはもう別れたんだ」
「えっ、ホント!?」
部室への道すがら、露骨に飛び跳ねてハシユカが喜ぶ。
「ああ。やっぱ、女子に興味がわいたよ。お前の言った通りだった」
「え、え!? 四季、好きになってくれたの!?」
両手で口元を覆って、ハシユカが感動してるけど、部室に着いた俺は、女子更衣室のドアをノックした。
「ミッキー、居るか?」
「四季くん?」
「ああ。一昨日(おととい)の話。今、良いか?」
ややあって、事情を飲み込んだ軽い声が返ってきた。
「良いよ。今、鍵開ける」
カチャリと鍵の外れる音がして、俺はハシユカの肩を押して中に入った。
瞬間、俺は驚いて顔を背けてしまった。
ミッキーが、着替え途中で、下はグレーのスカート、上はブラックのスポーツブラだけだったからだ。
「ふふ。四季、今更照れないでよ。一昨日、全部見せたじゃない」
その艶っぽい台詞に、ミッキーが全力を挙げて俺からハシユカを剥がしにかかってるんだと知って、俺も真っ直ぐそのしなやかな肢体を見詰めて笑う。
「人が悪いな、ミッキー。照れてねぇよ。いきなりだとビックリするだろ?」
そう言って、ミッキーの日に焼けた健康的な項をやんわりと掴んで、額を合わせる。
「え、え!?」
ハシユカが目一杯、動揺してる。
「そういうこと。ハシユカ。私、四季とも付き合う事にしたの。彼女も良いって言ってる」
「じゃ、じゃあ、四季も、あたしとも付き合えば良いじゃない!」
「駄目だ。俺、『攻め』の女しか受け付けねぇんだよ。俺が『受け』って事。少なくとも、ミッキーくらい身長なきゃ、相手になんねぇ」
「四季。可愛いね」
ミッキーは俺の顎を取って、ゆっくりと距離を詰める。唇が重なって、見せ付けるように舌が入ってきた。
二人目のディープキス。やってることは綾人と変わらないのに、ちっとも心臓は騒がない。それに悲しくなって、頬が歪みそうになるのを堪えなきゃいけなかった。
「ん……ミッキー」
「四季。最後までヤっちゃう?」
唇を触れ合わせながら、ミッキーの手が、首筋や胸元、背中を這い回る。
ミッキーには悪いけど、ゾッとした。好きでもない奴に抱かれるのは、相手が女でも駄目だって気が付いた。
「四季! ミッキー! 嘘でしょ、お芝居でしょ!?」
その言葉を受けて、ミッキーの手が俺の前を布越しに握った。ゆるゆると刺激される。
「あ……駄目……っ」
「感度良いね、四季。見られてる方が燃える? じゃ、ハシユカに見てて貰おうか」
「ぁんっ……」
俺の喘ぎ声は、完璧に演技だ。綾人との時間を思い出して、忠実になぞる。
「嘘! 四季の馬鹿っ!!」
ハシユカが、女子更衣室を飛び出していった。チラと目に入ったその横顔は、泣きそうに歪んでた。
一瞬罪悪感がわくが、ハシユカが俺にしたことを思えば、足りないくらいだった。
何秒かくっついてて、ミッキーが半開きのドアを閉める。
「ごめん、四季くん。恋人が居るのに、嫌だったでしょ」
「ああ、いや。これくらいしなきゃ駄目だったから、助かった。ありがとう。じゃ、俺今日は、帰るな」
「了解」
俺は、スポーツブラのまろやかな肢体に悲しいくらい反応しない心臓をちょっと恨みながら、寝不足で重い足取りで廊下を行った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
【本編完結】完璧アルファの寮長が、僕に本気でパートナー申請なんてするわけない
中村梅雨(ナカムラツユ)
BL
海軍士官を目指す志高き若者たちが集う、王立海軍大学。エリートが集まり日々切磋琢磨するこの全寮制の学舎には、オメガ候補生のヒート管理のため“登録パートナー”による処理行為を認めるという、通称『登録済みパートナー制度』が存在した。
二年生になったばかりのオメガ候補生:リース・ハーストは、この大学の中で唯一誰ともパートナー契約を結ばなかったオメガとして孤独に過ごしてきた。しかしある日届いた申請書の相手は、完璧な上級生アルファ:アーサー・ケイン。絶対にパートナーなんて作るものかと思っていたのに、気付いたら承認してしまっていて……??制度と欲望に揺れる二人の距離は、じりじりと変わっていく──。
夢を追う若者たちが織り成す、青春ラブストーリー。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む
中屋沙鳥
BL
フロレル・ド・ショコラ公爵令息は希少なオメガとしてシュクレ王国第一王子でアルファのシャルルの婚約者として望まれる。しかしシャルルは、王立学園の第三学年に転入してきた子爵令息ルネに夢中になってしまう。婚約者が恋に落ちる瞬間を見てしまったフロレル。そしていころには仲の良かった義弟アントワーヌにも素っ気ない態度をされるようになる。沈んでいくフロレルはどうなっていくのか……/誰が一番腹黒い?/テンプレですのでご了承ください/タグは増えるかもしれません/ムーンライト様にも投稿しております/2025.12.7完結しました。番外編をゆるりと投稿する予定です
僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか
カシナシ
BL
僕はロローツィア・マカロン。日本人である前世の記憶を持っているけれど、全然知らない世界に転生したみたい。だってこのピンク色の髪とか、小柄な体格で、オメガとかいう謎の性別……ということから、多分、主人公ではなさそうだ。
それでも愛する家族のため、『聖者』としてお仕事を、貴族として人脈作りを頑張るんだ。婚約者も仲の良い幼馴染で、……て、君、何してるの……?
女性向けHOTランキング最高位5位、いただきました。たくさんの閲覧、ありがとうございます。
※総愛され風味(攻めは一人)
※ざまぁ?はぬるめ(当社比)
※ぽわぽわ系受け
※番外編もあります
※オメガバースの設定をお借りしています
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる