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決心
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その後も、広希を取り巻く教室内の環境は、これまでと何ら変化はなかった。皆感染者であるため、血液飲料こそは飲んでいるものの、広希が非感染者であることについて、一切触れるような真似はしなかった。
昼食時も同様だった。達夫や茂と一緒に食事を摂っていたが、広希が非感染者であることを忘れたかのように、接してくれていた。それに加え、これは計らいなのだろうが、非感染者の話題を口にすることはなかった。
午後もそれは続き、広希の中に存在していた警戒心は、氷のように溶けていった。
やがて、学校が終わり、帰宅の時間を迎えた。広希は友人に挨拶を行い、教室を後にする。その時も、皆は普段通り振舞っていた。
下校時、通学路を歩きながら、広希は心が軽くなっていることに気が付く。これまで背負っていた重荷を降ろした時のような、そんなすっきりとした気分だ。
達夫を始めとする、クラスメイト達の心遣いが嬉しかった。皆の、自分を不安にさせまいという気持ちが、はっきりと伝わってきた。
クラスの皆を疑っていた考えが、何だがとても愚かしく感じた。それは杞憂に過ぎず、恥ずかしい勘繰りに過ぎなかったのだ。学校なんて休まず、もっと信頼すればよかった。
いや、こうなるなら、そもそも、もっと早めに非感染者だとカミングアウトしてもよかったんじゃないのか、とすら思う。それならば、今までのように、わざわざ感染者の振りをする必要すらなかったのだから。
何はともあれ、結果的に善へと転んだのだ。それを喜ぼう。
広希は、自身の頭を占めていた不安が払拭されたことで、晴れ晴れとした気分に包まれていた。感染者を装うという重圧から開放された上に、今まで通りの生活が送れるのだ。これは、幸運だと言える。
広希は、鼻歌交じりに通学路を歩き、家へと辿り着いた。
帰宅した広希は、学校での成果を祖父母に報告した。そして、クラスの皆は信頼できることと、これからも通学を続けることを付け加えた。
祖父母は、それに対し、強い疑惑の念を呈した。とても信じられないという表情で、口を開く。
「それが騙すための演技だとしたら、どうするんだい?」
そう言ったのは、梅子だ。言いながら、梅子は、ぐっと顔を広希に近づけた。子猫を守る親猫のように、目が吊り上がっている。
広希は、思わず、身を引いた。迫真の剣幕に気圧されたのだ。
そして、自身の唇を舐め、言い返す。
「心配し過ぎだと思うよ。今日、皆の様子を見て、確信を持てたから。それに、いざとなったら、達夫が守ってくれるって約束してくれたし」
「その達夫君が、嘘をついていたら?」
「大丈夫。達夫とは長い付き合いだから、嘘をついていないのはわかる。本当に達夫は守ってくれるはずだよ」
「でも、絶対じゃないだろう?」
なおも梅子は、食い下がる。よほど信じられないようだ。直接クラスの様子を見たわけではないので、無理もないかもしれない。
しかし、広希の意思は固い。広希は、ひたすらクラスの皆が信頼できることを、祖父母に訴えた。
しかし、それでも二人は疑惑の表情を崩さなかった。特に梅子は、考え直すよう、強くこちらを諭してくる。
しばらく平行線が続き、やがて、それまで黙っていた克己が、口を開いた。
「わかった。そこまで言うなら、お前を信じよう。登校を続けなさい」
克己は認める言葉を言い放つ。
「あなた!」
非難の声を上げる梅子を、克己は宥めるように手で制し、続けた。
「しかし、これだけは約束してくれ。少しでも、身の危険が迫ったら、必ず逃げると。そして、すぐに家に避難しなさい。少なくとも、俺達は、間違いなく、広希の味方なんだから」
熊のぬいぐるみのような温厚な顔が、今だけは険しく形作られている。本気の眼差しだ。
「わかった」
克己の眼差しを受け、広希は、唾を飲み込む。そして、力強く頷いた。
昼食時も同様だった。達夫や茂と一緒に食事を摂っていたが、広希が非感染者であることを忘れたかのように、接してくれていた。それに加え、これは計らいなのだろうが、非感染者の話題を口にすることはなかった。
午後もそれは続き、広希の中に存在していた警戒心は、氷のように溶けていった。
やがて、学校が終わり、帰宅の時間を迎えた。広希は友人に挨拶を行い、教室を後にする。その時も、皆は普段通り振舞っていた。
下校時、通学路を歩きながら、広希は心が軽くなっていることに気が付く。これまで背負っていた重荷を降ろした時のような、そんなすっきりとした気分だ。
達夫を始めとする、クラスメイト達の心遣いが嬉しかった。皆の、自分を不安にさせまいという気持ちが、はっきりと伝わってきた。
クラスの皆を疑っていた考えが、何だがとても愚かしく感じた。それは杞憂に過ぎず、恥ずかしい勘繰りに過ぎなかったのだ。学校なんて休まず、もっと信頼すればよかった。
いや、こうなるなら、そもそも、もっと早めに非感染者だとカミングアウトしてもよかったんじゃないのか、とすら思う。それならば、今までのように、わざわざ感染者の振りをする必要すらなかったのだから。
何はともあれ、結果的に善へと転んだのだ。それを喜ぼう。
広希は、自身の頭を占めていた不安が払拭されたことで、晴れ晴れとした気分に包まれていた。感染者を装うという重圧から開放された上に、今まで通りの生活が送れるのだ。これは、幸運だと言える。
広希は、鼻歌交じりに通学路を歩き、家へと辿り着いた。
帰宅した広希は、学校での成果を祖父母に報告した。そして、クラスの皆は信頼できることと、これからも通学を続けることを付け加えた。
祖父母は、それに対し、強い疑惑の念を呈した。とても信じられないという表情で、口を開く。
「それが騙すための演技だとしたら、どうするんだい?」
そう言ったのは、梅子だ。言いながら、梅子は、ぐっと顔を広希に近づけた。子猫を守る親猫のように、目が吊り上がっている。
広希は、思わず、身を引いた。迫真の剣幕に気圧されたのだ。
そして、自身の唇を舐め、言い返す。
「心配し過ぎだと思うよ。今日、皆の様子を見て、確信を持てたから。それに、いざとなったら、達夫が守ってくれるって約束してくれたし」
「その達夫君が、嘘をついていたら?」
「大丈夫。達夫とは長い付き合いだから、嘘をついていないのはわかる。本当に達夫は守ってくれるはずだよ」
「でも、絶対じゃないだろう?」
なおも梅子は、食い下がる。よほど信じられないようだ。直接クラスの様子を見たわけではないので、無理もないかもしれない。
しかし、広希の意思は固い。広希は、ひたすらクラスの皆が信頼できることを、祖父母に訴えた。
しかし、それでも二人は疑惑の表情を崩さなかった。特に梅子は、考え直すよう、強くこちらを諭してくる。
しばらく平行線が続き、やがて、それまで黙っていた克己が、口を開いた。
「わかった。そこまで言うなら、お前を信じよう。登校を続けなさい」
克己は認める言葉を言い放つ。
「あなた!」
非難の声を上げる梅子を、克己は宥めるように手で制し、続けた。
「しかし、これだけは約束してくれ。少しでも、身の危険が迫ったら、必ず逃げると。そして、すぐに家に避難しなさい。少なくとも、俺達は、間違いなく、広希の味方なんだから」
熊のぬいぐるみのような温厚な顔が、今だけは険しく形作られている。本気の眼差しだ。
「わかった」
克己の眼差しを受け、広希は、唾を飲み込む。そして、力強く頷いた。
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