あなたの血を飲み干したなら

佐久間 譲司

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異変

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 通学路で達夫に会わないまま、広希は学校に到着する。

 学校でも、口蹄疫の話題がチラホラ出ており、耳に入ってきた。

 大抵は不安視しておらず、克己が言及したように、せいぜい血液飲料の買い置きを心掛ける程度の心配だった。震災に備え、予め食料や水を用意しておこうかな、というような軽いノリである。

 そもそもまだ眼前に、はっきりと見えるほどの影響は出ておらず、どれほどの規模の問題なのか把握することが難しいのだ。そのため、何となく始まり、何となく終わるような、まるで地球の裏側の出来事同然のイメージを抱いている者がほとんどのように見受けられた。

 広希も同じく、その内何の混乱もなく事態は収束するのだろう、と大して深刻には受け止めていなかった。

 やがて、午後になると、口蹄疫の話題はほとんど聞かなくなった。そもそも、高校生が話す話題でもなかった。

 広希もその頃には口蹄疫のことなど頭になく、達夫達とゲームや芸能人のニュースなど普段通りの他愛もない話題に花を咲かせていた。もちろん、会話の最中にも、皆が血液を口にしているのは変わらなかったが。



 異変を感じたのは、それから十日ほど経ってからだった。

 帰宅時のことである。未だ入る部活を決めかねている広希は、その日も学校が終わると下校を行った。

 途中、飲み物を買うために、行きつけであるマックスバリュへと立ち寄った。

 飲料コーナーで商品を選んでいる際、ふと気付く。隣のコーナーだった。そこには血液飲料が棚に並んでいるのだが、その数がひどく少ないのだ。

 普段は不足なく、ぎっしりと商品が詰まっているはずなのに、今は大売出しの後のワゴン棚のように、半数以下まで減少している。空いているスペースが目立つので、随分と寂しさを覚えてしまう。

 商品を選び、レジで会計を済ませる際、店員に聞いてみる。

 「口蹄疫のせいで、血液が入荷しにくくなったのよ」

 中年女性の店員は、ひどく困った口調で説明をしてくれた。

 家に帰り、梅子と共に出掛けた先のスーパーでも似たような状況だった。こちらは、まだマシとは言えるものの、減少傾向であることがはっきりと感じ取れた。

 ニュースでも、そのことについて取り上げられていた。

 世界中で広がりを見せている口蹄疫の影響が、ここにきて、徐々に出始めたという。特に日本は、食料品と同様、血液飲料の大半を輸入に依存しているため、輸出入制限が設けられた現在、どこの国よりも早く、血液飲料の不足が訪れる恐れがあるらしいのだ。

 食料品の輸入制限は、家畜の肉に限定しているため、食料という点で見れば、他にも補える食べ物がある。だから、今回の件で食料不足に陥ることはなかった。

 だが、血液飲料は違う。『それしかない』のだ。血液の代替など存在せず、血液の供給が途絶えれば、不足の一途を辿るのみだ。

 また、その消費量も問題だった。好血病の感染者が一日に摂取する血の量は、相当多く、このままの需要が続くと、すぐに底をついてしまう。今までは、大量の輸入のお陰で充分に確保できていたが、この非常事態ともいえる状況下では、到底持たないらしい。

 政府は貯蓄していた血液飲料を開放する対策を立てたと、ニュースでは伝えていた。しかし、それもどこまでカバーできるか不透明というのが、ニュース番組の専門家の意見だった。

 楽観視していた世間の風潮に、一石を投じる情報だった。おそらく、方々で、同じ情報が流れ始めているに違いない。そして何より、それを身近で体感するようになったのだ。

 『血液不足』の訪れである。
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