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えらいでしょ?
しおりを挟むもうお夕飯のじかんだ……
あ!えっと、あのね!わたしは日野あけみ、4歳です! 今日はね、パパの日なの。
だからとびきり可愛いプレゼントを用意したいと思います!
まずはー……お気に入りのお手紙セットに「いつもありがと(´˘`)ちゃんとみてるよ!」って書きます!シールもつけちゃう。
ねこちゃんの、お気に入り、たくさん! ……ちょっと沢山貼りすぎて、文字があんまり見えないけど、かわいいから、よし!
つぎはー……お部屋をきれいにします! パパ、さいきん元気がないみたいみたいだから、お皿を洗って、コロコロもかけて、缶かんを袋にまとめるよ! 缶かん、固くて、袋に入れるの、すごくたいへんだけど、がんばりました! ……ちょっとだけ、缶かんで指切っちゃった。でも大丈夫!前ね、ママが買ってくれたねこちゃんのバンソコ貼って、がんばるよ!
まえ、お酒ばっかり飲んでたらめっ!だよっていうとおこられちゃった。だからね、もういわないの。
つぎはー、つぎは……なにしたらいいんだろ?わかんないや。
パパとママ、私でとったさいごの写真をぎゅっと抱きしめる。
もうお月さま、たかいとこのにきちゃった……パパ、今日ははやくかえってこないかな。 ううん、こんなにいい子にしてるんだから、帰ってくる!ちゃんと寝ないでまってるからね。
パパの忘れていったコーヒーを飲む。すごく苦くて、つらいけど、これを飲むと眠気がすこしやわらぐの、すごいよね!
※
母親がガキを置いてでいきやがった。 なんだ?俺の酒癖が悪いからか?
今日もキャバクラで俺は酒を飲む。 その事を話すとキャバ嬢が「えー、やばくないですか笑」というので「うるせぇ、お前に何がわかんだよ。おい、こいつチェンジで。」近くの黒服に女を変えるように支持する。
……出ていったの妻とは、いわゆるデキ婚だった。最初は、驚いたが嬉しかった。必死に働いて、良い父親になろうとした。でも当時妻20歳、俺30歳には限界があった。
年々妻は子育てのせいで「なんで私ばっかり!?」ってヒステリックになるし、ガキは泣くし。こっちがあたまがおかしくなりそうだった。
……ガキを作ることは出来ても、育てる覚悟はまったくなかったのかもしれない。 年の差婚なんて、するもんじゃねぇな。とひとりごちた。
正直出て行ってくれてせいせいしている。
家にある、冷蔵庫に貼られたキャラクターシールを無理やり剥がしたまだら模様の跡なんて、気持ち悪くてもうみたくなかった。
※
家に帰ってきた。もう深夜だ。
片付けられたビールの缶と、テーブルの上に「ぱぱへ」と書かれた猫まみれの封筒がある。
俺はそれを見て見ぬふりをして、昔、あけみがハイハイしてた頃の動画をスマホでずっと眺めていた。 ……あけみは、かわいい。 ……どうして、こうなってしまったんだろうか。
※
朝のパパはちょっとげんきだった。やっぱり手紙のおかげかな!? ……まだ開けてないみたいだけど。
今日はおててつないで保育園まできたの。うれしい!
※
「おはよーございます!」
あけみちゃんの元気な声が保育園に響く。 あけみちゃんの父親は、彼女を置いていくと直ぐに行ってしまった。いつもそうだ。人付き合いが苦手なのだろうか?
「あのね、昨日パパの日だったでしょ?だからね、私、お手紙書いてコロコロして缶かんお片付けしたの!えらいでしょ。」
自信満々に話す彼女を微笑ましく思いながら、話を聞く。……でも少し気になる点がある。
「缶かん……?危ないから触っちゃダメだよ?」
「んとね、私がかたづけないと、たくさんになっちゃうから、がんばるの!ほめてー!」
あけみちゃんは私に抱きついた。……その手は小さく震えていて、でも顔は笑顔だった。
……もしかしたら、とも考えたが、あけみちゃんの体にアザはない。痩せこけてもいない。保育園にも休まず来ている。でも、靴はみてわかるくらいすり減っている……私の予感があたっていたとしても現状、私たちにできることは、なにもない。……頭が、とても痛い。けれど、あけみちゃんは、もっと……
「あけみちゃん、よくがんばったね。」
私にできる最大のことは、その子の努力を認めてあげることだ。それしかできないことが酷く歯がゆい。……通報するべきなのか。でもするにしても判断材料が足りなさ過ぎて、今掛け合っても無駄だろう。無意識にスマホを握っていた手が、力無く落ちた。 空回りする正義感と理性が、私の中で戦っている。
でもあけみちゃんはうれしそうに、 「うん!わたし、えらいよね?」 と無邪気に、少し不安そうに問いかけてきた。
「うん、あけみちゃんは、えらいよ。」 心から、本当にそう言うと彼女は嬉しそうに頬を赤らめて私のエプロンに顔をうずめた。
※
あけみちゃんの父親が迎えに来た。相変わらず延長保育だ。
私が不安そうにあけみちゃんを見ると、楽しそうに、「せんせー!ばいばい!」と手を大きく振った。……片方の手は、父親と繋がれていた。
※
「今日は、ファミレスにでも行くか?」
パパが、とってもすてきなことを聞いてくれる。すごく久しぶりだった。
嬉しくなって繋いだ手をぶんぶん振り回す。
「あのね!ハンバーグとエビフライのやつ、たべたい!」
「ああ、お子様セットな。」
「うん!あと、りんごジュース!」
「わかった、わかった」
ほんとうに久しぶりだ!
……ママがいなくなっちゃってからはじめてかも。とっても嬉しくてにへへ、って笑っちゃった。やっぱり、パパは、やさしいの。
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