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第6章 王都編

第137話 世界樹

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 ドライアドについて行くこと、数分。少し開けた場所に出た。
  
「ここなの?」
『そう。あそこを見て欲しいんだ』

 ドライアドが、ある一点を指さした。
 そこにあったのは、何かを掘り返したような跡。

「なにこれ?」
『世界樹の根がある場所だよ』
「世界樹……」

 そういえばローブの奴らは、世界樹の根の力を利用してスタンピードを起こしていたね。それの痕跡か。

「これをどうすればいいの?」
『えっと…うん、世界樹の根が切れちゃってるみたいだから、治して欲しいの』
「……え?」

 世界樹の根を治す…?いやそもそも切れちゃってるの?

「それはドライアドの専門分野じゃないの?」

 そもそもドライアドは木の精だ。世界樹も木の部類に入るのだから、根を治すのはドライアドがやったほうがいいはず。

『専門分野は木…というより、自然全体なんだけど……世界樹はちょっと違うの』
「ちょっと違う?」
『うん。なんて言ったらいいのかな……あれは、なの。だからあれは自然とは言えなくて、私の力が及ぶ範囲外なの』
「世界の……」

 ちょっとそれは予想外だったけど…

「でもそれなら、なんで尚更私なの?」

 私はただの人間…うん、多分人間だ。だからドライアドにどうにか出来ないものを、私がどうにかできる訳が無い。

『……まぁ、そうなるよね』
「ん?」
『…多分、大丈夫だよ。だって……え?あ…うん』

 ドライアドが途中で言葉を止め、何かに反応する。

「なに…?」
『…なんでもないよ。とにかくやってみて、ね?』

 そう言いながら、ドライアドが私の背中を押してくる。

「わ、分かったから!」

 いきなり押されてずっこけそうになったので、押すのをやめてもらって自分で掘り返された場所へと向かう。


「………ん?」

 なんだろうか……近づくにつれ、懐かしいというか、心が落ち着くような…そんな感じがしてきた。一体……?
 まぁ、とりあえず悪い効果ではなさそうなので保留にしよう。

「……これが」

 掘り返された所は意外と大きく、私がすっぽり入れるほどだった。その穴の奥のほうに、緑っぽい管のようなものが見える。おそらくこれが世界樹の根なんだろう。
 その根には何かを刺したような跡と斬った跡があり、そこから透明な液体が流れ出ている。

「これを治すの?」
『そう。召喚に使われた魔法陣とか、この根に刺さってたよく分からないものは壊しといたから、後は治すだけ』
「で、どうやるの?」
『それは……え?でも……はぁ』

 またしてもドライアドが、誰かと話しているように独り言を呟く。

「誰と話してたの?」
『…言えない。けど…まぁ、知ってると思うよ。とても』
「…?」

 私の知っている人?誰だろうか…

『…ごめんねっ!』
「…え?!」

 私は一瞬何が起きたのか分からず…ちょっとして、ドライアドに突き飛ばされたということを理解した。

「ちょっ!?」

 私はそのまま世界樹の根がある穴へと落ち……その意識を失った。



『…これでいいの?』

 ーうん…ありがとう。ごめんねー

 そんな声が聞こえたような気がした。






 ……ここはどこだろうか。水の中にいるような、ゆらゆらとしたような…ふわふわとしたような……不思議な感覚。

「ここは……」

 声は出る。目も見える。動くのは…ほんとに水の中にいるみたいに鈍いけれど、動ける。

「確か……」

 ……そうだ。いきなりドライアドに突き飛ばされたんだった。ほんとなんで突き飛ばしてきたのか……
 まぁそれはともかく。ここはあの穴ではないよね。間違いなく。となるとここは…まさかとは思うけど…世界樹の根の中なのでは?

「……中に入って治せと?」

 そもそもどこを治したらいいのかも分からないのに、どうしろと…

「……ん?」

 なんだろうか…嫌な感じがする。世界樹の根に近づいたときに感じた、あの心地いい感覚に、濁りが生じたような…そんな感じ。

「…こっちか」

 感じる方向へ向かうことにする。水みたいな感じだったので泳ぐことにした。
 ……意外と泳げるな。満たしているのは樹液なのかな…




「ここ、だよね」

 感じていた場所へとたどり着いた。そこに向かうまでの間、どんどん嫌な感覚は増えていて、今では気持ち悪いくらいだ。

「…これ?」

 たどり着いた場所にあったのは………黒い淀んだ樹液。ネトっとした、タールみたいな感じ。

「…うっ」

 吐きそう…でもこの感覚は感じたことがあるものとよく似ていた。
 あの、禍々しい魔力。それにとてもよく似ていたのだ。

「翡翠…は、出せないか」

 試してみたけれど、どうやらここではアイテムボックスが使えないらしい。翡翠の浄化を使えるかと思ったんだけど……

「…聖火、だったよね」

 翡翠を取り出せない以上、あの蒼い聖火を私が創り出す必要があるだろう。でも原理なんて……

「うぐっ!?」

 突然何かが私の中へと流れ込む。それは……記憶だった。世界樹が見てきた、記憶。知識。それらが私の中へと流れ込んでくる。
 しかし、それはあまりにも膨大な量で……頭に激痛が走った。

「アァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!?」

 痛い痛い痛い!魔法で軽減しようとしても一向に良くならない。脳が焼けるような痛みを味わい続けた。









「うぐっ…」

 やっと激痛から解放される。ほんといきなりなんだってのよ……

「……納得いくけど、納得いかない」

 記憶、知識を覗いてみて、やられた理由は納得できた。でも、やられたことに納得がいかないのだ。しかもいきなり。

「……はぁ」

 …記憶、知識。それは私の中へと完全に入り込み、思うだけで全て出てくる。その中には…聖火についてもあった。おそらくこれを与えるためだろうけどさぁ……

「……絶対後でぶん殴る」

 待ってろよ!エルザ!







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