ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
29 / 197

29話

しおりを挟む
「うわぁ……」

 :うわぁwww
 :いやマジで瑠華ちゃん強過ぎでしょ…

 三階層に到達してからはや数十分。何故か以前潜った時よりも多くのリトルゴブリンに遭遇したが、その尽くを瑠華が一刀の元に斬り伏せる。その舞うような流れ作業に目の前の奏は勿論の事、コメントも唖然としていた。

「ふぅ…」

 一つ息を吐いてその動きを止れば、一拍置いて瑠華を取り囲んでいたリトルゴブリンの姿が塵と化す。

「まだまだじゃのう」

「いやいやいや十分だよ!?」

 :それな。
 :理想が高い…
 :リトルゴブリン相手でもここまで綺麗な動き出来るのは凄すぎる。

 視聴者も奏と同意見ではあったが、瑠華からすればまだこの薙刀――明鏡ノ月を活かしきれてないと確信していた。

(元より妾は武器など使った事が無いからのう)

 正直な話、今でも魔法を使った方が楽だと思っている。それでも武器を使っているのはスポンサーからの提供だからというのもあるが、一番は“納得出来ない”からだ。―――言ってしまえば、瑠華は以前から負けず嫌いなのである。

「それにしても凄い数だね」

 :リトルゴブリンに群れる習性があるとはいえ、流石に異常だとは思う。
 :まさかダンジョンブレイク?

「ダンジョンブレイク?」

「ダンジョンからモンスターが溢れ出る現象の事じゃな。しかしここは人の出入りが激しい初心者用のダンジョンじゃ。モンスターが溢れるという事はあるまい」

「となると…何?」

 :可能性としてはイレギュラーかな?

「イレギュラー…突然変異体の事だっけ?」

 ダンジョンは言ってしまえば坩堝の様なものだ。そんな場所では、犇めく通常種のモンスターが同族などと争い、能力が変質した個体が時たま現れる。それらをイレギュラーと総称しているのだ。
 イレギュラーは前提知識がまるで役に立たない上、通常個体よりも危険度が跳ね上がる事が多い。初心者向けのモンスターがイレギュラー化した場合もまた、例外では無い。

 :イレギュラーに追われたって事?
 :となるとやっぱり危険…な訳無いか。
 :正直瑠華ちゃんが居れば何とかなりそうwww

「…瑠華ちゃん」

「なんじゃ?」

「……居るの?」

 その問い掛けは、どこか確信めいていた。

 :え、マジで居るの?
 :いや分からん。事前に察知出来ないからこそのイレギュラーだし。

 奏が真剣な眼差しで瑠華を見詰める。しかし瑠華は何も答えず、ただそれに少し微笑んだだけだった。

 :あっ…
 :(´・ω...:.;::..サラサラ..
 :不意打ちはエグい…
 :てか笑ったって事は…
 :瑠華ちゃんなら把握してても不思議じゃないと思っちゃうのよなぁ……

「自ずと分かろう」

「……分かった」

 腰に佩いた刀の握り心地を二三度確認し、深く息を吐く。瑠華がなんの意味も無しにその様な言葉を吐かない事は、奏が最も良く知っていた。

「というか、ここまでモンスターが多いなら瑠華ちゃんの〖認識阻害〗で通り抜けられないの?」

 :あ、確かに。
 :瑠華ちゃんにとって糧にはならないモンスターばっかだし、素通りしても良いように思う。

「〖認識阻害〗は魔物…モンスターには効かぬのじゃよ」

「え、そうなの?」

「なんと言えば良いか…まず妾が扱う〖認識阻害〗とは、基本的に掛けた対象に対する興味を著しく失わせるものじゃ。例えるならば、宝石をそこらの石と同価値だと思わせるようにの」

 :ほほう。
 :気配を消すんじゃなくて、そこに居るけど気にならなくする的な感じか。

「じゃかモンスターは例外じゃ」

「なんで?」

「大きな肉が木っ端な肉片に変わったところで、モンスターからすれば皆等しく“餌”じゃからのう」

 :あぁ~…
 :成程、分かりやすい説明。

 故にかつての世界でもレギノルカに対してちょっかいを掛けて来た魔物は数多い。逆に〖認識阻害〗を解除すれば一目散に逃げたが。

(それでも逃げなかった妙な魔物は居たがのう)

 それも攻撃する為では無く、ただレギノルカを好いて近付いてきた魔物が。懐かしい記憶である。

「兎も角妾も薙刀に慣れたいのでの。この進み方は続けるぞ」

「はーい。私は出なくて良いの?」

「温存しておいた方が良かろう」

 :温存?
 :なんか奥にいるっぽいな。
 :奏ちゃんに戦わせたいモンスターが居るって事なのかな?
 :まさかイレギュラーと…?

「…勝てるの?」

「どうじゃろうな?」

 少しの期待と愉快さを滲ませる笑みを浮かべる瑠華に、奏は溜息をひとつ吐いた。瑠華が言わんとしている事は、長年の付き合いで何となく分かってしまう。

 ――――瑠華は、自分を助けるつもりが無いと。

 正確には命が危なくなれば手を貸すつもりはあるのだろう。しかし、逆に言えばその状況にならない限り手出しはしないという事だ。

(そして多分、手を貸した時点で瑠華ちゃんは

 であれば、求められる結果はただ一つしかない。

「はぁぁ…早まったかなぁ…」

「おや? 諦めるのかえ?」

「まさか。まぁちょっと性急過ぎるとは思ったけど…」

「そうでもせねばじゃからの」

「………」

 人の一生が短い事を、瑠華はその身を持って知っている。瑠華に肩を並べると啖呵を切った以上、足踏みなどしている暇は無いのだ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...