ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
105 / 197

105話

しおりを挟む
 結局広報になったのか、なっていないのか分からない配信を終えた数日後。瑠華は一人で榛名ダンジョンへと向かっていた。無論今回はちゃんと予約をした上で、だ。

「ふむ…」

 目の前でのそのそと動くコガネンを見ながら、瑠華が思案する。わざわざ珍しく一人でダンジョンまで向かった目的は、このコガネンをどうにかして簡単に倒す方法は無いものか探す為であった。

「動きは鈍いが硬いのぅ…」

 コンコンと軽く手で叩くと、硬質な音が返ってくる。硬いとはいえ瑠華が少し強く叩けば砕ける程度ではあるが、それがただの人間には難しい事である事は勿論理解している。

「魔法は―――」

 以前倒した時と同じく焔の矢を放てば、コガネンの身体が一瞬にして燃え上がった。そしてその場に残ったのは、小さな魔核に装甲。

「むぅ…これでは素材にならん」

 ゴミとなったそれをその辺に放り投げ、はぁ…と落胆した息を零す。火を使えば簡単に倒せるが、ドロップ品は魔核しか残らない。これでは簡単に倒せたとしても意味が無いだろう。……まぁ実際にはただ瑠華の火力が高過ぎるだけなのだが。

「要は危険性が無く安全に楽に倒せれば良いのじゃろう? ……無理では無いかのぅ?」

 簡単にそんな事が出来るのなら、誰だってそうしているだろう。
 折角わざわざそれを探しに一人で来たのに早々に頓挫し、瑠華が溜め息を吐く。

「隙間を刺しても斬るには相応の力が要るようじゃし」

 ザクッと薙刀をコガネンの頭と胴体の繋ぎ目へと突き刺し、手応えを確認するように斬り裂く。“明鏡ノ月”を持ってしても少しの抵抗感を感じる程には硬い。
 だからこそ素材に価値が出る訳ではあるが、これを楽に倒せるだけの実力があるなら他にもっとマシな素材を獲得する事が出来るのだ。

「結局、撒き餌で集めて無防備なところを倒すのが無難なのじゃろうな」

 だがそれをした場合、予想以上の数が集まる可能性がある。なので基本ダンジョン内において、撒き餌等の行為は禁止されていたりする。

「儘ならんものじゃのぅ…」

 いざ人間の立場に立って考えれば、様々な問題が見えてくる。それ自体は未知の領域である為楽しいものではあるが、今はそれが煩わしい。

 解決出来ない問題は取り敢えず先送りにして、瑠華がダンジョンの奥へと歩みを進める。実は今回ダンジョンに来たのは、コガネンに関してだけでは無かった。

『要請:破損箇所の修復』

『要請:破損箇所の修復』

『要請:破損箇所の修復』

『要請:破損箇所の―――』

「分かった、分かったのじゃ。いい加減煩いぞ」

 サナ達と共にこのダンジョンに訪れた時に感知されたのか、ここにいる間ずっと瑠華の視界の端にその様な文言が出続けていた。
 無視する事は出来るが流石に瑠華もあの時はやりすぎた自覚があったので、致し方なくこうして足を運んでいる。

「ここじゃろ? あとは…」

『十七階層から二十五階層の通路にて多数の損傷、破壊を確認』

「……そんなに壊しておったかの?」

 そこまで壊した自覚は無いが、無遠慮に魔法をばら撒いた記憶はある。本気には程遠いとはいえ、それでもダンジョンの内壁を破壊するには十分な威力があったのだ。

 ダンジョン側の指示の元、破損箇所まで向かい魔力を流して自己修繕を促進する。その際不必要な変質を促さないよう、魔力の質を調整しておく事は忘れない。

「しかし何故修復がこうも進んでおらんのかと思うたが……妾の“龍氣”が邪魔をしておったのか」

 魔力とは異なるその力は、瑠華が龍人形態の時に発するである。
 根本から異なるその力は人間は勿論、ダンジョンや世界でさえも扱えない力だ。それが魔力の流れを阻害してしまっていた為に、破損箇所の修復が出来ないでいた。


「これで全てじゃな?」

『はい。レギノルカ様、御協力感謝致します。しかし今後はお控えください』

「うむ…ちょっとくらいならば良くないかえ?」

『駄目です』

「駄目か…」

 少し落胆しつつ思ったよりも感情豊かな“世界”に内心驚くが、これ以上負荷を掛けるのも本望では無いので諦める。

(手加減のぅ…最近あまり上手く出来んのじゃよなぁ…)

 今の所問題は特に起きていないが、コガネンの素材を焦がしてしまったことを考えるに魔法の手加減は大分怪しくなっているように思う。

「魔法を禁止…するよりかは、やはり制御を何とかするしか無いのじゃろうなぁ…」

 その為には練習する為の場所が必要だが、ダンジョンからは拒絶されてしまった。しかし【柊】でするのは流石に危険過ぎる。

「…か?」

 一瞬その考えが頭を過ぎる。突拍子も無い考えかもしれないが、案外ありかもしれないなと思い―――すぐに頭を振って否定した。

「駄目じゃ。何時戻って来れるか分かったものでは無い」

 こちらとあちらでは、時間の流れが違う。元々あちらの時間軸を基準として生きていた瑠華からすれば、そのが大きいものである事は理解出来た。

(最悪帰って来た時には、既に奏達が死んでいてもおかしくは無い。それだけは受け入れられぬ)

 少しあちらで会話を交わしただけで数年、最悪数十年か数百年は経過してしまう可能性がある。そんな危険性を孕んでまで、戻りたいとは思えなかった。

「はぁ……下に憂さ晴らしのモンスターは居らんかのぅ…?」

『否定。該当無し』

「…答えたのはダンジョンの方か」

『肯定』

「素直じゃのぅ…ほんにおらんのかえ?」

『肯定。は可能』

「……良いのか?」

『空間隔離。運用魔力流用可能。推定所要時間五分。可否』

「…ならばやってみるかの」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

処理中です...