ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
153 / 197

153話

しおりを挟む
 夕食は宴会場で行われ、豪華な京懐石料理が振る舞われた。特に瑠華はその中でも湯豆腐に使われていた豆腐が気になった。

(ここまで濃い物は初めてじゃ…土産として買えれば皆も喜ぶかのぅ)

 折角の美味しいものは【柊】の皆にも食べさせてあげたい。普通ならばそこまでの量を持って帰る事は出来ないだろうが、そこは瑠華なので問題外だ。

「瑠華ちゃんそれ気に入ったの?」

「うむ。奏はどうじゃ?」

「私は魚かな」

 奏が焼き魚を箸で綺麗に解しながら口に運び、その味に舌鼓を打つ。するとそんな様子を見ていた雫がぽつりと呟いた。

「なんか…意外だわ」

「ん? 何が?」

「いや、かなっちって瑠華っちにおんぶにだっこだから、魚も解して貰うかと思ったから」

「あー…実は前まではそうだったんだよ。でも流石に下の子達に示しがつかないからさ……」

 奏は普段瑠華に頼りがちだが、年長者としての自覚もちゃんと持っている。なので流石にそろそろ駄目だろうとある日思い立ち、箸の持ち方や食べ方を瑠華に教えて貰ったのだ。

「あーね。妹達が居るとそういう所気にするようになるんだね」

「まぁね。下の子達が憧れるのは当然瑠華ちゃんだし、実際はそこまで見られてないと思うけど」

「いや? 存外見ておるものじゃぞ? 特に奏が何かに向かってひたむきに努力する姿はのぅ」

「そなの?」

 信じられないと言いたげな奏に、瑠華がゆっくり頷く。
 最初から全てを熟せてしまう瑠華とは違い、奏は一から努力して今の力を勝ち取っている。奏は気付かずとも、その姿を下の子達はしっかりと見ていた。なので寧ろ尊敬という面では、瑠華より奏の方に軍配が上がっていたりする。

「瑠華っちは努力とか見せないタイプ?」

「瑠華ちゃんそもそも努力しなくても出来ちゃうタイプだから」

「……まぁ、否定はせん。じゃが努力をしないという訳でもないぞ?」

 確かに瑠華はやれば大抵の事は直ぐに出来てしまうタチだ。だが全く努力していない訳では断じて無い。

「でも見た事無いよ?」

「特段見せるものでも無いからの。それに時間帯の問題もある」

「皆が寝た夜遅くにって事?」

「うむ」

「そういう時瑠華ちゃん魔法で音消せるから便利だよね…何してるの?」

「基本勉強じゃな。学業もあるが、資格の物も多い。後は料理も含まれるかの?」

 瑠華の料理のレパートリーは幅広い。だがそれは瑠華が人知れず試作を繰り返した事による努力の賜物だ。

(思えば遥か昔から努力は重ねてきたのぅ…)

 今も昔も、瑠華は努力を重ねてきた。母から殆どの権限を渡され許されているのも、それに見合う努力をしてきたからなのだ。

(あの時母君に逆らわなければ、今の妾はおらんかったじゃろうな)

 母は瑠華―――レギノルカをそれはもう溺愛した。元々は仲間として創り出したつもりだったのだが、いざ創ってみればもう娘としてしか見れなかったのだ。そして子を持つという事が初めてであった母は、その加減を見誤った。
 護らねばと思いレギノルカを囲い、高い潜在能力と生まれ持ってしまった権限を制限した。それに対して母の助けになりたかったレギノルカは反抗し、その制限を努力して引き千切ったのだ。
 そのせいで元々の能力にレギノルカが努力した事によって獲得した能力が加わり、母でさえ予想外の力を付ける事になったのだが……幸いにも底知れぬ愛情を注がれたレギノルカが歪む事は無く、母がこっそり安堵していたのは内緒である。

「瑠華ちゃんがこれ以上努力したら益々追い付けなくなる…」

「追い付く追い付かないという問題ではなかろうに」

 瑠華は奏に期待している。だが追い付けるなどとは一ミリも思っていない。それだけ瑠華は自らの力を理解し、誇りと自信を持っているのだから。
 しかし…いやだからこそ、追い付く事こそが大切だとは思っていない。

「…諦めるのは簡単じゃからの」

「ん? なんか言った?」

「いや、なんでも無い」


 ◆ ◆ ◆


 夕食を終えれば、残すは入浴だ。この旅館には天然温泉の大浴場があり、何気に瑠華は気になっていた。

「瑠華っち相変わらず肌白過ぎ…」

 服を脱いだ瑠華に雫がそう羨望の眼差しを向ける。瑠華が日焼けや肌荒れなどとは無縁と聞けば、更に嫉妬で怒り狂いそうである。

「これで大したスキンケアして無いんだから世の中不公平だよね」

「……一応そういった魔法はあるが、知りたいかえ?」

「「「知りたいっ!」」」

 良かれと思い軽く提案すれば思いの外熱量の高い返答があり、瑠華が思わず仰け反った。

「知りたい、けど…誰でも使えるの?」

「魔法と言ったが、魔力の扱いさえ出来れば問題ないものじゃ。雫が問題無く魔力を扱えるのは知っておるが、小百合はどうなのじゃ?」

「…実はあんまり自信無い。一応魔力はあるし、感じる事も出来るけど」

「ふむ…であれば「私が教えてあげるね!!」」

 瑠華の言葉を奏が遮る。その声には何処と無く焦りが見え隠れしていた事に気付いたが、教えるならば奏の方が適任だと思いそれ以上は口を噤んだ。

「そ、そろそろ入ろっか。魔法に関しては部屋に戻ってからって事で」

「そうじゃな」

 雫が不自然に止まってしまった会話の流れを切り替え、漸く大浴場へと繋がる扉を開く。その途端むわっとした熱気と共に真っ白な湯気が漂い、温泉独特の匂いが瑠華達の鼻腔を刺激した。

「おー、前行ったとこより広くない?」

「広いじゃろうな。【白亜の庵】よりこの旅館の方が規模は大きいでの」

 瑠華達が以前泊まった【白亜の庵】はそこまで大きな旅館ではなく、お風呂に関しては中に二つ、露天が一つといった具合であった。しかし今回の旅館は中に四つ、露天が三つとかなり規模が大きいものとなっている。

「外に壺のお風呂もあるみたいだよ」

「壺?」

「一人用露天風呂みたいなやつ。瑠華っちと入って来れば?」

「! そうするっ!」

 雫からのパスに目を輝かせた奏が、手早く髪と身体を洗って瑠華の手を引いた。

「いこっ」

「これ。走ると危ないぞ」

 喜色を滲ませながら急かす奏に、瑠華が苦笑しながらも素直に引っ張られる。外に出れば秋の訪れを思わせる冷たい夜風が肌を撫で、奏だけぶるりと身体を震わせた。

「これ、だよね?」

「つぼ湯と書かれておるし、間違いないじゃろ」

 寒さに耐えながら少し進めば、つぼ湯の全貌が顕となる。横並びになった陶器の壺は全部で三つあり、その全てに並々とお湯が注がれていた。大きさは大の大人一人が丁度入れる程だろうか。小柄寄りな瑠華と奏ならば、二人入っても問題無さそうだ。

 早速とばかりに奏が髪を上げてお湯の中へと身を滑らせると、一気に押し退けられたお湯が溢れ出す。

「瑠華ちゃんも入ろ!」

「面白い風呂じゃのぅ」

 奏に誘われるまま同じ壺へと足を入れ、ざぶんと肩まで浸かる。流石に二人入ると中々に狭いが、それはそれで身を寄せ合う形となるのでより温まるような気がした。

(……のぼせそう)

 奏の場合は沸騰しそうになっていたが。

「小さい子らも喜びような風呂じゃな」

「そ、そだね…」

「奏? 何故そうも端に寄るのじゃ? まだこちらに余裕はあるぞ?」

「あ、いや…壁に寄りかかってた方が、安心する、からさ…」

「ふむ…?」













 ―――一方その頃、別の露天に入っていた雫と小百合はと言えば。

「ヘタレ」

「ま、まぁそう言わずに…」

「…いっその事部屋二人っきりにするか」

「それは普段とあんまり変わらないんじゃないかなぁ…?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

処理中です...