ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
156 / 197

156話

しおりを挟む
 作った和菓子を頂いた後、瑠華と奏は二人揃って写真をとられていた。瑠華の着物姿を宣材写真として使いたいと言われたので、どうせならと奏と二人で一緒に記念写真を撮る事になったのだ。

「うーん…他の場所でも撮りたい…先生、駄目ですか?」

「えっ」

 用意された撮影スペースはあるものの、瑠華程の逸材をここだけの撮影で終わらせるのは些か惜しかった。なので他の場所に向かう許可を得ようと担任の先生へ尋ねたのだが、いきなりの事に思わず素っ頓狂な声を上げる。

「というか二人の午後の時間貰う事出来ないです?」

「さ、流石にそれは…いやでも問題無い…?」

 修学旅行は当然のように事前に決められた予定がある。しかし今回の修学旅行はそこまでカツカツの予定になっておらず、多少時間を取られたとしてもそこまで問題は無かった。

「この後の予定はどうなっているんですか?」

「この後は昼食を食べてから水族館に行く予定です。時間としては午後二時からを想定しているのですが…」

「今の時間からすると…移動を考えても二時間くらいは猶予がある訳ですね」

「それは確かにそうですけど…一番大事なのは二人の意思ですよ」

「妾は別に構わんぞ。中々得られる機会では無いしのぅ」

「私も大丈夫ですっ」

「ほら。二人もこう言っている事ですし…」

「うぅん……」

 最後まで渋っていた先生だったが、瑠華なら大丈夫だろうという信頼からその提案を渋々ながら承認する。

(それに二人の将来に繋がるかも知れないし…)

 二人が将来探索者として生きていく事を決めているのは知っているが、やはり教育者としては選択肢は増やしてあげたいという想いもあって。

「瑠華ちゃんがモデルの道に進んだ姿も見てみたいわね…」

「普通に売れそう」

「瑠華っちの場合〖認識阻害〗で身バレしないし、その道進んだら問題とか起きそうにないから合ってはいるかも」

「……私は、嫌かな」

 皆が好意的な意見を述べる一方で、奏が顔を顰めてその意見を否定する。

「瑠華ちゃんが認められたり好かれるのは良いんだけど…遠くに行っちゃう気がするのは、やだ」

「確かにそれはあるねぇ。悪い事じゃないんだけど、かなっち程親しい間柄ならそれは嫌って思うのも分かる」

「まぁ捉え方は人それぞれだし、選択肢の一つとして少し頭の隅に置いておいてくれればそれで良いのよ。自分の人生を決めるのは結局自分自身なんだもの」

 担任の先生の言葉で一旦その話題は打ち切られ、奏と瑠華の二人が皆と分かれる。ここからは言っていた通り二時間ほど別行動だ。

「二人ともありがとうございます。うちのスタッフの我儘に付き合って頂いて…」

「気にしないでください。私にも得はある話ですし」

 実は後で瑠華の写真データを貰う約束をちゃっかり取り付けていた奏である。

「妾は問題無いが、奏は食事など要らんのかえ?」

「んー…そこまで空いてないんだよね。和菓子食べた後だし」

「さよか。まぁ小腹を満たす程度のものならば持っておる故、遠慮無く言うといいのじゃ」

「ん。分かった」

 そんな二人の仲睦まじい会話すら写真に収められていた事に瑠華は気付いたが、別に幾ら撮られようが瑠華としては気にしないので放置した。

(そも掲載するのであれば許可を取るじゃろうしな)

 瑠華の龍眼は全てを見通す。その人の気持ちも、内心も、人柄も。だからこそ、今回の撮影を行う人達が信用に値すると判断した。

「しかし撮影するにしても何処へ…」

「それは着いてのお楽しみという事で」

 何故か随分とワクワクした様子でそう言う人に疑問を持つ間も無く、そのまま瑠華達は車に乗せられた。

「随分と気合を入れて撮影するのじゃな?」

「だってこんな逸材探してもそうはいないもの」

「瑠華ちゃんに奏ちゃん…で合ってるよね? 二人ともすっごく着物が似合ってるから、撮るならちゃんとしたのを撮りたいのよ」

 車の中での会話は、先程までと比べると幾分か砕けたものに変わっていた。その方が奏達も話し掛けやすく、少しずつ会話が弾んでいく。

「瑠華ちゃんの口調って癖?」

「癖というよりは意図したものじゃが…まぁほぼ無意識じゃな」

「随分と珍しい容姿だけど、ご両親は日本人なの?」

「二人とも日本人じゃよ。紛れも無くな」

「えっ!? 私それ知らないんだけど!?」

「聞かれておらん故に答えんかっただけじゃよ。あまり【柊】において話題にすべきものでも無かったしのぅ」

 瑠華は当然ながら今の両親が誰なのかを理解している。何故瑠華を手放したのかも。だが奏達から聞かれることは無かったので、今まで教えた事が無かったのだ。

「二人はもしかして施設出身…?」

「そうですよ。でも気にしないで下さい。寧ろこっちが気を遣っちゃいそうになります」

 施設出身とはつまり両親が居ない事を意味する。だが【柊】の誰もそれを悲観した事は無い。殆どが顔も覚えていないからではあるが、それ以上に瑠華という存在が大き過ぎた。

「私達にとって母親に当たるのは瑠華ちゃんですから、今更気にする事も無いんです」

「母親…」

「母親であり姉でもあります」

「……?」

 肩書きが更に増え疑問符を浮かべている人達に、奏が苦笑を浮かべる。自分でもかなり矛盾を孕んだ肩書きだと思っていたからだ。

「ところで瑠華ちゃん。両親って…」

「詳しいことは言わん。それでは二人が成した事に意味が無くなってしまうからのぅ」

「…そっか」

「ただまぁ…奏と無関係という訳では無いとだけは伝えておこうかのぅ」

「私? 会ったことがあるとか?」

「奏会ったかは分からんがな」

「…?」

 妙に含みのある言い方をする瑠華に小首を傾げるも、この話は終わりとばかりに瑠華が口を噤む。

「えぇっと…」

「あぁすまんのぅ。気にせず話を続けてくれ」

「そう、言うなら…えと、普段の瑠華ちゃん達は何してるの?」

「普段…学校に行ったり、配信したりですかね?」

「配信?」

「ですです。『柊ちゃんねる』という名前でダンジョン配信をしてるんです」

「柊…あっ、これ?」

 早速とばかりにスマホを取り出し、スイスイと検索した画面を見せる。それを見て間違いないと奏が頷いた。

「へー、中々人気あるのね」

「となると宣材写真に使うとそっちの宣伝にもなるかしら?」

「なる、かなぁ…?」

 全くの無駄にはならないだろうが、ダンジョン配信を見るものがわざわざ着物の宣伝を見るものだろうかと奏は首を傾げるのだった。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...