ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

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157話

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 親しげに会話を交わしながら車に揺られる事数分。漸く目的地に到着したようだ。

「ささっ。降りて降りて!」

 時間が限られているからか、瑠華達に車を降りるよう急かす。そうして促されるままに外に出ると――――

「―――成程。神社か」

「そっ! 伏見稲荷大社だよ!」

 瑠華達が連れてこられた場所。それは京都において清水寺と並ぶ程の知名度を誇る、伏見稲荷大社だった。

「じゃがここは有名な信仰の場所じゃろう? 写真など撮って良いのかえ?」

「その点は大丈夫。許可取りはしてるし、その担当の人も付くから」

 噂をすれば何とやら。車近くで待機していた瑠華達の元に、一つの人影が近付いて来た。服装からして巫女の一人だろうか。

「……蘭奈らなから突然連絡が来たと思えば、またとんでもないお方を連れて来ましたね……」

「あっ、栞遠しおん!」

 やって来た巫女と係の女性が親しげに会話を交わす。それを見れば、二人が仲の良い間柄である事が窺えた。

「お初にお目にかかります。当神社にて巫女を仰せつかっております、栞遠と申します」

 瑠華達へ向けて透き通った声でそう挨拶すると、深々と頭を下げる。奏は随分と礼儀正しい人だなぁと思いながら同じく礼を返し、瑠華は……苦笑を浮かべていた。

(気付いておるな。それも正確に)

 旅館にて勘づかれた時とは違い、目の前の巫女は瑠華の正体を完全に看破していた。それでも尚恐怖すること無く敬意を示す様に、瑠華がひっそりと感心する。

「栞遠は私と幼馴染なのよ。だから今回の撮影も無理を言わせて貰っちゃった」

「本当に無茶振りですからね…とはいえ、特段断る理由はありません。蘭奈の事は信頼していますから。それに……」

「それに?」

「……この方々であれば、寧ろこちらから歓迎したい程です」

「? 瑠華ちゃん達?」

「…成程、瑠華様ですか。とても良い響きですね」

「……妾も気に入っておるよ。この名は親より最初に与えられた贈り物じゃからの」

 瑠華という名前は、今生の母親から与えられた名前だ。本来の母から与えられたレギノルカという真名は当然大切で大好きなものだが、それと同じくらいに瑠華という名も気に入っていた。

「左様でございましたか。……ところで、その…」

「どうしたのじゃ?」

「……少し、頂けると…」

「抑え……あぁ成程」

 一瞬何を指しているのか分からなかったが、自分が抑えていない物が何かを考えれば直ぐに思い至った。

(神格は普通影響は無いからのぅ…)

 神格。それは世界の理を外れた者が持つものである。人間にとって感じる事が出来ない故に害にはならず、抑えるのも苦しさがある為今まで瑠華は抑えた事が無かった。だが何かしらの加護を受けた者、もしくはその眷属にとって、これは威圧感に繋がってしまうのだ。

(あまり得意では無いのじゃが……)

 力の制限や魔力、神力の制限は正に血の滲む様な努力をしてほぼ完璧と言える程に至っているが、神格だけは別だった。なにせこれは存在感のようなものであり、言われて抑えられる物では無いのだ。

「瑠華ちゃん? また何かしてたの?」

「またとは何じゃまたとは。……ん、これでどうじゃ?」

「はい。ありがとうございます」

 明らかに安心した様子でそう言う栞遠に、かなりの威圧感を与えていたと気付き申し訳なさげに眉を下げる。

「随分と瑠華ちゃん達に丁寧だね?」

「私は常に誰に対しても礼儀を欠かした事はありませんよ。では早速参りましょうか。許可を得たとはいえかなり無理矢理でしたので、確保出来た時間はそうありませんから」

 それもそうだと頷き、栞遠の案内で境内へと入る。するとそこまでの人数で固まっている訳では無いのに、道行く人からの視線をヒシヒシと感じた。

「随分と注目されておるのぅ?」

「…まぁ、瑠華ちゃんだし。誰だって二度見するよ」

 着物姿の瑠華の容姿は見慣れているはずの奏からしても思わず息を呑む程であり、加えて瑠華は今〖認識阻害〗を展開していない。それも相まってかなりの注目を集めてしまっていた。……だが奏も瑠華程ではないにしろ、チラチラと視線を集めていた。自分の容姿に疎いのは、瑠華だけでは無いのである。

 栞遠の案内で連れられる事暫く。到着したのは、伏見稲荷大社において一番知名度があると言っても過言ではない千本鳥居だった。

「…瑠華様、くれぐれも、お願いいたしますね?」

「分かっておる」

 小声で栞遠からそう忠告され、瑠華もそれに合わせて小声で答えて小さく頷く。

(鳥居は門の役割を果たす。つまり……)

 瑠華がおもむろに最初の鳥居へと手を伸ばす。その瞬間、コツンと何かが指先に当たる感覚がした。

(やはり結界か。他の神格を自らの領域に寄せ付けたくないという気持ちは、分からんでもないな)

 とはいえそのままでは撮影に支障が出てしまう。瑠華ならばこの程度の結界は進むだけで突破出来るが、それではこの結界全体まで影響を及ぼしかねない。そこで許可を求めるように視線を栞遠の方へ滑らせれば、それに気付いた栞遠がゆっくりと頷いた。

「『開け』」

 瑠華の口から紡がれた音が、込められた意味のままにその力を発揮する。すると目の前の結界に瑠華一人が通れるだけの穴が開き、そこを透かさず瑠華が自身の結界で封じた。これにより、結界の効力自体は保つ事が出来るはずだ。

(これで一先ずは問題あるまい。しかし……)

 いざ結界内部に足を踏み入れた瞬間、微かな違和感を瑠華が感じ取った。だがその正体が分からず、モヤモヤとした気持ちになる。

「じゃあまずは瑠華ちゃん単体で」

「相分かった」

 違和感は拭えないものの、時間が無いので取り敢えず言われた通り撮影を始めてしまう事に。

「カメラ越しで見ると印象がちょっと変わる…」

「それが写真の良い所でもあるね。特に今日は天気がいいから撮りやすいよ」

 木漏れ日と立ち並ぶ鳥居の隙間から柔らかな光が差し込み、瑠華の足元を照らす。その光景は瑠華の容姿も相まって、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「視線を外して見上げる感じに…そうそう」

 瑠華がその指示通りカメラは見ず、鳥居を見上げて何か物思いに耽るような表情を浮かべる。そしてそれは、奏が今まで見たことの無い表情で。

(……嫌だな)

 ただ綺麗だと他の人は感じるだろう。だが奏は、その表情が好きではなかった。

「次は奏ちゃんと二人で」

「はいっ」

 奏が名前を呼ばれるや否や一目散に瑠華の元へと駆け寄り、その胸へと飛び込む。当然の様に危なげなく受け止めるも、その突然の行動に瑠華は小首を傾げた。

「奏?」

「瑠華ちゃんは笑ってて。それが一番綺麗だから」

「…そうじゃな」

 何を奏が感じ取ったのかは分からない。だが他ならぬ奏からのお願いを断る理由も無かった。
 瑠華が胸元から見上げる奏の頬に手を添え、ふわりと優しく微笑む。そんな笑みを至近距離から直視した奏は一瞬で茹で蛸の様に顔が真っ赤に染まったが、鼻血だけは必死で堪えた。汚す訳にはいかないので。

















「……めっちゃ良い写真撮れた」

「……流石に許可は必要ですよ?」

「それは勿論。奏ちゃんはこの写真あげるって言えば許可してくれるだろうし」




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