ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

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158話

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 突発的な写真撮影を行ったその日の夜。瑠華は一人で部屋のバルコニーに居た。そこで何をしていたかと言えば……晩酌である。

「中々良い体験じゃったのぅ…」

 思い出すのは、撮影が終わった後の事。というのも無事に撮影を終えた瑠華達は、少しばかり時間があったので着物を着たまま街を散策する事が出来たのだ。非日常的な体験は、瑠華からしてもとても有意義な時間であった。

「……先生方にバレればただでは済まんな」

 手にしたグラスを傾け、揺らめく液体を見て苦笑する。当然〖認識阻害〗は掛けているのでバレる事など有り得ないが、流石に一杯だけにしようと瑠華は思った。…一口でも飲んでしまえばそもそも何の意味も無いが。

「しかし流石は日本の中でも信仰が根強い場所と言うべきか…ここまで存在が露呈するとは思わんかったのぅ」

 しみじみとした様子でそう呟き、ちびちびとお酒を口に含む。特段存在感を隠しているつもりは無いが、それでもただの人間では気付く事など出来はしない。ここまで気付かれてしまったのは想定外だ。

「対策を考える必要が…本当に必要かのぅ?」

 瑠華の正体を看破出来るほどの実力者であれば、当然その人格もそれに見合ったものだ。そう易々と吹聴するとは考えにくい。なれば対策する必要性はあまり無いように感じられる。……それに、そもそも対策の仕様が無いというのもある。

「ふむ…まぁ良かろう。そも完全に抑えてしまうと母君が出てくるかも知れんしのぅ」

 神格とは例えるならば存在感のようなものだ。瑠華であれば神格を完璧に遮断する事も出来てしまうので、そうなると母が瑠華の存在を認知出来なくなってしまうのである。瑠華を溺愛している母の事だ。絶対に大慌てで出てくるだろう。

「さて。そろそろ戻るかの」

 グラスに注いだ清酒が無くなったので、予定通り今日の晩酌は終了だ。仕舞う前に魔法で洗浄して、無論匂いを消しておく事も忘れない。
 そうして全ての片付けを終えていざ部屋に戻ろうとしたその時、ひらりと何かが瑠華の居るバルコニーへと舞い込んだ。

「ん? ……これは」

 床に落ちたソレに手を伸ばし、拾い上げる。それは妙な形をした紙切れだった。

「…成程、“ヒトガタ”か」

 人の形を象った紙に心当たりがあった瑠華がそう呟くと、それがふわりと瑠華の掌から独りでに浮かび上がった。

「妾を呼ぶか。恐らくは栞遠の仕業じゃろうな」

 今日の昼頃に会った巫女の栞遠であれば、この程度の事は出来てもおかしくは無いだろう。そう瑠華が考えている間にもヒトガタはフワフワと宙を泳ぎ、瑠華を誘うように動いていた。

「日が昇る頃には終われば良いが…」

 呼ばれた以上、瑠華としては断る理由は無い。だが現在瑠華は修学旅行の真っ最中であり、流石に朝帰りだけは避けたかった。
 一先ず行ってみない事には始まらないと、瑠華がバルコニーの手摺りに手を掛けて乗り越えようとしたその時。

「――――瑠華ちゃん?」

「ッ!?」

 飛び出す寸前だった瑠華は、突然掛けられた声に思わずつんのめる。もう少しで翼を出そうとしていた所だったが、ギリギリで堪える事が出来たのは幸いだっただろうか。
 瑠華が手摺りから手を下ろして振り返れば、布団から上半身を起こしてこちらを見る奏と目が合う。

「何処行くの?」

「少しな。日の出までには戻るつもりじゃ」

「……ついて行っちゃ、だめ?」

「駄目じゃ。何があるか分からんでの」

 自身の事を心配する奏の気持ちは分からないではない。だが瑠華をわざわざ呼ぶ程の事態だ。連れて行くのは流石に無しだった。

「明日は自由行動じゃろう。しかと休むようにのぅ」

「……早く帰ってきてね? 流石に先生相手に誤魔化すのは無理だし」

「分かっておるよ」

 眉を下げてこちらを見送るように手を振る奏に瑠華からも手を振り、今度こそ手摺りを乗り越える。

(魔法で飛ぶかの)

 翼で飛んだ方が楽なのだが、奏に見られるのは少し拙い。ある程度言い訳は出来るだろうが、好き好んで問い詰められたくは無い。
 とはいえ魔法で身体を浮遊させるというのもそう簡単なものではない為、自身の体重を軽くする事で屋根から屋根へと跳ねて移動していく。

「……踏み抜かぬようにせねばな」

 身体を軽くしているとはいえ、それなりの力で踏み込む事になる。瑠華の脚力であれば簡単に屋根など踏み抜いてしまえるので、何気に神経を使うのだ。

 細心の注意を払いながらピョンピョンと飛び跳ねて行き、無事に伏見稲荷大社の前まで辿り着く。昼頃の光景とは打って変わって静まり返った境内は、何処と無く不気味さを感じさせた。

「さて。何処に向かえば良いのか……」

 ヒトガタは遅すぎて置いてきてしまったので、道案内を担当するものが居なくなってしまった。元はと言えば瑠華の配慮不足であり自業自得なのだが、どうしたものかと頭を悩ませる。

「……心当たりは無い事もないが…まぁ他に行く宛ても思い当たらんし、行ってみれば分かるじゃろ」

 ここを訪れた時に瑠華が違和感を感じた場所。そこくらいしか呼ばれる原因に心当たりが無かったので、一先ずはそちらへと足を運ぶ事に。
 するとどうやらその予想は当たっていたらしく、千本鳥居の前に人影が二つ見えてきた。

「あっ…! ほら、お越し頂きましたよ」

「うぅ…や、やっぱり無理ぃ…」
  
「今更何を仰っているのですか」

 瑠華の姿を認めた栞遠が傍らに立つ人影に声を掛ける。だがその人影は随分と情けない声を上げて、栞遠の後ろへと隠れてしまった。その様子に瑠華が何事かと小首を傾げながらも、取り敢えず近付いてみる。

「やはり栞遠じゃったか。しかし其方の女子おなごは一体…」

 そう言って瑠華が栞遠の後ろに居る存在に目線を向ける。そこに居たのは背丈が瑠華よりも低くく、この場にそぐわぬ程幼い女児の姿で。

「えぇっと…先ずは来て頂き感謝申し上げます。こちらの方は…」

「…お、お初にお目にかかります…い、稲荷と申しますぅ…」

 未だ栞遠の影に隠れたままではあるが、酷く怯えた様子で頭を下げる。その瞬間瑠華の目が捉えたのは、頭の上で揺れ動く三角の耳。

「…成程、一柱か。しかしそれにしては……」

「その、このお方は最近代替わりをなさいましたので」

「それはまた珍しいのぅ?」

「げ、厳密には生まれ変わりといいますか…尾が九つになると、また戻るを繰り返すのです…」

 それを示すかのように、身体の横からゆらりと鮮やかな狐色をした尻尾が三本現れる。それで漸く合点がいったとばかりに瑠華が頷いた。

私は三百年程しか経っておりませんので…」

「三百年は確かに若いのぅ」

「……お二人の会話が噛み合っているのが少し怖いですが…瑠華様。失礼を承知でお願いしたい事がございます」

 改まった様子で栞遠が姿勢を正し、真っ直ぐと瑠華を見詰める。

「異界の侵食を食い止めて頂きたいのです」

「異界…ダンジョンの事か」

「はい。その兆候を稲荷神様が感じ取られたので」

 ダンジョンの生成条件は様々あるが、厳密には解明されていない。だが生成される兆候として、周囲の魔力の濃度が上昇する事がある。それに加え自らの領域に異物が紛れ込もうとしている事に、主が気付かぬ道理も無いだろう。

(昼の違和感はこれじゃったか)

 神社の境内は結界の影響でかなり魔力の濃度が濃い場所だ。だからこそ普段との違いを判別出来なければ、気付く事は難しいと言わざるを得ない。

「しかしダンジョンを消滅させる手段は未だ確立されておらぬ。妾に頼るというのは、それを理解しての事か?」

「何が起ころうと、覚悟はしております。神聖なこの場を穢される事こそ私共にとっては堪え難い事。多少壊れようが、それに比べれば些事でございます」

「……はぁ。誠信仰心が強い者は融通が利かんのぅ…」

 瑠華としては脅しのつもりだった。なにせ瑠華自身、ダンジョンを破壊する事の影響力を未だに理解出来ていないのだから。しかし可愛い可愛い人の子から覚悟を持って乞い願われてしまえば、断る事など出来はしない。

「で、ではお願いいたしますぅ…」

「何を言っておる。お主も行くぞ」

「…へっ!?」

 そそくさと逃げようとした稲荷神の首根っこを掴むと、有無を言わさず引き摺り始める。そんな瑠華の暴挙とも言える行動に慌てて助けを求める眼差しを栞遠の方へ向けるが、無慈悲にもニッコリ笑顔で手を振られてしまう。

 此処に味方は居ない。

 その事実を理解すると、稲荷神は力無くガクッと項垂れるのであった。





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