ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

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167話

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 一先ず客間としての役割があるダイニングまで結華さんを案内する。お客さんが来たからか皆は足早に部屋に戻ったらしくて、何も言わないでもすぐ動けるのは瑠華ちゃんの教育の賜物だなぁとしみじみ思う。
 案内したダイニングテーブルにそれぞれ着席すると、透かさず紫乃ちゃんがお茶と茶請けを用意した。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「紫乃ちゃんも折角だから一緒に聞こ。瑠華ちゃんが居ない今、ここの責任者でもあるんだから」

「…分かりました」

 というか正直私一人はやだもん。まだ完全に結華さんの事を信頼出来ている訳じゃないし。それに…なんかこの人、普通じゃなさそうだから。私より強い紫乃ちゃんが居た方が心強い。
 ……うん。前から薄々思ってたけど、普通に紫乃ちゃんって私より強いんだよね。申し訳なさそうにしながらもボッコボコにされたし。

「それで提案というのは…?」

「はい。ではまずはこちらをご覧ください」

 そう言って結華さんが手にしていた鞄から何かを取り出す。それはどうやらパンフレットのようで、差し出されたそれの表紙に目を走らせる。

「「……“探索者養成学校”?」」

 共に覗き込んだ紫乃ちゃんと思わず言葉が被る。読み上げたのは、まさにその表紙に書かれていた文言だ。

「はい。構想自体はかなり以前から存在していたものの、中々実現には至らなかった試みになります」

「それは、どうして…」

「単純に反対意見が多かったからですね。まだ幼い子供に何をさせるつもりなのかと」

「あぁ…」

 その話は私も少し聞いた事がある。この【柊】にある遊具とかのダンジョンに関わる物を、幼い子に遊ばせるべきじゃないとか言ってる人が居るって。

「それの何が問題なのですか? 身体は強くなりますし、悪い面は見当たらないと思うのですが…」

「誰もが未知のものを恐れるからだよ、紫乃ちゃん」

 それらしい根拠も無く、ただ分からないから。嫌だから。そんな理由で批判の声を上げる人は五万といる。私は寧ろ分からないから楽しいと思う派の人間だから、その考え方は理解出来ないけど。

「そういうものですか…」

「全員が全員良き理解者じゃないんだよ。でもそんな問題があったのにコレが通ったんですか?」

「完全に解決したかと問われれば難しいですが…少なくとも、反対していたダンジョン関係者と教育関係者には了承を取り付けました」

 ……そんな簡単に済ませられるものだろうか。この問題は根深いと聞くし、普通の手段だけじゃ納得なんて…と思ったのが顔に出ていたのか、結華さんがニッコリと微笑んだ。あ、これ聞かない方が良いやつだと直感で悟る。

「そ、それでなんでわざわざ此処に…?」

 どうやってとかはこの際どうでもいい。一番聞きたいのは、なんでこの話を此処に持ってきたのかという事だ。

「先駆者となって頂きたいから、ですね」

「先駆者…?」

「はい。了承を取り付けたとはいえ、これは初めての試み。故に足踏みしてしまう方達も多いでしょう。だからこそ先駆者…言ってしまえば、実証してくれる人が必要なのです。そこで現状この学校の年齢層に相応しく、かつ名の売れている探索者を探していました」

「それが、私達だったと」

「はい」

 うん、筋は通ってるかな? 名の売れているというのは若干首を傾げるけど、それなりにチャンネルの登録者が増えている事を考えればそうなんだろう。

「想定している年齢層はどこなんですか?」

「枠組みとしては高校に相当する学校ですので、その辺りですね」

「高校?」

「はい。探索者の養成を目的とする学校ではありますが、何も全てそれに特化した物ではありません。今後探索者として生きていこうとする子達に、しっかりとした知識も学ばせる場でもあるのです」

 成程と頷く。確かに実力があるのなら、そういう子達も今後増えていく可能性がある。それで教育関係者を説得したのかな。それなら頷かざるを得ないかも。

「事情は把握しました。まだ少し困惑しているところもありますが…」

「いえ。今日は取り敢えずそのお話をしに伺っただけですので、後ほどじっくりと考えて頂ければ。何か質問などはございますか?」

「あー…じゃあ【八車重工業】に話を通したというのは?」

「この学校で扱う予定の備品の購入に関して。そして貴女方のスポンサー様ですので、今回こちらを伺うにあたりご挨拶をさせて頂きました」

「成程…じゃあもう一つ。この学校の入学条件は?」

「探索者資格を持っている事だけです」

 それなら…とつい紫乃ちゃんの方へ視線を向けてしまう。紫乃ちゃんは探索者資格を持っていないけれど、獲得する事自体は簡単な筈。前々から折角なら紫乃ちゃんも学校というものを経験して欲しいと思っていたから、これは絶好の機会かもしれない。

「入学金に関してもダンジョン協会から支援がありますので、基本誰でも入学出来ると思って頂ければ」

「中々大盤振る舞いというか…」

「ダンジョン協会が元々進めていたプロジェクトになりますからね。若い探索者の死亡率を下げられるのであれば、協力は惜しまないと」

「………」

 普段あんまり考えないようにしていたけれど、やっぱりダンジョンに潜って死んでしまう人はいない訳じゃない。私の場合は瑠華ちゃんっていう絶対的な保護者が居たから無縁だっただけだ。もし居なかったらと思うとゾッとする。

「他に質問などはありませんか?」

「特には…」

 今のところ聞きたかった事は凡そ聞けた。後は瑠華ちゃんに相談すれば―――と思ったところで、丁度玄関の扉が開いた音がした。どうやら瑠華ちゃんが帰ってきたみたい。

「奏? 誰か来ておるのか?」

 玄関に見慣れない靴があったからか、そう疑問を口に出しながら瑠華ちゃんがダイニングの方へと姿を現す。そして結華さんを視界に収めると、合点がいったとばかりに頷いた。

「成程。であれば丁度良かったやもしれんな」

「どゆこと?」

「ほれ」

 瑠華ちゃんが肩にかけたトートバッグから何かを取り出して私の前へと掲げる。それは所謂、探索者証明書と呼ばれる書類だった。

「これが必要なのじゃろう?」

「……なんで?」

 なんでそんな用意出来るの? 探索者証明書って滅多な事じゃ使わないから、偶然なんて有り得ないよね?

「何となく必要になりそうだったのでな」

「えぇ…」

「流石瑠華様ですね…」

 瑠華ちゃんってやっぱり未来予知出来るんじゃないかな…。







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