ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
166 / 197

166話

しおりを挟む
 スマホに保存された写真を眺め、またつい顔がニヤけてしまうのを自覚する。普通は学校側が写真を撮る人を雇うものだけれど、その点ウチの学校はスマホの所持が認められているお陰で自由に写真が撮れるんだ。

「かな姉またやらしい顔してる」

「やらしいって…」

 トテトテと凪沙が近付いてきたと思えば、とんでもない事を口走る。ただニヤけてただけじゃん……。

「私も行きたかった」

「いや流石にそれは無理でしょ」

 普通の旅行とは違って、修学旅行は学校行事だ。流石に学年の違う凪沙も共に行く事は出来ない。

「むぅ…じゃあ写真くらい私にも見せて」

「勿論良いよ。おいで」

 凪沙が私に対して嫉妬しているのは分かるけれど、それもまた可愛いと思う。歳は近いとはいえ、やっぱり凪沙は私の妹だから。

 ソファーに坐る私の隣りにいそいそと腰掛けると、私が持っていたスマホの画面を覗き込む。今見ていたのは瑠華ちゃんの着物姿だったから、凪沙が驚いて目を見開いたのが分かった。

「着物…?」

「うん。ちょっと機会に恵まれてね」

 本来の日程には無かったものだから、ほんとに幸運だったと思う。瑠華ちゃんの着物姿なんて、今後いつ見れるか分かんないからね。

 二人で一緒に覗き込むにはスマホの画面は少し小さいけれど、肩を寄せ合って見るのもそれはそれで楽しいし嬉しい。今の様子からは考えられないくらい、昔は私や瑠華ちゃんにベッタリな甘えん坊だったからね。

「瑠華お姉ちゃんも写真撮ってたの?」

「どうだろ…瑠華ちゃんがスマホを外で取り出すのって結構珍しいし」

 それを聞こうにも、今瑠華ちゃんはお出掛け中だ。なんでも役所に提出する書類を持っていくらしい。時間が掛かるだろうから、好きにご飯は食べておいてとは言われている。
 瑠華ちゃんがこうして一人で出掛ける事は珍しくないし、皆大事な事だって分かってるから駄々を捏ねる事は無い。寂しがりはするけど。

「紫乃ちゃん、今日のご飯なぁに?」

「今日は……アジの南蛮漬けですね。瑠華様が朝仕込んでいましたので、直ぐに出来ますよ」

「抜かりない瑠華ちゃんだ…」

 私の言葉に紫乃がクスクスと笑って、「瑠華様らしいですね」と呟いたのに私も頷く。瑠華ちゃんって他人の思考を読む事が出来るっぽいし、実際未来予知とかもしようと思えば出来ちゃいそう。

「瑠華お姉ちゃんいつ帰ってくる?」

「うーん…多分その時に連絡があると思うけど」

 噂をすればなんとやらで、ピコンと私のスマホに瑠華ちゃんからの連絡が届いた。メッセージ内容を開けば、予想通りそろそろ帰るの文字が。

「今からなら夜ご飯には間に合うかな?」

「待ちますか?」

「そうしようかな。ちょっとくらいなら皆も待てるでしょ?」

 瑠華ちゃんが遅くに一人で食べるのは今に始まった事じゃないけれど、どうせなら皆で囲んで食べたい。というかそうしないと瑠華ちゃんがちゃんと食べてるか心配になる。昔瑠華ちゃん、節約の為とか言って食事抜いてたからね……。
 しっかり者で頼りになる瑠華ちゃんだけど、そういう所はズボラというか雑になる。それも皆には隠すから尚更タチが悪い。茜に泣き落としでもさせてみようか……。

「おや……?」

「ん? どうしたの?」

「…誰かが来たみたいです」

 紫乃ちゃんが何処か固い声でそう言った次の瞬間、滅多に鳴る事がないインターホンが鳴り響いた。基本的に宅配がある日は瑠華ちゃんから連絡があるから、これは宅配じゃない。

「誰だろ?」

「少なくとも私は知らない魔力です…」

「魔力で分かるの?」

「一応は分かります。特にこの場所は瑠華様の影響が強いので、魔力などは感知しやすいのです」

「へぇ…」

 瑠華ちゃんは多分当たり前に出来るんだろうね。私の場合自分のは結構分かるけど、他人の魔力は全然分かんない。

「取り敢えず対応してきますね。ここが分かる時点で害は無いはずですし」

「そだね」

 滅多に使われることの無いインターホンだけど、ちゃんとカメラ付きの良いやつだ。だから紫乃ちゃんが壁に取り付けられたモニターを覗き込みに行ったのだけれど……なんか困ったような表情で私を見てきた。

「全く知らない女性です…」

「怪しそう?」

「怪しいかどうかは分かりかねますが…身なりは綺麗です」

 話を聞くだけじゃなんとも言えないので、私も紫乃ちゃんの方へと近付きモニターを覗き込む。そこには、少し不安そうにソワソワした様子の女性の姿があった。スーツを着こなした大人の女性で、怪しいという定義には当てはまらなそうだけど……

(……なんか、見た事あるというか)

 実際には多分見た事は無いんだろう。でも何処か既視感の様なものを感じる人だった。兎も角これ以上何も返答しないまま待たせる訳にはいかないので、ボタンを押してマイクをオンにする。

「ど、どちら様ですか…?」

『っ! 始めまして。わたくし阿賀崎あがさき結華と申します。本日は少しご提案したい事がございまして、お伺いさせて頂きました』

 人の良さそうな笑みを浮かべて、その人…結華さんはスラスラと淀みなく答えた。提案したい事とはいってもその内容はまるで分からないし、明らかに怪しい。でも一言も答えない私に不信感を抱かれている事に気付いたのか、続けて結華さんが口を開く。

『既に【八車重工業】様とは話を通してありますので、ご心配でしたらそちらに確認頂ければ分かるかと』

「っ!?」

 まさかそっちの方面から繋げてくるとは思わず、つい目を見開いてしまう。でももしそれで確認が取れたのなら、結華さんの言葉には信憑性が大いに増す事になる。

「…ちょっと、待ってください」

『はい』

 一言断りを入れて、慌ててスマホからしずちゃんに連絡を取る。

『しずちゃん、結華さんって人が突然訪ねてきたんだけど、知ってる?』

『あら、もう行ったんだ。知ってるよー。安心していい人だから大丈夫』

 数分と待たず返信が来て、結華さんの言葉が紛れもない真実だと知る。本当はもっと色々聞きたいけれど、結華さんをいつまでも外で待たせる訳にはいかないから取り敢えずそこで切る。

「…確認、出来ました。どうぞ」

『有難うございます!』

 パァッ! って言葉が似合う程に嬉しそうな笑みを浮かべ、結華さんが画面外へと消える。すぐ近くの窓から外を見れば、正面の門を開けて入ってくる姿が見えた。

「よろしいのですか?」

「まぁしずちゃんは知ってる人みたいだし、それにここを認識して入れる以上、瑠華ちゃんも知ってる人って事だから」

「…そうですね。では私はお迎えする準備をしてきますね」

「お願いね」

 パタパタとキッチンへ紫乃ちゃんの背中を見送り、ふぅ…と一つ息を吐く。こんな時こそ瑠華ちゃんが居てくれたらって思うけど、居ないものは仕方が無い。意を決して玄関まで向かい、その扉を開く。するとそのすぐ前に立っていた結華さんが私にお辞儀をしてきた。どうやらこちらが開けるまで律儀に待っていたらしい。

「ど、どうぞ…」

「お邪魔させていただきます」

 慣れないながらも中へと案内すれば、結華さんが何かを探すようにしてこっそり視線をキョロキョロと彷徨わせたのが分かった。

「…瑠華ちゃんなら、まだ帰ってません」

「ッ!? あ、えと…もしかして知って…?」

「結華さんと瑠華ちゃんの関係は知りません。でもそういう人が探すのは大抵瑠華ちゃんなので」

「そ、そうなの…」

「?」

 なんだろ。結華さんが何処と無く嬉しそうな表情を浮かべたような……?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...