中年無職、異世界で「彼女」になる ～人生再起動の物語～

異世界転生する

目を覚ますと、そこは鬱蒼とした森の中だった。見上げる空は、木々の葉に覆われて、ただ緑の光がまだらに差し込んでいる。鳥のさえずりも、風の音さえも、どこか異質に聞こえる。

「……あれ？」

自分の喉から出た声に、まず驚いた。透き通った、しかしどこか甘やかな響き。それは、かつて自分が使っていた、くぐもった中年男性の声では断じてなかった。

さらに違和感は続く。身体を動かそうとした瞬間、自分の手足が、あまりにも細く、しなやかであることに気づく。まるで、細い枝のように。

「うそだろ……？」

混乱しながらも、状況を理解しようとする。最後に覚えているのは、いつものようにスマホを片手に、夜道を歩いていたこと。そして、突然現れたトラックのヘッドライト。

（まさか……これがあの、異世界転生ってやつか？ しかも、俺が？）

身体を起こそうとした時、胃がきゅうっと奇妙な音を立てた。

「……腹、減った……」

それまで感じていた恐怖や混乱を吹き飛ばすかのように、強烈な空腹感が全身を襲う。異性への転生という驚愕の事実よりも、まず「飯はどこだ」と本能が叫んでいる。