中年無職、異世界で「彼女」になる ~人生再起動の物語~

hnk

文字の大きさ
2 / 2

飯を探して

しおりを挟む
「……飯、飯だな、まずは」

この状況で最も切実な問題は、紛れもなく「空腹」だった。異世界転生? 女性への転生? そんなことよりも、胃袋の訴えは深刻だ。46年間、何度経験しても慣れることのない、あの飢餓感。

彼女は、細くしなやかな手で、まだ少しふらつく身体を支えながら、あたりを見回した。木々の間からは、未知の植物が青々と茂っている。中には、見たこともないような鮮やかな実をつけたものもある。

「さて、どれが食えるんだ、これ」

かつて、スマホゲームのサバイバルシミュレーションで、食料調達に四苦八苦した経験が、ほんの少しだけ役に立つかもしれない。しかし、現実はゲームとは違う。毒があったら、すぐにゲームオーバーどころか、本当の終わりだ。

恐る恐る、近くに生えている、ひときわ大きな葉を持つ植物に近づいてみる。葉には露が宿り、キラキラと輝いている。

「……まずは、水か?」

そう思い、葉の露を指で掬い、そっと舐めてみる。ほんのりと甘く、澄んだ味が口の中に広がる。うん、これは大丈夫そうだ。喉の渇きが少し癒される。

次に、地面に落ちている、赤くて丸い実を拾い上げた。ゲームでよく見る「ベリー」のような形状だ。だが、これも油断は禁物。

「……匂いは、悪くない」

腐敗臭や、不快な刺激臭はない。意を決して、その実を一口かじってみる。

「……ん?」

酸味と甘みが混じり合った、爽やかな味。食感は少し固いが、確かに食べられるものだ。

「よし、これは食える!」

彼女は、その実をいくつか摘み、口に頬張る。意外にも、空腹が少しだけ満たされていくのを感じた。

「ふぅ……。なんとかなるか、この世界」

とりあえず、飢えをしのぐ目処が立った。しかし、森はまだまだ広大だ。この先、一体何が待ち受けているのだろうか。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】アル中の俺、転生して断酒したのに毒杯を賜る

堀 和三盆
ファンタジー
 前世、俺はいわゆるアル中だった。色んな言い訳はあるが、ただ単に俺の心が弱かった。酒に逃げた。朝も昼も夜も酒を飲み、周囲や家族に迷惑をかけた。だから。転生した俺は決意した。今世では決して酒は飲まない、と。  それなのに、まさか無実の罪で毒杯を賜るなんて。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

処理中です...