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プロローグ 失せモノ探しのジル

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ポインター系雑種のジルは庭のあちこちを掘っていた。

 (おかしい。絶対にこの変に埋めたはずなのよ!)

なんで無いのよーーーー!!!
「ウォーーーーン!!!」

「ジル、うるさい!」

男の怒鳴り声とピシャッと窓が閉まる音がした。

ジルは首をすくめて小屋に入った。

※※※

ここはとあるマンションの5階。

昨日からずっと雨がしとしと降っている。出窓には外をじっと見る大柄な黒猫が座っている。

カサカカサ
エアコン付近から音がする。

黒猫いちごの眼が金色に光った。

全身の毛が逆立ち、血沸き肉躍るような衝動が身体を貫く
「鼠だ!!!!んにゃ―――ッ!」

ダダダダダーッ!バンッバシッ!
(ご勘弁!いちごさん!俺ですよ俺!竜眼(りゅうがん)!)

「ねずみ!ねずみ!フ―ッ!!!!」

(だめだ、やられる!)

ざくろが鏡台にある小さな陶器製のアクセサリー入れの蓋を前足でチョイチョイとずらしてくれたのを見て竜眼はそこに飛び込んだ。

「いちご!落ち着いて。竜眼なんか食べたらお腹に虫沸くわよ。」
ざくろはアクセサリーケースを守るようにくるりと尾を巻き付けた。

「フーッフーッ!」
いちごの眼の輝きはまだ消えず、頭のテッペンと尾の先っぽの毛が逆立っている。
アクセサリーケースから声がした。

(ざくろさん、いちごさん、依頼でさア)

「え~。竜眼の依頼ってぼくたちのメリットがないんだよな~」

ポポーに依頼するためにはそれなりの報酬を払う必要があるらしく、小さな依頼はめったにない。

ざくろといちごがポポーから得る報酬は高級猫缶一つと機動力、手足となって動いてくれる「兵隊」である。

依頼主は、一回の依頼につき高級猫缶一つと、かならず一回はざくろたちの頼みを問答無用でひき受けなければならない。

かたや竜眼が持ち込む依頼は概して日常のささいな「困りごと」であって、依頼者も普通の動物たちである。

報酬が全く無いときもある。いちごが嫌な顔をするのも無理はない。
しかしざくろは竜眼が持ち込む依頼を通じて外とつながることを楽しんでおり、報酬がない依頼をこなすために例の「機動力」を使うこともある。

「さて竜眼、今日の依頼はなんなの?」

ざくろが問うとアクセサリーケースに入ったままで竜眼は話し始めた。
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