【書籍化決定/完結】カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子

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第四章

23 ダメ出し祭り

 
 桐山に着いて教会の裏手から出て、花々が咲き誇るガーデンを歩いて行く。それほど広くはないガーデンだが、中央には東屋や小さな池も造られており、植物も綺麗に剪定されていてよく手入れされているのが分かる。

 ガーデン隅の木々が覆い茂った場所で、ようやく桐山が立ち止まった。くるりと振り返るなり、切り付けるような口調で言う。


「単刀直入に言うわ。藍人さんから離れて」


 何となく予想はついていたが、やっぱりか、と思ってため息が漏れそうになった。保が困り果てて眉尻を下げていると、桐山は噛み付くように言葉を続けた。


「あなた程度のオメガが藍人さんの傍にいるだけで、彼の格が下がるって分からないの? 撮影現場にまで追いかけてきて、本ッ当に図々しい。周りから痛いものを見る目で見られているのにも気付かないなんて、少しは恥を知りなさいよ」


 遠慮のない暴言が突き付けられる。だが、保は黙ったまま反論を返さなかった。悪口を言われているというよりも、何だか子供の駄々をぶつけられているような気分だった。

 保が黙っているのをいいことに、桐山が愚かな子供を諭すような口調で続ける。


「あなたみたいな可愛くも美人でもないオメガが、相手を見つけようとして必死になってるのは理解できるけど、それでも分相応ってものを弁(わきま)えた方がいいわ。藍人さんみたいな最上級のアルファと番(つが)うことなんて、自分でも有り得ない分かってるでしょう? 藍人さんだって『あなたみたいなオメガに付きまとわれて迷惑してる』って言ってたわ」
「藍人さんが?」


 思わず驚きの声が漏れていた。途端、桐山が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「そうよ。あんなオメガに執着されて困ってるって言ってたもの」
「それは流石に無理があるでしょう」


 とっさに本音が零れる。

 むしろ保の方が、藍人に執着されて付きまとわれまくっている立場なのだ。今日だって半ば無理やりここに連れて来られたようなものだし、毎朝頼んでもいないモーニングコールまでしてくる始末なのに、そのくせ『迷惑だ』とか『困ってる』とか本気で言ってるとしたら真剣に二重人格を疑ってしまう。

 呆れ果てた保の返答を聞いて、桐山が一瞬だけ顔を引き攣らせる。


「何よ、私が嘘ついてるとでも言いたいの?」
「はい、大変申し訳ないんですが、嘘ですよね。俺がこういうこと言うのも何ですが、流石に人の発言を勝手に創作するのは宜しくないかと思いますが……」


 へりくだって喋りつつも、そろりと苦言を呈(てい)してみる。だが、桐山は反省する様子もなく、むしろ怒りを更に強めたように顔面を赤らめた。


「じゃあ、これを見なさいよッ! 藍人さんがあんたのことなんか相手にしてないって分かるからッ!」


 甲高い声で言いながら、桐山が自身のスマホを突き出してくる。向けられた画面を見ると、そこにはベッドに横たわる藍人と桐山の姿が映されていた。事後なのか、乱れたシーツの下にいる二人が裸なのが分かる。

 だが、それを見て、保はますます困惑してしまった。眉尻を下げる保を見て、桐山がハッと鼻で笑う。


「分かったでしょう? 私と藍人さんはこういう関係なの」
「……あのぉ、何度もすいません……これ合成ですよね?」


 どう言葉にしていいか分からず、保は片手で額を押さえながら渋々声をあげた。何というか、素人マジシャンの前でマジックの種を暴いているような気まずさがある。

 保の指摘に対して、桐山はいきり立ったように肩をいからせた。


「はぁ!? 合成じゃないわよ!」
「いえ、合成です。カメラマンって編集作業もやるんですよ。だから、質の悪い合成はすぐに分かります。というか、たぶんこれ別の男性の頭だけ、藍人さんの頭にすげ替えてますよね? 首の太さが本人と全然違いますし、顔と首の境目をちゃんとボカしてないから肌の色にも境界線が出来てるじゃないですか。そもそも、藍人さんの腕や足にこんな汚いムダ毛は生えていません」


 つい職業病が出て、普通にダメ出しを始めてしまった。合成するならもっと真面目にしろ、とばかりに画面を一つ一つ指さしながら指摘していく。


「背景との調整もちゃんとしてないから、頭だけ生首みたいに浮いている感じがするし……というか、藍人さんの足の長さを考えてますか? この人、絶対に身長百七十センチぐらいしかないでしょう。後十センチは足を伸ばさないと身体の比率がおかしいことに――」
「もういいッ!」


 一から百まで説明しようとする保に、とうとう我慢の限界を迎えたように桐山が大声で叫ぶ。

 フーッフーッと威嚇する猫みたいに荒い息をつく桐山を見て、とっさに『しまった』と思った。なだめるどころか、思いっきり地雷を踏みまくってしまったみたいだ。


「なんなのッ! なんなのよ、あんたッ!」
「何なの、と言われましても……T局カメラマンの芦名です。お世話になっております」
「うるさい! そんなのじゃなくて、あんたが藍人さんの何なのかって聞いてんのよッ!」


 金切り声で叫ばれた言葉に、保はわずかに息を呑んだ。自分が藍人の何なのか、そんなのは保自身が一番知りたいことだ。


「……藍人さんとは、友人ですが」


 当たり障りのない返答をすると、桐山は嘲るように鼻を鳴らした。


「そんなわけないじゃない。アルファとオメガが友人なんかになるわけがない」
「それは偏見じゃないですか」
「ライオンとウサギを同じ檻に入れて、仲良くできると思うの?」


 小馬鹿にするような口調で、桐山が言う。その言葉に、保はグッと咽喉を詰まらせた。


「そもそも……なんで、俺をオメガだって……」


 保には一般的なオメガのような愛らしさもないし、フェロモンだってほとんど漏れていないはずだ。それなのに、なぜ桐山は保がオメガだと気付いたのか。

 途切れた保の台詞を聞くと、桐山はひどく憎々しげに顔を歪めた。保から視線を逸らしたまま、吐き捨てるように呟く。


「あんたじゃない。藍人さんを見てたら、分かる」


 そう囁く桐山の瞳に、憎悪とは違う恋慕の色がわずかに滲む。それを見て、分かった。桐山は、真剣に藍人が好きなのだ。藍人が好きで好きで堪らなくて、だからこそ保が憎くて仕方ないのだ。
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