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独立国家郡ペラルゴン

第7話 メンタルは強化できません その2

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基本的にシズキの戦い方というのは結構単純だ
もちろん魔法が使える場面であれば魔法を使うが他人の前では基本使わない
故に戦い方は基本剣や刀だ
一応ステータスとして剣術なるものがあるがこの世界のそれはあまりにも不安定且つ不確定要素しかない
この世界は神がいるにも関わらず全てが曖昧なのだ
つまり意味がほぼない
それでも学園にいた三年間一応授業として剣を習ったので基礎はできる
元々志筑介だった頃から体を動かすのは得意であり、中でも自分の身体を思い通り動かすという点では天才的であった
だが剣を習ったと言っても三年程度
そして一日に数時間教科としてなのでその道に人生を捧げた者には到底敵わない


そういう時はどう戦うか
不特定多数の人に見られてる中剣術の高みにいるものや、上位魔物などと戦う時、実はやることはあまり変わらない


単純に相手の攻撃を受けながら攻撃する
ただそれだけだ


シズキが得た人外の身体能力の副産物として異様なまでの体の丈夫さがある
生半可な攻撃ではシズキに傷は一切つかない
ただ大体の戦闘は一定の技術と人外のパワーがあればそれで片がつくのだが
事実余程のわざがない限りシズキの剣を止めるのは至難の業だ
柔よく剛を制すとは言ったものの限度があるということ
つまり鍔迫り合いになった瞬間基本負けということである
シズキが力を込めて振った剣を受ければ、それを受けた剣や杖などは折れたりひしゃげたりしてしまう
理不尽この上ない
だが世界はファンタジー
化け物じみたわざを持つ生き物は結構いる
その場合は先程言った通り相手の攻撃を受けながらカウンターをするだけだ
しかしこの方法は服がダメになるからあまりしたくないらしい


故に対人最強


だが今回は趣旨が違う
夜の人通りの少ない場所での対複数人戦闘
もちろん魔法スキル全部完全解禁
とはいかないまでも目立たないものは使う方針でいこう


路地の男に跨って座る少年の前にかなりの大男四名
結構な絵面だ


「なんなみんなデカすぎね?」
前から思ってはいたがこの世界みんな発育が良すぎる気がする
平均身長180とかありそう
まあ負けるつもりは毛頭ないが


「おい少年、その男を渡してもらおう
さもなくば少々痛い目を見てもらう
私達も子供を痛めつけるのは本望ではない」


は?何言ってんのこいつ
あまりにも変なことを言うもんだからついつい笑ってしまった
「ふふっ
いやいやおかしくない?
子供を大量に殺してるやつだよ?
そんな奴を守ろうとしてる奴が子供を痛めつけたくないって?」


「いや少年よ
それを知っているということはココシェクラのところのものか」


お、ココさんのフルネーム久しぶりに聞いた


「違うのだ少年
我々もそいつを処理するつもりなのだ」


ちゃんと子供扱いせずに相手の言い分を無下にする訳でもなくて諭そうとしている
多分この人真面目なんだろなぁ
僕に対しての変な感情はなさそうだし


「だったらさ、せめて被害者遺族の復讐の糧になってもらうってのはどうかな?
確かに人道から外れてるけどそれはあなた達含め僕らが口を出せることじゃないでしょ」


突然後ろから気配を消した男がダガー?のようなものを僕の心臓目掛けて突き刺そうと凄まじい速度で突進してきた
先っぽは少し背中に当たったがその手を掴みそのまま男達のいる方へなげる
せっかくだから授業料を頂いていこう
僕の夢想の力はなにも魔法を生み出す力じゃない
夢想したことを現実にする力なのだ
考えたこと何でもかんでも現実になったら世界が崩壊しちゃうから普段はいくらかの段階を踏んで抑えている
今回夢想したことは


『僕が今手を握った人の、肩関節の周りがまるでゼリーのようだったら』


ちゃんと効果範囲を狭めてないと世界中で肩関節の周りがゼリーになる人が出てきちゃう
なので一瞬だけ『夢想力』力の段階を解放してすぐに戻す
もちろんゼリーなんて引っ張ったらすぐに崩れる
叩きつけた瞬間男の腕は僕の手の中に残ったまま向こう側に転がった


「ココさんからちょっと痛い目見せといてって言われたのと、相手の力量を計らず、しかも人と話してるとこに乱入したことへの授業料だと思ってくださいね」
男は蹲りながら
「腕が!俺の腕が!」
と叫んでいる


「こういうことが続くと僕の仕事が増えるんですよ
今日はちょっと精神的に疲れたので話し合いは止めましょう
僕にとっても不本意ではありますが
しかし僕に下された仕事はこの男を追ってきたものたちに痛い目を見せるということ
申し訳ないですが皆さんをそのままで返すわけにはいかんのです
どうせここにいるみんな綺麗な人間じゃないんですから話し合いなんて無駄でしょう」
無駄ではないとは分かっている
恐らくこの人はこの変態に対して非常に憎悪に似た何かを持っているのは確かだ
最初から僕ではなくこの変態に対してどす黒い感情を向け続けている
でも今日に関しては申し訳ないけど無理だ
色々見てしまったせいでいつになく不安定な精神
いつもこういうときはとにかく思ったことを口に出すことにしているが今日はそれですらちょっと不安定だ
自分でも何を言っているかが分からなくなりそう
とにかくダメなのだ


ごめんね
仮面を被るのは得意だろ?
さて、仕事だ


「そう……なのか」


「そんな可哀想なものを見る目で見ないでくださいよ
それの方がこっちとしては傷つきますよ」


「それは…済まない」


Alla veloċità神速


速さは重さ
後ろからきたバカは抜いて前の四人のうち一番強いであろう男の目の前に得物を構えながら移動する
多分だけど身体から流れる魔力量からして魔法が使える素質を持っている
どう頑張っても魔法使いの身体強化は凄まじく、そうでない者とは一線を画す
はっきり言ってこの世界で魔法使いとそれ以外は正直できることの範囲が違いすぎる
別の生き物と言っても過言ではない
だから最初に潰す


Shadow xafra影の刃
今回使うのは両手剣
さっき見たダガーを少し大きくした感じのやつ
こだわりは特にない
ただやろうと思ってることに両手剣がピッタリなだけだ


移動した際のエネルギーをそのまま乗せるために両手剣を大きく振りかぶる


「せーのっ!!」
そのまま肩口から刃が入り腋へと抜けていく
男は反応こそできたものの対処はできなかった


ボトっと両腕が大量の血と共に落ちる音が響く


実は両手剣はこのように振りかぶる武器ではない
隙も大きいし単純に労力と結果が伴わないからだ
本当の使い方は腕で振るのではなく腰を回して小手先で戦う
道具を使うスポーツと同じである
俗に言う手打ちはものにはしやすいが肩や肘を痛めやすい
さらに重量のある剣なら尚更だ
ただ運用できる膂力があればそんなに問題はない


「ちょっと最近あなた達の素行には目に余るものがあるらしい
そのことで我らがボスは大変お怒りです
なので今からここにいる全員の何かを奪います
この男のように」


さあ笑顔だ笑顔
人間表情を作ることでいくらか精神を支配できる
こういうときこそしっかり笑うんだ


「皆さん闘いはお好きでしょ?」
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