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Ⅰ
1.卯月ちゃん
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盆暮れ正月の休みはいいから金曜の午後休と土曜の全休だけくれ!
そんな契約で働いて、早五年が経とうとしている。
勤務先は地元の大型ショッピングセンターに入っている雑貨屋だ。
キャンディみたいな形の石鹸が有名でギフトに使う客が多い。
こう言っちゃなんだが季節イベントのたびに新商品が出るので、秋冬は本気で地獄だ。
ハロウィンからのクリスマスからの初売りからのバレンタイン……。
ようやくひと段落した感があるが、来月にはホワイトデーが控えていると思うと何も安心できない。
この仕事に就いてから季節イベントの類には胸焼けして、個人で祝いたい気分が無くなった。
ショッピングセンター自体、駐車場の広さだけなら県内最大級とか言われている。
俺はその県内から出ることもそうないので、真偽のほどは不明だが、確かに広いは広い。
だいたい田んぼ三十枚くらいじゃなかろうか。
だからショッピングセンター内にある高級スーパーで両手いっぱいに買い物をして、中古の軽ワゴンに辿り着く頃には、もう寒さで手がすっかりかじかんでいた。
エンジンをかけて、ヒーターが効いてくるまで、軽く一服する。
朝から放射冷却が続いている。薄く開けた窓から見える空は高く、青い。
寒いのは嫌いだが、平日の昼間に青い空を見ながらタバコを吸えるのは良かった。
店頭で一日中うさんくさい微笑を浮かべていなければならないのは苦行である。
いや、仕事は別に嫌いではない。
ハンドメイドが売りの店だ。客が選んだ商品を好みに合わせて手包装している。
熱湯かければ一瞬で溶けるような石鹸だの入浴剤だのを、見栄えよく丁寧にラッピングする。
よく考えればかなり愚かな行為なわけだが、そこにある種の尊さを感じていた。
贈る相手に少しでも喜んでほしいという客の気持ちに触れられるのが、なんだか嬉しい。
子供が喜ぶキラキラしたグリッター包装紙、女ウケするナチュラル系クラフト紙、和柄のリボンなど、カスタマイズも色々ある。そのぶん包み方も多い。
技量を求められるスタッフは、脳がパンクしそうだが、なんだかんだ楽しい職場だ。
少しずつヒーターが効いてくると、今度はフロントガラスが曇ってきた。
やれやれと窓を大きく開けて、羽織っていたボアコートを脱ぐ。
ひと月前に同じフロアに入っている服屋で、付き合いがてら買った一着だ。
正月セールの上に、テナント割引も効いた。それでもブランドものなので高いは高い。
『メンズでこーいうのなかなか無いっ。卯月さんくらい似合う人もそういないっ』
妹と年の変わらなそうな女性スタッフからそう売り込まれ、つい財布の紐が緩んだ。
この白うさぎみたいなモフモフのコートが俺のようなチビのオッサンに果たして似合うかどうかはともかく、温かくはあった。
肌ざわりも良いし、中綿の起毛で、腰まで隠れる。意外とお買い得だったのかもしれん。
ついでに靴も脱ぎ捨てて車窓から顔を出すようにして紫煙をくゆらせた。
ふとサイドミラーに横顔が映る。
髪が伸びたな、と思う。
後ろで縛ってごまかしているが、そろそろ切りたい。
地毛が明るい茶色で、染めずとも垢抜けて見えるのは助かっているが。
いやもう、いっそ伸ばすか。
職場は本拠地をイギリスに置くゲイフレンドリーな店だ。
制服もシンプルなエプロンで、モノトーン縛りのコーデさえ守ればタトゥーでもモヒカンでも好きにしていい。
まあ、うちの店舗に、そんな世紀末感漂うスタッフはいないが。
俺も黒シャツにグレーのカーゴパンツというラフな格好で出勤している。
とはいえ、ロン毛のアラサー男ってと思う。
いやー、我ながらムカつきますねえ。
しかしこの女顔で真面目に男の髪型をやると変にモードっぽくなってしまう。
周囲に近寄りがたい印象を与えてしまうのも考えものだ。
田舎の客商売だから、なんかもっと普通な感じでいいと思う。
ばあちゃんとかが話しかけづらいでしょうが。
目が凄い、とはよく言われる。
厚ぼったい奥二重でつい伏し目がちになってしまうのは重力の都合上もう仕方ないが、この睫毛の長さはどうしたことだと自分の顔ながら呆れる。
おまけに愁眉というのか太い眉尻が垂れている。
うさぎのようなへの字口も相まって、なにか物欲しげな表情に見えてしまうらしい。
常連客の女子高生に言わせれば『エロい顔』だそうだ。
誉め言葉のつもりかもしれないが、この人相に苦労させられてきた身としては、なかなか胸にクる評価だった。
ヤンキーにガンつけたとかつけないとか、色目を使ったとか使ってないとか、この治安の悪い地元でいろいろと言われてきたのだ。
そんな契約で働いて、早五年が経とうとしている。
勤務先は地元の大型ショッピングセンターに入っている雑貨屋だ。
キャンディみたいな形の石鹸が有名でギフトに使う客が多い。
こう言っちゃなんだが季節イベントのたびに新商品が出るので、秋冬は本気で地獄だ。
ハロウィンからのクリスマスからの初売りからのバレンタイン……。
ようやくひと段落した感があるが、来月にはホワイトデーが控えていると思うと何も安心できない。
この仕事に就いてから季節イベントの類には胸焼けして、個人で祝いたい気分が無くなった。
ショッピングセンター自体、駐車場の広さだけなら県内最大級とか言われている。
俺はその県内から出ることもそうないので、真偽のほどは不明だが、確かに広いは広い。
だいたい田んぼ三十枚くらいじゃなかろうか。
だからショッピングセンター内にある高級スーパーで両手いっぱいに買い物をして、中古の軽ワゴンに辿り着く頃には、もう寒さで手がすっかりかじかんでいた。
エンジンをかけて、ヒーターが効いてくるまで、軽く一服する。
朝から放射冷却が続いている。薄く開けた窓から見える空は高く、青い。
寒いのは嫌いだが、平日の昼間に青い空を見ながらタバコを吸えるのは良かった。
店頭で一日中うさんくさい微笑を浮かべていなければならないのは苦行である。
いや、仕事は別に嫌いではない。
ハンドメイドが売りの店だ。客が選んだ商品を好みに合わせて手包装している。
熱湯かければ一瞬で溶けるような石鹸だの入浴剤だのを、見栄えよく丁寧にラッピングする。
よく考えればかなり愚かな行為なわけだが、そこにある種の尊さを感じていた。
贈る相手に少しでも喜んでほしいという客の気持ちに触れられるのが、なんだか嬉しい。
子供が喜ぶキラキラしたグリッター包装紙、女ウケするナチュラル系クラフト紙、和柄のリボンなど、カスタマイズも色々ある。そのぶん包み方も多い。
技量を求められるスタッフは、脳がパンクしそうだが、なんだかんだ楽しい職場だ。
少しずつヒーターが効いてくると、今度はフロントガラスが曇ってきた。
やれやれと窓を大きく開けて、羽織っていたボアコートを脱ぐ。
ひと月前に同じフロアに入っている服屋で、付き合いがてら買った一着だ。
正月セールの上に、テナント割引も効いた。それでもブランドものなので高いは高い。
『メンズでこーいうのなかなか無いっ。卯月さんくらい似合う人もそういないっ』
妹と年の変わらなそうな女性スタッフからそう売り込まれ、つい財布の紐が緩んだ。
この白うさぎみたいなモフモフのコートが俺のようなチビのオッサンに果たして似合うかどうかはともかく、温かくはあった。
肌ざわりも良いし、中綿の起毛で、腰まで隠れる。意外とお買い得だったのかもしれん。
ついでに靴も脱ぎ捨てて車窓から顔を出すようにして紫煙をくゆらせた。
ふとサイドミラーに横顔が映る。
髪が伸びたな、と思う。
後ろで縛ってごまかしているが、そろそろ切りたい。
地毛が明るい茶色で、染めずとも垢抜けて見えるのは助かっているが。
いやもう、いっそ伸ばすか。
職場は本拠地をイギリスに置くゲイフレンドリーな店だ。
制服もシンプルなエプロンで、モノトーン縛りのコーデさえ守ればタトゥーでもモヒカンでも好きにしていい。
まあ、うちの店舗に、そんな世紀末感漂うスタッフはいないが。
俺も黒シャツにグレーのカーゴパンツというラフな格好で出勤している。
とはいえ、ロン毛のアラサー男ってと思う。
いやー、我ながらムカつきますねえ。
しかしこの女顔で真面目に男の髪型をやると変にモードっぽくなってしまう。
周囲に近寄りがたい印象を与えてしまうのも考えものだ。
田舎の客商売だから、なんかもっと普通な感じでいいと思う。
ばあちゃんとかが話しかけづらいでしょうが。
目が凄い、とはよく言われる。
厚ぼったい奥二重でつい伏し目がちになってしまうのは重力の都合上もう仕方ないが、この睫毛の長さはどうしたことだと自分の顔ながら呆れる。
おまけに愁眉というのか太い眉尻が垂れている。
うさぎのようなへの字口も相まって、なにか物欲しげな表情に見えてしまうらしい。
常連客の女子高生に言わせれば『エロい顔』だそうだ。
誉め言葉のつもりかもしれないが、この人相に苦労させられてきた身としては、なかなか胸にクる評価だった。
ヤンキーにガンつけたとかつけないとか、色目を使ったとか使ってないとか、この治安の悪い地元でいろいろと言われてきたのだ。
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