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Ⅰ
5.ど天然な彰永ちゃん
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彰永が来たのは、車の灯りでわかった。
何しろ真っ暗なので、障子ごと貫くようなハイビームで照らされるのだ。
俺は起き上がって出迎えに行った。
玄関の明かりを付け、靴箱の上に置きっぱなしの懐中電灯で庭先を照らしてやる。
彰永は駐車が下手だ。
危うく車の尻を庭石にぶつけそうになり、やれやれと手信号で誘導する。
寝起きの人間にオーライオーライやらせんな、まったく。
車を降りてくるのも遅い。
何をモタモタしてんだと近寄ってみると、スマホが無いとか抜かす。
前にもあったことなので、俺は後部座席のマットを照らしてやった。
案の定、あった。
彰永は助手席にスマホを置く癖がある。
その上、ウチまで結構飛ばして来てくれるから、仕舞いには、席の隙間をすっぽぬけて後ろに落ちてしまうんだな。
彰永は大喜びで車を降りてきた。
「すごいや。卯月ってエスパー?」
「卯月ちゃんは彰永ちゃんが心配ですよ」
「心配? なんで」
「おまえがあまりにも馬鹿すぎるからだぜ。その眼鏡は飾りですかァ?」
バッと懐中電灯で顔を照らしてやったら、オタクくんはすかさず「目がァ!」と叫んだ。
その実、別に眩しくもなさそうにげらげら笑っているのは、しばらく車内灯の中にいてまだ闇に目が慣れていないからだろう。
顔は悪くない。
切れ長の三白眼で、黒髪をオールバックにまとめている。
体格も良い。
身長もそうだが手足がすらっとしているからスーツにベージュのトレンチコートなんてコーデが決まるのだ。
同じ服装でも、俺がやると女装した就活生になってしまいそうだが。なぜ。
で、頭も別に悪くはない、はずなのだが。
「彰永って本当に仕事できんの?」
「うん!」
小学生顔負けの元気な返事が返ってきたが俺はこいつのポンコツぶりを知っているので正直、疑わしい。
でも、仕事って上司の采配次第なところがあるしな。
「……まあ、いいか。転ばないでね」
俺は肩をすくめて、玄関まで彰永の手を引いてやった。
たかだか一週間ぶりだってのに会いたかった気持ちが、会えた喜びを上回りすぎてもはや何を話せばいいかわからん。
「どうよ。仕事は忙しい?」
「うん、超楽しい」
「ふうん……」
おかしいな、俺は忙しいかどうかを聞いたと思うんだが。まったく不思議ちゃんがよ。
だがまあ、CADオペレーターという仕事に関しては、本当に楽しんでいるようだ。
確かに高校の頃からロボットアニメや特撮の類が大好きで、メカデザインがどうのという話はよくしていた。
「アレだろ。車のライトの設計」
「ランプね。電装品」
オタクくんなりにこだわりがあるらしい。
なんだろうな、若干うぜえ。
玄関に上がると、古臭い花型の天井照明を妙に嬉しそうに見上げた。
「そう、だからねえ、いい仕事だよ……」
聞いていないのにひとくさり語り始める。
「やっぱり灯りは大事だから。ヘッドランプなんて車の顔だし。俺にはセンスなんてないけど、でもデザイナーさんのポンチ絵を見ると燃えるんだよ。マジかっこいいんだ。どうにかコレを世に出したいって思う。だけど、ランプはただの飾りじゃないから、他の部品と干渉しないようになんとか調整して。樹脂製品だから金型の向きとかも問題ないか確かめてさ。それで実際に工場の人が組付けられるように図面も作って。で、みんなの頭の中にしかなかったものが現実にできるんだよ。新車のパンフレットの表紙になって、それをもう実際に街中で見かけたりなんかした日には俺はさあ」
オタク特有の早口がもう止まらない。
俺は適当な相槌を打ちながら介護のように彰永を洗面所まで連れて行った。
石鹸で手を洗わせ、グワラグワラとうがいしながら喋り続けようとする後頭部をひっぱたいて水を吐かせる。
すっかり興奮して頬を紅潮させているさまは、子供のようだ。
「眼鏡くもった」
へらへらと笑いながら眼鏡を外した顔に、俺はもう待ちきれずにキスを仕掛けた。
水で濡れていて、つめたい。
触れるだけで離れて、鼻筋をすりよせる。彰永は目を閉じて乗ってきた。
彰永の薄い唇が俺の上唇を食むから、俺は彰永の下唇をもらう。自然と吸いつきあう形になって、もっともっととしがみつくと、舌が横入りしてくる。
タバコを吸わない彰永の口の中は、砂糖みたいに甘い。
向こうからしたら、苦いのだろう。なのに俺の唾液を啜るような真似までする。
もっと口の中を犯してほしくて、俺は目を閉じたまま喘ぎを押し殺して舌を差し出す。
「卯月……卯月ぃ」
いつの間にか彰永は眼鏡を手放していた。
いかん。床に落ちている。
この木偶の坊が踏む前に拾わないと。
そう思うのにギューッと抱きしめられると、嬉しすぎてつい陶然としてしまう。
「超、会いたかった」
「……ん、うん……んっ」
俺の方が会いたかったはずなのに、そうも素直に言葉にされると、どうすればいいのかいつもわからなくなる。
何しろ真っ暗なので、障子ごと貫くようなハイビームで照らされるのだ。
俺は起き上がって出迎えに行った。
玄関の明かりを付け、靴箱の上に置きっぱなしの懐中電灯で庭先を照らしてやる。
彰永は駐車が下手だ。
危うく車の尻を庭石にぶつけそうになり、やれやれと手信号で誘導する。
寝起きの人間にオーライオーライやらせんな、まったく。
車を降りてくるのも遅い。
何をモタモタしてんだと近寄ってみると、スマホが無いとか抜かす。
前にもあったことなので、俺は後部座席のマットを照らしてやった。
案の定、あった。
彰永は助手席にスマホを置く癖がある。
その上、ウチまで結構飛ばして来てくれるから、仕舞いには、席の隙間をすっぽぬけて後ろに落ちてしまうんだな。
彰永は大喜びで車を降りてきた。
「すごいや。卯月ってエスパー?」
「卯月ちゃんは彰永ちゃんが心配ですよ」
「心配? なんで」
「おまえがあまりにも馬鹿すぎるからだぜ。その眼鏡は飾りですかァ?」
バッと懐中電灯で顔を照らしてやったら、オタクくんはすかさず「目がァ!」と叫んだ。
その実、別に眩しくもなさそうにげらげら笑っているのは、しばらく車内灯の中にいてまだ闇に目が慣れていないからだろう。
顔は悪くない。
切れ長の三白眼で、黒髪をオールバックにまとめている。
体格も良い。
身長もそうだが手足がすらっとしているからスーツにベージュのトレンチコートなんてコーデが決まるのだ。
同じ服装でも、俺がやると女装した就活生になってしまいそうだが。なぜ。
で、頭も別に悪くはない、はずなのだが。
「彰永って本当に仕事できんの?」
「うん!」
小学生顔負けの元気な返事が返ってきたが俺はこいつのポンコツぶりを知っているので正直、疑わしい。
でも、仕事って上司の采配次第なところがあるしな。
「……まあ、いいか。転ばないでね」
俺は肩をすくめて、玄関まで彰永の手を引いてやった。
たかだか一週間ぶりだってのに会いたかった気持ちが、会えた喜びを上回りすぎてもはや何を話せばいいかわからん。
「どうよ。仕事は忙しい?」
「うん、超楽しい」
「ふうん……」
おかしいな、俺は忙しいかどうかを聞いたと思うんだが。まったく不思議ちゃんがよ。
だがまあ、CADオペレーターという仕事に関しては、本当に楽しんでいるようだ。
確かに高校の頃からロボットアニメや特撮の類が大好きで、メカデザインがどうのという話はよくしていた。
「アレだろ。車のライトの設計」
「ランプね。電装品」
オタクくんなりにこだわりがあるらしい。
なんだろうな、若干うぜえ。
玄関に上がると、古臭い花型の天井照明を妙に嬉しそうに見上げた。
「そう、だからねえ、いい仕事だよ……」
聞いていないのにひとくさり語り始める。
「やっぱり灯りは大事だから。ヘッドランプなんて車の顔だし。俺にはセンスなんてないけど、でもデザイナーさんのポンチ絵を見ると燃えるんだよ。マジかっこいいんだ。どうにかコレを世に出したいって思う。だけど、ランプはただの飾りじゃないから、他の部品と干渉しないようになんとか調整して。樹脂製品だから金型の向きとかも問題ないか確かめてさ。それで実際に工場の人が組付けられるように図面も作って。で、みんなの頭の中にしかなかったものが現実にできるんだよ。新車のパンフレットの表紙になって、それをもう実際に街中で見かけたりなんかした日には俺はさあ」
オタク特有の早口がもう止まらない。
俺は適当な相槌を打ちながら介護のように彰永を洗面所まで連れて行った。
石鹸で手を洗わせ、グワラグワラとうがいしながら喋り続けようとする後頭部をひっぱたいて水を吐かせる。
すっかり興奮して頬を紅潮させているさまは、子供のようだ。
「眼鏡くもった」
へらへらと笑いながら眼鏡を外した顔に、俺はもう待ちきれずにキスを仕掛けた。
水で濡れていて、つめたい。
触れるだけで離れて、鼻筋をすりよせる。彰永は目を閉じて乗ってきた。
彰永の薄い唇が俺の上唇を食むから、俺は彰永の下唇をもらう。自然と吸いつきあう形になって、もっともっととしがみつくと、舌が横入りしてくる。
タバコを吸わない彰永の口の中は、砂糖みたいに甘い。
向こうからしたら、苦いのだろう。なのに俺の唾液を啜るような真似までする。
もっと口の中を犯してほしくて、俺は目を閉じたまま喘ぎを押し殺して舌を差し出す。
「卯月……卯月ぃ」
いつの間にか彰永は眼鏡を手放していた。
いかん。床に落ちている。
この木偶の坊が踏む前に拾わないと。
そう思うのにギューッと抱きしめられると、嬉しすぎてつい陶然としてしまう。
「超、会いたかった」
「……ん、うん……んっ」
俺の方が会いたかったはずなのに、そうも素直に言葉にされると、どうすればいいのかいつもわからなくなる。
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