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Ⅱ
9.妊娠検査薬
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いや馬鹿か、とうとうキスでも妊娠できる時代が到来したのか。彰永の頭ん中には。
「やっぱそっちの世界じゃラップ越しのキスが主流なの? 彰永ちゃん」
便座のフタに座って尋ねたが、集中すると目の前しか見えなくなる彰永のことで、全く聞いていなかった。
「できたとしたら最後にやったときかなあ。最近、体調に変わった所はない?」
「そうだな、タバコを吸いたくてたまらない」
「ええっ?」
頭の回転が鈍くて、ツッコミの才能がないヤツって本当に会話が通じなくて面白いよな。
真っ青になった彰永に俺は指示を出した。
「禁煙してくれてありがとうと言いなさい」
「う、うん。禁煙してくれてありがとう……」
心配らしく、彰永もトイレの中まで来た。
まあもし妊娠していたら俺は腹が爆発したり、口から赤ちゃんを吐いたりするらしいので、無理からぬことではある。
「で、俺に何をしろって」
「コレにおしっこかけるみたい」
「おい、急に訳わかんねえ嘘つくなよ」
「でも説明書にそう書いてあるんだ」
そんなバカな話があるかと説明書を見せてもらうと、なんと本当だった。
妊娠時分泌されるホルモンに試験紙が反応するそうだ。
生理周期がどうとか書いてあるが、うーむ。
まあ確かに生理は来てないから、可能性はあるんじゃないですかねえ。
俺はやれやれと立ち上がった。
便座のフタを上げる。
「彰永ちゃんは、自分のお嫁さんがおしっこするところを見たいんですか?」
背中を向けてジャージのウエストをほどく。
俺は彰永と違って賢いので、泥道は汚れてもいい恰好で歩く。
心配でたまらない彰永は「だって」と言う。
気が進まなかったが、俺は下着をおろした。
水洗であることが奇跡みたいな古くて狭い便所だ。
壁にも床タイルにもアンモニア臭が染みついていた。
彰永がドアに張りつくみたいになっても足が当たる。
通常運転なら彰永ちゃん専用便所だぞとか言ってエロく誘惑してやるところだが、今日はお嫁さんごっこをしている。
肌を晒すことが、ひどく恥ずかしかった。
急いで便座に座って検査薬を受け取る。
で、彰永と目が合う。俺は顔の前で手を払った。
「彰永、見られてると出ない」
「み、見てないよ」
慌てて手で目隠ししている。
クソッ。なんだよこの茶番は。
職場は女ばっかりで、便所で顔を合わせるとかいう状況がありえない。
男がいたところで、トイレの音を聞かれるとか考えたこともない。
でも今は彰永が目の前にいて、でかい体を縮めるようにして顔を手で隠している。
赤くなっちゃってまあ。
可愛い。
大好き。
勃っちゃった。
「うー……」
本気で泣きそうになっていると、彰永が指の間から、ちらっと俺を見た。
股の間に帽子くらい引っかけられそうな取っ手があるのを見て、おずおずと声を上げた。
「卯月……」
「見るな、バカ、見るなっ」
検査薬をナイフみたいに振って威嚇したが、彰永はかえって屈みこんできた。
最近、本当に俺の言うことを聞かない。
また許可なくキスしてくるし、俺のことを自分の所有物とでも思ってるのだろうか。
その上、バカは変わらずだから、もう手に負えない。
本気で俺に検査薬を使わせる気があるのなら、まずは、このギンギンになったびっくり棒を萎えさせるべきだろうよ。
なんでその逆を行く。キスをするな。舌を使うな。
なんで臭くて汚い便所で、こんな。
雨の音がしている。
便所の前の廊下は雨漏りするから、バケツを置いてあった。
一定のリズムで滴る音と、彰永と交し合う舌から立つ唾液の音が重なる。
もっと欲しい。ずっとこうしていたい。
だが、彰永は中腰だし、俺は俺でヤツの首に回した腕が痺れてくるし離れることになる。
剥き出しの股を彰永に見られたくなくて、スウェットの裾で覆う。
汗ばんだ手の中には検査薬がある。足の間にこんなのついている時点で検査結果なんてわかりきっているのに。
本当はお嫁さんにもお母さんにもなれないのに。
俺は一体、何をやろうとしているんだ。
「……もう、切っちゃうか」
「え?」
彰永がきょとんと聞き返す。
腹立ちまぎれの思いつきを口にしたのだが、その可愛い顔を見ていたら、急に物凄くいい考えのように思えてきた。
「何かと邪魔だし。この際、切っちゃおうぜ。彰永ちゃん、ハサミ持ってきてくれる?」
「何を言ってるの、卯月。ダメだよ」
「なんで。ぶった切れば赤ちゃんが出て来てくれるかもしれないだろ」
「卯月」
「こら、危ないから触るな」
「卯月。ダメだってば」
「触るなって言ってるだろ!」
ここまで大声を上げないと従わない。
俺が手で千切れないかと思ったチンポに、彰永は横から手を出そうとしていた。
絶対に触るなと言ってあった。
俺は宇宙人にさらわれて人体改造を受けた身なので、股についているコレも、チンポを模しているだけで実は重火器なのだ。
他人が勝手に触るとセキュリティシステムが起動してビームライフルに変身してしまう。
ハチの巣にされたくなければ触るな、と。
この脅迫は、ロボットオタク的にはかなり効いたみたいだった。ほんと可愛いヤツだ。
まあ普通に嘘なんだけども。
こんなのいじられたところで、どうせ射精できないのだから、変に触れられたくない。
おまけに俺は、彰永から女を抱く選択肢を奪ってセックスしているのだ。
いくら頭が悪いからって、こんなネンネの不思議ちゃんに変態のチンポをしごくような真似させたら、そいつはもう犯罪だろう。
ますます機戸ファミリーに顔向けできなくなってしまう。
汚い便所で、彰永が俺を抱きしめている。
便所のアンモニア臭さと彰永のにおいが鼻の中で混ざっていた。
光の反射で、壁の隅に蜘蛛の巣がかかっているのが見える。
もっとしっかり掃除をしなきゃダメだと俺は思った。
「彰永ちゃん、そう泣くなよ」
馬にするように脇腹を叩いてやった。勃起はとうにおさまっている。
耳の真横で彰永がぐすぐすと泣いているからだ。
ちょっと脅しが効きすぎたのかな。
ハチの巣にされるのがそんなに怖かったのだろうか。
ロボットアニメを見てもヒロインが死ぬ話で毎回泣いているし、そういう展開に弱いのかもしれん。
俺は彰永が悲しむのは耐えられないのだ。
そうだなあ。
今度泣き顔の写真でも撮らせてもらって、欲情しそうになったら拝むようにしようかな。
でもそんな罰当たりなことをしたら、しまいには泣き顔にも興奮するようになりそう。
うそ寒い想像にぶるっと背筋が震えてきた。
おしっこ出そう、と、耳元に囁いてやっと離れた。かわいそうに鼻水を啜っている。
涙を拭いている隙に俺は床に落ちた検査薬を拾い、ちょろちょろと細いおしっこをした。
「なんでザーメンとおしっこが同じとこから出るんだろうな。不便だ」
「……手から出たりする方が不便じゃない?」
「そりゃ傑作だ。右手からおしっこが、左手からザーメンが出たりするのか?」
「骨折したら困るね……」
「手を使った仕事は絶対に流行らないから、俺はクビだな。彰永ちゃん、養っておくれ」
そんな世の中では、パソコン仕事の彰永も失職は免れないと思うのだが、なにしろ馬鹿なので「任せておいて」と安請け合いされた。
そうそう、彰永ちゃんはそうやってオタクっぽいニヤけ面を晒していればいいのです。
なんかキャップをして、水平な所に置いておけば一分くらいで結果が出るらしい。
タイル床に転がして、股を拭く。
「でね、仕事が忙しくなるって言っただろ」
「ああ、うん」
「実は明日も午後から仕事なんだよネ……」
「えっ。本当?」
嘘に決まってんだろ、バカ。
「ウン。ごめんね……」
バカ、バカ、バーカ!
内心、悪態をつきながら申し訳ない顔を作って謝ると、彰永はとんでもないことを言った。
「じゃあ、明日は職場まで車で送って行くよ」
俺はジャージを穿き直していたが「ええ?」と笑い出してしまった。
「そりゃ面白いけど、彰永ちゃんの車で仕事に行って、俺はどうやって家まで帰るんだい」
「終わる頃にまた迎えに行くから」
「だめだよ、そんなの」
俺はへらへら笑いながら、水を流した。
「なんでだよ。俺、こう見えて運転うまいよ」
「そうだな。おまえは駐車が下手なだけだ」
こんな汚い便所はさっさと出たいのに彰永は気が利かないので、全然ドアの前をどいてくれない。
「心配なんだよ」などと優しいことを言う。
「卯月はさ、自分で自分のことを全然大事にしないだろ。体調も心配だし、俺は時間が許すぎりぎりまでおまえと一緒にいたいんだ」
「……じゃあ、そうだなあ。赤ちゃんできてたら、お願いしちゃおうかなあ」
もう一分は経っているだろう。
俺は検査薬を拾い上げた。
「彰永の赤ちゃんを妊娠してたら、死ぬかもしれないんだし、仕事なんてどうでもいいや。明日も明後日もその次もずっと彰永のそばにいる。もう絶対に離れない。夢のマイホームで赤ちゃんと一緒におまえが仕事から帰って来るのを待っててあげる」
検査薬の覗き窓に線が二本出たら陽性で、一本だったら陰性だそうだ。
真横にそう書いてあるし、さすがの彰永だってわかるだろう。
すっかりつらくなってしまって、俺は自分で結果を見られなかった。
ただでさえ生きづらい世の中なのだから、夢を見ることくらい自由にさせてほしい。
「はい」
彰永に渡した。
「やっぱそっちの世界じゃラップ越しのキスが主流なの? 彰永ちゃん」
便座のフタに座って尋ねたが、集中すると目の前しか見えなくなる彰永のことで、全く聞いていなかった。
「できたとしたら最後にやったときかなあ。最近、体調に変わった所はない?」
「そうだな、タバコを吸いたくてたまらない」
「ええっ?」
頭の回転が鈍くて、ツッコミの才能がないヤツって本当に会話が通じなくて面白いよな。
真っ青になった彰永に俺は指示を出した。
「禁煙してくれてありがとうと言いなさい」
「う、うん。禁煙してくれてありがとう……」
心配らしく、彰永もトイレの中まで来た。
まあもし妊娠していたら俺は腹が爆発したり、口から赤ちゃんを吐いたりするらしいので、無理からぬことではある。
「で、俺に何をしろって」
「コレにおしっこかけるみたい」
「おい、急に訳わかんねえ嘘つくなよ」
「でも説明書にそう書いてあるんだ」
そんなバカな話があるかと説明書を見せてもらうと、なんと本当だった。
妊娠時分泌されるホルモンに試験紙が反応するそうだ。
生理周期がどうとか書いてあるが、うーむ。
まあ確かに生理は来てないから、可能性はあるんじゃないですかねえ。
俺はやれやれと立ち上がった。
便座のフタを上げる。
「彰永ちゃんは、自分のお嫁さんがおしっこするところを見たいんですか?」
背中を向けてジャージのウエストをほどく。
俺は彰永と違って賢いので、泥道は汚れてもいい恰好で歩く。
心配でたまらない彰永は「だって」と言う。
気が進まなかったが、俺は下着をおろした。
水洗であることが奇跡みたいな古くて狭い便所だ。
壁にも床タイルにもアンモニア臭が染みついていた。
彰永がドアに張りつくみたいになっても足が当たる。
通常運転なら彰永ちゃん専用便所だぞとか言ってエロく誘惑してやるところだが、今日はお嫁さんごっこをしている。
肌を晒すことが、ひどく恥ずかしかった。
急いで便座に座って検査薬を受け取る。
で、彰永と目が合う。俺は顔の前で手を払った。
「彰永、見られてると出ない」
「み、見てないよ」
慌てて手で目隠ししている。
クソッ。なんだよこの茶番は。
職場は女ばっかりで、便所で顔を合わせるとかいう状況がありえない。
男がいたところで、トイレの音を聞かれるとか考えたこともない。
でも今は彰永が目の前にいて、でかい体を縮めるようにして顔を手で隠している。
赤くなっちゃってまあ。
可愛い。
大好き。
勃っちゃった。
「うー……」
本気で泣きそうになっていると、彰永が指の間から、ちらっと俺を見た。
股の間に帽子くらい引っかけられそうな取っ手があるのを見て、おずおずと声を上げた。
「卯月……」
「見るな、バカ、見るなっ」
検査薬をナイフみたいに振って威嚇したが、彰永はかえって屈みこんできた。
最近、本当に俺の言うことを聞かない。
また許可なくキスしてくるし、俺のことを自分の所有物とでも思ってるのだろうか。
その上、バカは変わらずだから、もう手に負えない。
本気で俺に検査薬を使わせる気があるのなら、まずは、このギンギンになったびっくり棒を萎えさせるべきだろうよ。
なんでその逆を行く。キスをするな。舌を使うな。
なんで臭くて汚い便所で、こんな。
雨の音がしている。
便所の前の廊下は雨漏りするから、バケツを置いてあった。
一定のリズムで滴る音と、彰永と交し合う舌から立つ唾液の音が重なる。
もっと欲しい。ずっとこうしていたい。
だが、彰永は中腰だし、俺は俺でヤツの首に回した腕が痺れてくるし離れることになる。
剥き出しの股を彰永に見られたくなくて、スウェットの裾で覆う。
汗ばんだ手の中には検査薬がある。足の間にこんなのついている時点で検査結果なんてわかりきっているのに。
本当はお嫁さんにもお母さんにもなれないのに。
俺は一体、何をやろうとしているんだ。
「……もう、切っちゃうか」
「え?」
彰永がきょとんと聞き返す。
腹立ちまぎれの思いつきを口にしたのだが、その可愛い顔を見ていたら、急に物凄くいい考えのように思えてきた。
「何かと邪魔だし。この際、切っちゃおうぜ。彰永ちゃん、ハサミ持ってきてくれる?」
「何を言ってるの、卯月。ダメだよ」
「なんで。ぶった切れば赤ちゃんが出て来てくれるかもしれないだろ」
「卯月」
「こら、危ないから触るな」
「卯月。ダメだってば」
「触るなって言ってるだろ!」
ここまで大声を上げないと従わない。
俺が手で千切れないかと思ったチンポに、彰永は横から手を出そうとしていた。
絶対に触るなと言ってあった。
俺は宇宙人にさらわれて人体改造を受けた身なので、股についているコレも、チンポを模しているだけで実は重火器なのだ。
他人が勝手に触るとセキュリティシステムが起動してビームライフルに変身してしまう。
ハチの巣にされたくなければ触るな、と。
この脅迫は、ロボットオタク的にはかなり効いたみたいだった。ほんと可愛いヤツだ。
まあ普通に嘘なんだけども。
こんなのいじられたところで、どうせ射精できないのだから、変に触れられたくない。
おまけに俺は、彰永から女を抱く選択肢を奪ってセックスしているのだ。
いくら頭が悪いからって、こんなネンネの不思議ちゃんに変態のチンポをしごくような真似させたら、そいつはもう犯罪だろう。
ますます機戸ファミリーに顔向けできなくなってしまう。
汚い便所で、彰永が俺を抱きしめている。
便所のアンモニア臭さと彰永のにおいが鼻の中で混ざっていた。
光の反射で、壁の隅に蜘蛛の巣がかかっているのが見える。
もっとしっかり掃除をしなきゃダメだと俺は思った。
「彰永ちゃん、そう泣くなよ」
馬にするように脇腹を叩いてやった。勃起はとうにおさまっている。
耳の真横で彰永がぐすぐすと泣いているからだ。
ちょっと脅しが効きすぎたのかな。
ハチの巣にされるのがそんなに怖かったのだろうか。
ロボットアニメを見てもヒロインが死ぬ話で毎回泣いているし、そういう展開に弱いのかもしれん。
俺は彰永が悲しむのは耐えられないのだ。
そうだなあ。
今度泣き顔の写真でも撮らせてもらって、欲情しそうになったら拝むようにしようかな。
でもそんな罰当たりなことをしたら、しまいには泣き顔にも興奮するようになりそう。
うそ寒い想像にぶるっと背筋が震えてきた。
おしっこ出そう、と、耳元に囁いてやっと離れた。かわいそうに鼻水を啜っている。
涙を拭いている隙に俺は床に落ちた検査薬を拾い、ちょろちょろと細いおしっこをした。
「なんでザーメンとおしっこが同じとこから出るんだろうな。不便だ」
「……手から出たりする方が不便じゃない?」
「そりゃ傑作だ。右手からおしっこが、左手からザーメンが出たりするのか?」
「骨折したら困るね……」
「手を使った仕事は絶対に流行らないから、俺はクビだな。彰永ちゃん、養っておくれ」
そんな世の中では、パソコン仕事の彰永も失職は免れないと思うのだが、なにしろ馬鹿なので「任せておいて」と安請け合いされた。
そうそう、彰永ちゃんはそうやってオタクっぽいニヤけ面を晒していればいいのです。
なんかキャップをして、水平な所に置いておけば一分くらいで結果が出るらしい。
タイル床に転がして、股を拭く。
「でね、仕事が忙しくなるって言っただろ」
「ああ、うん」
「実は明日も午後から仕事なんだよネ……」
「えっ。本当?」
嘘に決まってんだろ、バカ。
「ウン。ごめんね……」
バカ、バカ、バーカ!
内心、悪態をつきながら申し訳ない顔を作って謝ると、彰永はとんでもないことを言った。
「じゃあ、明日は職場まで車で送って行くよ」
俺はジャージを穿き直していたが「ええ?」と笑い出してしまった。
「そりゃ面白いけど、彰永ちゃんの車で仕事に行って、俺はどうやって家まで帰るんだい」
「終わる頃にまた迎えに行くから」
「だめだよ、そんなの」
俺はへらへら笑いながら、水を流した。
「なんでだよ。俺、こう見えて運転うまいよ」
「そうだな。おまえは駐車が下手なだけだ」
こんな汚い便所はさっさと出たいのに彰永は気が利かないので、全然ドアの前をどいてくれない。
「心配なんだよ」などと優しいことを言う。
「卯月はさ、自分で自分のことを全然大事にしないだろ。体調も心配だし、俺は時間が許すぎりぎりまでおまえと一緒にいたいんだ」
「……じゃあ、そうだなあ。赤ちゃんできてたら、お願いしちゃおうかなあ」
もう一分は経っているだろう。
俺は検査薬を拾い上げた。
「彰永の赤ちゃんを妊娠してたら、死ぬかもしれないんだし、仕事なんてどうでもいいや。明日も明後日もその次もずっと彰永のそばにいる。もう絶対に離れない。夢のマイホームで赤ちゃんと一緒におまえが仕事から帰って来るのを待っててあげる」
検査薬の覗き窓に線が二本出たら陽性で、一本だったら陰性だそうだ。
真横にそう書いてあるし、さすがの彰永だってわかるだろう。
すっかりつらくなってしまって、俺は自分で結果を見られなかった。
ただでさえ生きづらい世の中なのだから、夢を見ることくらい自由にさせてほしい。
「はい」
彰永に渡した。
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